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第一話 落とし物

 キーンコーンカーンコーン――キーンコーンカーンコーン――

「腹減ったー」

「飯だ! メシー!」

「あんた、授業中寝ていたでしょ!」

「あはっ! バレた~♡」

 東京都立十六夜(いざよい)高等学校の二年一組の教室は四限の終わりを知らせるチャイムとともに男子生徒たちの腹減ったコールと女子生徒たちの授業中寝ていました自慢でごった替えしていた。

 しかし、そんな騒がしい教室とは裏腹に、教室の黒板と窓に挟まれた片隅の席だけは静寂な空気に包まれていた。

 その席には、制服のボタンをきっちりと留めた黒髪で黒縁(くろぶち)の丸いメガネをかけた男子生徒が座っていた。

 彼の手にはトランプより一回り大きいサイズで裏面の惑星と目玉が融合したような絵柄が特徴的なカードの束が握られていた。

 メガネをかけた男子生徒は机上(きじょう)をめいっぱい使ってそのカードをかきまぜたあとに散らばったカードを一か所にかき集めて一つの束にすると、さらにカードの束を手際よくカットした。

 そして、そのカードの束の上から六枚を机の右端によけ、カードの束を机に置いた。そして彼はカードの山から一枚、二枚、三枚、とすべて上下が変わらないように表にめくって一枚目を左側に、二枚目を真ん中に、三枚目を右側に、横一列になるように机上に並べた。

 その時、茶髪の男子生徒がメガネをかけた男子生徒の机の横を通りかかった。

 彼はメガネをかけた男子生徒の机上を軽く覗いた(のち)、そのままの足取りで教室の(のち)方のロッカーのあたりを大幅に占拠している不良グループのもとに向かって行った。

 彼はそこに到着すると彼は開口一番にこう言った。

「さっき、トイレ帰ってくるときさーアイツの机チラッと見えたんだけど、なんか気持ち悪いカードを机に並べててさ……!」

 茶髪の男子生徒はメガネの男子生徒の方に親指を向けながら信じられないものを見た。と言った口ぶりで話し始めた。

「ん? どういうカードだったんだ?」

 彼の話にグループのリーダー格の男子生徒の口が、パックジュースのストローから離れた。

「一瞬しか見えなかったけど、なんか……背を向けたおっさんのカードと、人が落ちているカードと……あとヤバいのは、死神! 死神がいたんだよ‼」

 とんでもないのを見てしまった! という顔で茶髪の男子生徒は皆に訴えるように言った。

 すると、その話を聞いた取り巻きたちは一斉にざわつき始めた。

「うわ~なんだよそれ」

「きぃもちわりぃ、中二病かよ」

「ははっどうせ死神しか友達いないんだから、そんなこと言ってやんなよ!」

「おいッ! バカ! 聞こえるぞ‼」

 取り巻きたちは終始半笑いで口々にメガネをかけた男子生徒を冷やかし始めた。

 最初は申し訳程度に落としていた不良たちの声量もだんだんアップし、その盛り上がりが最高潮になった時、その冷やかしのターゲットは途端に机に並べていたカードをそそくさと片づけ、もと入っていたであろうプラスチックのカードケースの中にカードの束をしまった。そして自分の制服のズボンのポケットの中に乱暴に突っ込んでからすぐさま彼は「ガタッ」と音を立てて自席を立ち上がった。

 そしてメガネをかけた男子生徒は自分のお弁当箱が入った包みを片手に持ち、教室の前方の出口に向かってまっすぐ歩きだした。

 その時、教室前方の入り口から男子生徒が廊下から入ってきた。

 彼は毛先がオレンジがかった長髪の金髪をハーフアップに結わき、両耳と口にトータルで十数個ものピアスをつけている。

 さらに、制服を気崩し、ブレザーは肩にはかけず両腕にだけ通し、ブレザーはやる気なさそうにだらんと自分の尻が隠れるくらいまで垂れていた。

 金髪の男子生徒は片手に持ったスマホを慣れた手つきでポチポチといじっているため彼がメガネをかけた男子生徒に気づく素振りは全くなく歩が止まる様子もない。

 同様にメガネをかけた男子生徒も、顔をうつむかせていたため、前から来た金髪の男子生徒に気づく素振りを見せずスタスタと歩き続けた。

 すると二人がすれ違った。その瞬間――

〝ドンッ!〟

 お互いの体がぶつかり合った。

「うわ!」

「うおっ」

 二人が驚いたと同時に、メガネをかけた男子生徒のポケットから、さっき彼が慌てて入れたカードケースが、カンッ――と音を立てて床に落ち、バラバラバラッと中身のカードが床一面に散らばった。

