第三話 正面突破
「うわぁ……マジかよ」
昼間は自分の上履きがないことに気づいた。
近くの自動販売機横のゴミ箱にあった。
昼間は自分の教科書がないことに気づいた。
廊下のゴミ箱にあった。
よく見ると教科書は以前よりも少し痛んでいた。
昼間は自分が履いてきたスニーカーがないことに気づいた。
自動販売機に突っ込んであった。
さすがにこれは雑だな。と内心笑っていた。
笑うしかなかった……。
(はぁ……もう、いちいちどこかにやられるのはめんどくせぇから、もう持ち歩くか……二度あることは三度あるって言うしな)
と思った矢先のことだった。
「あ……やべッ! 忘れた!」
(はぁ……馬鹿だなぁ、オレ……)
翌日
「ぜぇ……ハァッ……‼」
昼間は朝から全力疾走を決め込んでいた。
(やべぇ‼ 遅刻する‼)
(今日も、上履き取られてるかもなー、クソッ、アイツらどんだけ暇なんだよ!)
昼間は学校に到着し、自分の下駄箱を開けると、そこには……「昼間」と書かれた上履きがきちんと揃えられて置いてあった。
(ん? あるな……今日は気分じゃなかったのか?)
放課後、教科書は昨日の通りゴミ箱に捨てられていた。
むしろ前よりひどくなっていた。教科書三冊とも全体的に切り裂かれ、うんこの絵がおまけで描かれていた。
(こういうやつって税金で賄われているのアイツら知らないのか? 意外とオレへのダメージが少ないのアイツら気づいてないだろ)
昼間はそんなことを思いながら教室に戻ろうと廊下を歩いていた。
(うわぁ中の方まで切り裂かれているな……どうすんだよこれ……)
昼間は教室の前方の扉から教室に入ったときズタボロの教科書に視線を落としていた。
その時、前から長田たちが何やら、くっちゃべりながら歩いてきた。
「お前手洗えよ!」
「ははっ! おらおら!」
「触んなよ! 汚ねぇって!」
長田は吉川の手を大げさによけた。
するとたまたま横を通りかかった昼間に長田は自分の体を思いっきりぶつけた。
「……!」
その拍子に昼間が持っていた教科書がバラバラと床に散らばった。
「チッ邪魔だよ、おまえ!」
長田は出あいがしらに昼間の頬を殴るような冷たい口調で言い放った後、その場を去ろうとした。
一緒にいた西本と杉野も、昼間の方を見てヘラヘラと笑いながら長田の後をついて行った。
「……」
昼間は黙ったまま、腰を下ろし落ちた教科書を拾おうと手を伸ばした。
すると、昼間の手が教科書に届く前に、何者かが教科書に手を伸ばしてきた。
昼間は、ふと顔を見上げるとそこには一昨日カードを落としていた、メガネをかけた男子生徒の姿があった。
「……! え、えっ、ちょ……」
昼間は驚いた。と同時に戸惑った。
なぜならメガネをかけた男子生徒は昼間の教科書を昼間よりも素早く、てきぱきと無駄のない動きで拾いあげたからだ。
メガネをかけた男子生徒は教科書三冊を拾い終わるとすぐさま立ち上がって、教科書を持った手を昼間の方に伸ばしてきた。
「……!」
それを見て昼間もつられて立ち上がった。
そして昼間は「サ、サンキュ」とぎこちなく礼を言いながら教科書に恐る恐る手を伸ばした。
すると、メガネをかけた男子生徒は黙ったまま、また床にかがんで教科書の束を床にそっと置いた。
「えっ」
昼間はまさかそう来るとは思わず口をぽかんと開けた。
メガネをかけた男子生徒はそのまま、昼間には目もくれず教室を去ろうとしていた長田たちに声をかけた。
「あの……なんで……拾わないんですか?」
その声はほんのわずかに震えていた。
「あぁ? なんのこと?」
長田は容赦なくメガネをかけた男子生徒を睨みつけた。
メガネをかけた男子生徒は長田の威圧に負けないようにと、自分の制服のズボンの裾をシワになるくらいに強く握った。
「あ、あなたたちは……友達ではないんですか?」
「はあ? なに言ってんだ?」
「……」
長田の呼びかけに対し、メガネをかけた男子生徒は長田をじっと見つめたまま黙り込んでしまった。
すると突然長田は態度を変えた。
「ダチに決まっているだろうよ‼ なあ‼」
と言って杉野と西本にアイコンタクトをとった。
「……あぁ? あ、あぁ……! そうだな!」
「そ、そうそう‼ 昼間とはズッ友よ!」
