第十四話 母との約束
長田たちは止まっていた救急車で手当てをされた後に全員、警察車両にのせられた。
夜も同様に救急車で手当てを受けていた。
「お、もう大丈夫なのか?」
外で待っていた昼間は夜が救急車から降りてきたことに気づき夜に声をかけた。
「うん! 軽傷だよ!」
「ははは……軽傷ね」
昼間は苦笑いで言った。
「アザと擦り傷くらいで済んだから、まだ良かったよ」
「そうか……」
昼間と夜はごたごたしている警察が落ち着くまで近くにあった河川敷に設置されたベンチで一息つくことにした。
「でも、一時はどうなるかと思ったよー!」
「ん?」
「ほら、さっき、長田くんがバラそうとしていた……」
夜は小声で昼間に耳打ちした。
「あぁ、あれね」
「でも、昼間くんのファインプレーでなんとかなって、本当よかった!」
「別に、大したことじゃねぇよ。そもそも、あの言い訳は母さんから教えてもらったことだし」
「え、昼間くんのお母さんから⁉」
「あぁ」
「確かに、昼間くんのお母さんも人狼か……」
「いや、人間だぞ?」
「え、そうなの⁉」
「あれ、言ってなかったか? 母親は普通の人間で、父親が人狼だって、あ、ちなみに兄貴は人狼な」
「へぇ、そうなんだ」
「オレは、昔から母さんに言われててたんだ……」
昼間は一番初めに母親から注意されたときのことを話し始めた。
「いい? 明?」
昼間の母「明美」は四歳の明に向かって腰を下ろし、明に目線を合わせながら言った。
「人前では決して、狼の姿になってはダメよ」
「ん? なんで?」
明は不思議そうに明美に聞いた。
「みんなは、明が急に狼の姿になったらびっくりするでしょう? もしかしたら明のこと怖いと思う人もいるかもしれないしね」
明美は訳を淡々と明に話した。
すると明は「うん! 分かった!」と素直に返事をした。
「でも、もし、おれがじんろうってもしバレたらどうすればいい?」
明は不安そうに母に尋ねた。
「んーバレるって言っても……見られた場合はーコスプレって言って押し通しなさい!」
「こすぷれ? それでなんとかなるの?」
明は本当に? と言いたげな顔で母親を見た。
「うん、一応……まぁそれでも誤魔化しきれなかったら……自分は人間だと言い張りなさい。誰に何を言われてもね。さすがに、明が狼になったときの姿を見た人はごまかせないだろうけど、狼の姿を見ていない他の人からの信用さえ得られればいいわ」
「ん? どういうこと?」
「例えば明と仲のいいB君がいます。」
「うん」
「B君は明が狼に変身したところを見てしまいました。」
「B君はそのことをパパとママに教えました。」
「それを聞いたB君のパパ、ママは本当に明が狼に変身したのか確かめに明の家を訪ねました。」
「すると、そこにはニンゲンの姿の明がいました。」
「B君のパパとママは明に聞きました。」
『君は人狼なのかい?』
「明はそれにこう答えます。」
『いや、僕はニンゲンだよ!』
「すると、B君のパパ、ママはこう考えます。」
(たしかにな……明くんはどこからどう見ても人間だ……人狼ではない‼)
「ってね! これで、明の正体を知っている人はBくんただ一人! つまり! 自分の正体を知っている人を最小限に抑えられるのよ!」
「なるほど‼ ママ頭いい‼」
「でしょ!」
(まぁホントはうちの夫がやっていたごまかしかたなんだけどね……)
「でも……Bくんしんじてもらえなくてかわいそう……」
明はしょんぼりした顔で言った。
「……確かにそう、かもね……でも、それはBくんが狼の姿になった明を見て、怖がったり、嫌な言葉を明に言ったりした場合だから!」
「……‼」
「明の友達なら人狼のこと受け入れてくれてくれるかもしれないわ」
「……!」
「もし、もしね! そういう人がいたらごまかす必要はないからね」
明美は明に優しく笑いかけた。
「うん……! 分かった、ママ‼」
明は明美の言ったことを幼いながらに自分の胸に刻んだ。
「へぇ……なるほど……」
夜は納得した様子で言った。
「……」
(……でも……一回だけ、母さんの言っていたことをウソだ。って言ったことががあったっけな……)
