第五話 探し人
(よしっ……! ごちゃごちゃ考えていても仕方ねぇ)
次の日、学校で昼間は意を決して夜との会話を試みた。なぜなら昼間は気になってしょうがなかったからだ。
(昨日、アイツが見たオレの姿は一体、何だったのか……オレが思っていることと本当に一致してるのか……あ、あと、それともう一つ――)
しかし、今日一日夜は授業が終わるとすぐ、教室からすぐに去ってしまった。
おまけに今日は選択科目や教室移動が頻繁にあったため、あまり話かけるチャンスが少なかった。
・2限終わり
「夜!――」
昼間が夜に話かけた。
〝シュッ!〟
夜はすぐさま廊下を曲がった。
・昼休み
「夜――」
〝シュッシュッ!〟
夜は人込みを華麗に避けていった。
・放課後
「ヨ――」
〝シュッシュシュ‼〟
クラスメイトを華麗に避けてから教室を出ていった。
「……アァ‼ もうなんなんだよ‼ アイツー‼」
昼間の怒声が廊下に響き渡った。
「えっ……なになに?」
「びっくりしたぁ……」
昼間の怒声に対して、周りにいた女子生徒たちがヒソヒソと話しながら、昼間に冷たい視線を向けた。
(アイツ……無駄に人気が多いところをやたら通って行くし……完全にオレのこと避けてるよな……)
昼間は「はぁ……」ため息をついた。
(今日は委員会の集まりと、水泳部のミーティングがあるからこれ以上、追いかけられねぇな……アイツは……部活入ってんのか分かんねえし……確か委員会には所属していなかったはずだから……さっきの様子だともう帰ったのかもしれねぇな……)
「はぁ……」
昼間はまたもやため息をついた。
「おつかれー」
「おつかれっす」
昼間は水泳部のミーティングが終わったとき、スクールバックの中をゴソゴソと漁っていた。
「あれ? ない?」
昼間は不思議そうに呟いた。
(夜じゃねぇけど家の鍵、教室に忘れてきたかもな……)
昼間はそう思い立ち、家の鍵を取りに教室まで戻ってきた。そして昼間は自分の机の中に手を突っ込み左右に動かすと「ジャラッ」と音が鳴った。
「あ、あった」
昼間は家の鍵を机から取り出した。
(はぁ、少し帰るのが遅くなったな……)
昼間はそう思いながらズボンのポケットに家の鍵を突っ込んだ。
その時――
「なぁ、あのメガネやばくね?」
「なにが?」
「……!」
昼間の後ろにいたクラスメイトの男子生徒二人の会話が昼間の耳に入ってきた。
「いや、お前も見ただろ? 昼休みに長田たちが、あのメガネ囲んでたの」
「ああ、それがどうしたんだよ?」
「お前、聞こえなかったのか? 長田たち、あのメガネに『放課後ちょっと面かせや』って言っていたんだぜ! ありゃまずいぜ、長田たちは色んな不良グループとつるんでいるって、ウワサもあるしよ」
「はは、アイツも終わったな。気の毒に……」
「オイ‼」
昼間は咄嗟に後ろを振り返り、クラスメイトの男子生徒二人に声をかけた。
「「うおっ‼」」
昼間から急に声をかけられた二人はギョっとした。
しかし昼間はそんなことはおかまいなしに二人に尋ねた。
「それって、もしかして夜か⁉」
「夜って誰?」
「あ~……え、あれだ。ほら、あそこの一番端の席の奴だよ。」
そう言ってクラスメイトの一人が教室の黒板と窓に挟まれた前方の一番端の席を指さした。
昼間は夜のことだと確信した。
昼間はふと後方のロッカーに目をやるといつも放課後になっても遅くまで、ベラベラとだべっている長田たちの姿が見当たらないことに気づいた。
「……ソイツら、夜を放課後どこに呼び出したか知っているか?」
「いや…そこまでは……」
クラスメイトの男子生徒は首をかしげながら言った。
「そうか……サンキュな」
「いやどこに……! ……って聞いてねぇな……」
昼間はすぐさま教室を勢いよく飛び出していった。
(……ったく‼ 面倒事、増やしやがって……! 無事でいてくれよ……! 夜……‼)
* * * * *
(うぅ……どうしよう……)
放課後、夜は重い足取りで、長田たちに呼びだされた場所まで向かっていた。
あれは昼休みのことだった。
「はぁぁぁぁぁ………」
夜は廊下でこの世の終わりのようなため息をついた。
その顔はまるで病人のように血色が悪くなっていた。
「ねぇなにアレ?」
「さぁ……?」
夜と廊下ですれ違った女子生徒たちは、冷ややかな視線を夜に向けた。