二人は長田の言葉に戸惑いながらも、長田の話に無理やり合わせた。
「いや、それはキモイわ」
しかし、西本の行き過ぎた過ぎた発言に、長田は妙に冷静にツッコんだ。
「こんなのただのお遊びだっつーの‼ 俺らの友情がどこまで試せるかっていうな‼」
「ぁ……」
長田の清々しいほどふざけた発言に、昼間は怒りを通り越して声も出ないほど呆れてしまった。
〝ゴミ箱に捨てられた自分の上履き〟〝自販機に突っ込んであったスニーカー〟〝切り裂かれた教科書〟これのどこがお遊びなのだろう? 昼間は疑問でしかなかった。
そしてフリーズしていた昼間を差し置いて、メガネをかけた男子生徒は少しうつむきながらも口を開けた。
「違う……」
「え?」
「これは、お遊びなんかじゃない…………っただのイジメだ……‼」
メガネをかけた男子生徒は床に向けていた視線をゆっくりと長田に向けながら言った。
「……!」
昼間はその言葉を聞いて心がぐらっと揺れた。
「あ、あなた達の詳しい事情は知りませんが、どんな理由があろうと……友達の上履きを自販機の中に突っ込んだり、教科書を傷つけた上に、ゴミ箱に捨てたりは絶対にしないッ……‼」
「……ッ」
その言葉に昼間は目頭がふつふつと熱くなるのを感じた。
しかし、長田はその発言を蔑ろにするかのように、品の欠けらもなく小指で耳をポリポリとかき始めた。
「はあ……いや、お前関係ないだろ。部外者がしゃしゃってんじゃねぞこら。チッ、めんどくせぇな、つか、お前だって結局コイツの教科書拾ってやらねーじゃん、なに? この前の仕返しか? しょーもな、なあ? 昼間もそう思うよな?」
そう言いながら長田は昼間のもとへ寄り、昼間の肩に腕をまわした。
「マジでさっきの冗談だからさ、ごめんな? オレたちが悪かったよ、許してくれ! な‼ つーかアイツお前の知り合い? やたらお前に突っかかってくるじゃねーか、キメェよなーそれにこの前は変なカードいじっていたし、前から変な奴だとは思っていたけど、ここまでとは……お前も人をおちょくるのは、ほどほどにしろよな‼」
長田は陽気に昼間に話しかけたが昼間は一言も言葉を発しなかった。
「……よし! これからカラオケでも行くか! みんなで反省会でもしようぜ! 俺も悪かったが、もとはといえば昼間が悪ーんだからな!」
沈黙したままの昼間を見かねた長田は空気を切り替えるつもりで反省会というものを提案した。
すると、それに続いて西本と杉野も
「お‼ いいな、カラオケ‼」
「俺の美声が轟くぜぇぇ‼」
と乗り気の様子で言った。
「よし! それじゃあ! 決まりな――」
「――おい」
「ん? なんだ?」
急に口を開いた昼間に長田は身動きを止めた。
「腕……どかせ」
昼間は最小限の単語で長田に命令した。
昼間はうつむいていたため長田から昼間の表情はよく見えなかった。
「え~なんで――」
長田がそう言いかけたとき、突然、昼間の瞳孔がギロリと長田の方を睨みつけた。
「――いいから――どかせっつってんだろーが」
昼間はドスの利いた声で長田に言い放った。
するとその時、「ヒッ……‼」と長田は息を呑んだ。
長田は……昼間、いや、得体のしれない何かに自分の精神をえぐられるような殺気に突然襲われた。
ヤツの目は「腕をどかさなかったら殺す」と言っているようなものだった。
長田はすぐさま、昼間の肩から勢いよく離れた。
そして、長田は勢い余って、「ガタッ!」と近くの机に自身の尻を勢いよくぶつけたうえに、さっきまでの余裕を持て余したような長田の態度が一変、体を小刻みに震わせ、野ネズミのように怯えた姿になってしまった。
その長田の様子に西本と杉野は困惑し、ただ二人とも「長田?」と心配することしかできなかった。
「……?」
メガネをかけた男子生徒も同様に状況が理解できず呆然としていた。
しかし、昼間は長田・杉野・西本(三人)のことは、まるでおかまいないしに、一切、気にも留めず、床に置かれた自分の教科書三冊を拾い上げた後に「行こーぜ」と言ってメガネをかけた男子生徒の 手首を引っ張り教室前方の出口までまっすぐ歩いて行った。
メガネをかけた男子生徒は「え、えっ?」戸惑いながらも昼間に少し強引に引っ張られるままに教室を後にした。