「あっ、ごめん……」

 メガネをかけた男子生徒は申し訳なさそうに謝罪したあとに、床にかがんで散らばったカードを拾い集め始めた。

 すると、彼が拾っている最中、彼は自分ではない誰かの手が床に散らばったカードに手を伸ばしていることに気づいた。

 メガネをかけた男子生徒が顔を上げるとその手の人物は、さっきぶつかった金髪の男子生徒だった。

 メガネをかけた男子生徒は彼の親切な行動に目を丸くした。

 そして、床に落ちたカードを二人で全て回収し終わると、金髪の男子生徒がしゃがみながらちょい、ちょい、とメガネをかけた男子生徒に向かって人差し指を動かした。

 メガネをかけた男子生徒は最初、え? と思ったが、彼がこちらの持っているカードを指さす手振りで理解した。

「お前の持っているカード渡せ」と彼は言っているのだろう。

メガネをかけた男子生徒はそう解釈した。

 確かに、彼が拾ったカードの枚数は自分のより多いということが、目視で確認できた。そのためメガネをかけた男子生徒は流れるままに、カードケースと拾ったカード達を金髪の男子生徒に、「は、はい」と言って手渡した。

 すると金髪の男子生徒は立ち上がった。

 メガネをかけた男子生徒もつられて立ち上がり、彼のとる行動をじっと観察していた。

 すると、金髪の男子生徒は拾ったカードの向きをすべて整えてから、カードケースの中にしまった(のち)、カードケースを持った手を「ん」と言ってメガネをかけた男子生徒の前に差し出した。

 メガネをかけた男子生徒は少々戸惑いながらもカードケースに手を伸ばした。

「あ、ありがと――」


〝――—カンッ――――バラバラバラバラバラッ――――!〟


 彼の言葉を(さえぎ)るように、また聞き覚えのある音がメガネをかけた男子生徒の耳に飛び込んだ。

 カードケースは床に落ち、さっきと同じように、中に入っていたカードが床に散らばっていた。

「あ、わるい」

 その悪気が皆無な声がメガネをかけた男子生徒の鼓膜を貫いた。メガネをかけた男子生徒は嫌な予感がしながらも、恐る恐る金髪の男子生徒の方に目をやった。

すると彼は嘲るような口調で続けてこう言った。

「手が……滑ったわ」

 金髪の男子生徒は、のりで貼り付けたような笑みを浮かべ、くすんだ琥珀(こはく)(いろ)の瞳でメガネをかけた男子生徒を見据えていた。

 そして金髪の男子生徒はメガネをかけた男子生徒の耳元まで近づき

邪魔(じゃま)だからどけよ」

と舌先に氷を載せたような冷たい口調で言い放った(のち)、メガネをかけた男子生徒の肩にドンッと自分の肩をわざとらしくぶつけた(のち)、その場を去って行った。

 彼の行先(いきさき)は案の定、教室の(のち)方のロッカーのあたりでたむろっている不良グループの()の中だった。

 その不良たちはメガネをかけた男子生徒の方を時折(ときおり)チラチラと見ながら、ニタァと歪んだ笑みを浮かべていた。

「…………」

 メガネをかけた男子生徒は、一人で黙々と床に散らばったカードをまた一から拾い集めそれらをカードケースにしまった。

 彼は、今度はカードケースを制服のズボンのポケット奥深くにしまった。

 そして、さっきよりもうつむきながら教室を足早に去って行った。

 その様子を金髪の男子生徒は、なんとなくチラッと横目に見ていた。

(そういえば、アイツ……名前なんだっけ?)



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