(もう、ホントにどうすればいいの? 昨日、昼間くんの本当の姿を知っちゃったし……絶っっ対、知られたくないやつだったよね……いや……知ってはいけなかったこと。と言ったほうが正しいかもしれない……。はぁ……おばあちゃんの話は本当だったんだ……いや! 別に、昼間くんは確かにそうかもしれないけど……人を襲ったりは……しない……よね? いや、でも、疑ってる時点で僕は……はぁ……つい昨日の今日で、昼間くんのこと避けちゃうし……僕が、『占いたい!』なんて言ったばかりに……はぁ、まず謝らないとだよね‼ ……でも……勇気が出ない……)
「はぁぁぁ……」
苦悩とため息の無限ループが夜を襲った。
夜はそのまま廊下の突き当りを曲がったその時――ドンッ! と前から来た生徒とぶつかってしまった。
「痛っ! す、すみません!」
夜は一言謝ってその場を去ろうとした。
その時、急に何者か自分の肩をにガシッと掴まれた。
夜は不思議に思って、顔を見上げたその瞬間、息を呑んだ。
「あ~見ーつけた♡」
そう気持ち悪い声で言ったのはまさかの長田だった。
長田は西本、杉野の他にプラスで取り巻きを二人従えていた。
夜の肩に感じる長田の体温が夜の体をジワリと蝕んでいく。
夜はこの気持ち悪さから抜け出したい一心で、必死に自分の口を動かした。
「あ、ぶ、ぶつかってしまったのは、ごめんなさい。ぼ、僕、用事があるので……」
夜はおどろおどろしく言ったあと、すぐにその場を離れようとした。
用事なんてあるわけなかったが。
「ヒッ……!」
「まぁまぁ、そんな怯えんなよ」
去ろうとする夜の肩に長田は腕を回した。
そして夜が瞬きする間に、周りにいた取り巻ききの不良たちはあらかじめフォーメンションが決 まっていたのかのように夜を取り囲んだ。
まるで肉食動物が獲物を逃がさないように包囲するかのように。
「オレは、ただ、落とし物を届けに来ただけだってぇ~」
長田の語尾が気持ち悪く伸びる。
「ほら、これ♡」
そう言って、長田はあるものを夜の目と鼻の先に出してきた。
「……!」
夜は、それを見てはっとした。
長田が出してきたものはなんと、夜がなくしていたはずのタロットカードだった
「待って、なんであなたが持ってるんですか?」
「いや、だから落ちていたから拾ったんだって」
「……」
(今日の朝、自分の机の中を探したけど見当たらなかったから、どこかで落としたとは思っていたけど……まさか、この人が拾っていたなんて……!)
夜はついていない顔をした。
「あ、ありがとうございます。拾ってくれて」
夜はカードケースに手を伸ばした。
しかし、カードケースがひょいっと上に移動し、夜の手は空を掴んだ。
「……」
夜は、また取ろうと試みるが今度は横に動いた。
「……なんですか?」
夜は嫌悪な眼差しを長田に向ける。
「なんだよ拾ってやったのに、そんな粗暴な態度取っちゃっていいのか? 返してやらないぞ? そんな態度取るなら」
夜は、歯を食いしばった。
「……っ……! いいから、返してください!」
夜は精一杯丁寧な言葉で長田に言った。
「これがそんなに大事かね?」
長田のその嫌味ったらしく言った発言に取り巻きたちはクスクスと笑った。
そして長田は、ニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべてこう言った。
「これが、そんなに欲しけりゃ、放課後……ちょっと面かせや」
「え?」
夜は目を見開いた。
「場所は『――』だ。あと、このことは誰にも言うなよ、特に昼間にはな……!」
と夜の耳元でつぶやいてから長田たちはその場を去って行った。
要するに、誰かに告げ口でもしたら、タロットカードは戻ってこない。ということは暗黙の了解というわけだった。
夜は茫然と立ち尽くしていたが、長田が触れた肩の部分だけ、手で払うのは忘れなかった。
そして、今に至る。
長田に指定された場所。
それは――
(えっと……ここでいいのかな?)
『月見川の河川敷』だった。おまけに、「高架橋の下」という。
(こんなところ! どう考えても、リンチ目的の場所だって!)
「はぁ……」
夜は在らぬ想像ばかりしてしまい、長田たちを待っている間生きた心地がしなかった。