昼間が小学生の時、友人に自分の正体がバレた日のことだった。
「母さんの言っていたことは全部ウソだ‼」
明は土埃が付いたままの疲れ切ったサッカーボールを手に持ったまま、開口一番にそう言った。
「え? 帰るの遅いかと思ったら……急に、どうしたのよ、明……」
明美は台所から離れて、心配そうな顔をして明に近づいた。
「なんか、あった?」
明美は腰を下ろして明に問いかけたが、明は暗くうつむいたままだった。
「……ッ‼ 母さんのバカッ……‼」
「え、ちょっと! 待ちなさい!」
「放して!」
明は母親に掴まれた腕を意図も簡単振り払った。
「明! ねぇってば‼」
「……」
明は母親の声を完全にシャットアウトして、二階に繋がる階段を駆け上がって行った。
〝トントントンッ〟
「入るわよ、明」
明美が明の部屋に入るとそこにはベッドの上で毛布をかぶり、ちじこまっている明の姿があった。
明美はその隣に座った。
「……明……何があったの?」
「……」
明はその呼びかけにはピクリとも応じない。
「母さんが悪かったなら、謝るから……」
「……ん」
明はぎゅっと自分にかかった毛布を握った
「み、みんな、おれから逃げて行った……お、おれのことバ、『バケモノ』って言って、おれから逃げて行った……」
ぽろぽろと大きい雨粒のような涙が一滴、二滴と布団をにじませた。
「……明……」
明美は明に何があったのかすぐに察し、優しく明の背中をさすった。
「かあさんの……ウソつきっ……!」
明は目を荒々しくゴシゴシこすった。
「……そんなに目をこすったら赤くなっちゃうわ」
「うっ……」
明美は明にこちらを向かせて、明の目に張り付いた手を少し強引にどかした。
「ごめんね……明……」
「……!」
「明に辛い思いさせちゃって……でもね、明はバケモノなんかじゃないわ」
「いや……バケモノだろ……」
「いいえ違うわ。だって明は心優しい子だもの……それは母さんが保証するわ」
「みんな……っおれのこときらいなんだ……おれが人狼だから……」
「私は人狼のこと大好きよ……。ねぇ、明? この世界は広い……だからいつかきっと出会えるわ、明が人狼でも明の中身をしっかり見てくれる人に……! だから、諦めないで……人と関わることを……!」
明美は明をまっすぐな目で見た。
「……ぐすっ……! そんなやつ、いないよ……」
(な~んて、思っていたのになぁ)
昼間は夜の方をチラッと見た。
「ん、なに?」
夜が昼間の視線に気づいた。
「い~や、なんでも?」
昼間は組んだ足に肘を置き頬杖をつきながら言った。
「そういえば、昼間くんのお父さんからはなにかごまかし方教わらなかったの?」
「んー 確か、『ノリでなんとかしろ』って言われたかな?」
「え……」
「アイツ大雑把だからな!」
あはは! と昼間は笑った。
「はは、そうなんだ……」
「でも、昼間くんのお母さんのおかげであの時はなんとかなったよ!」
「んな、大げさな……」
「大げさじゃないよ! あの時は生きた心地がしなかったもん!」
「まぁ、お前が下手なウソつくよりは百倍マシだったな!」
「ウッ……まぁ……その通りだけど……」
(また、一言余計なことを……)
夜は苦い顔をした。
「……」
(でもコイツ、そんなにオレの正体がバレることに焦っていたのか……)
昼間はふっ、と笑った。
「ほんと、お人よし」
昼間は夜に聞こえない声でボソッと呟いた。
「な、なに笑ってるの?」
「いーや、別に?」
昼間はしらばっくれたようにそっぽを向いた。
「また、そうやって……! 絶対、僕のことバカにしてるでしょ!」
「あぁ、そうかもな?」
「え! ちょっと‼」
昼間が夜をからかっていたその時、急に二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「お前たち!」
髭面の刑事が後ろに若い刑事をつけながら、二人の方に向かってきた。
「はい‼」
その呼びかけに夜は元気よく返事をした。
「お前らは今から警察が保護するから、一緒に署に来てもらう。ついでにもう少し詳しく事情を聞かせてもらうぞ。いいな?」
「はい、分かりました」
「あーい」
二人はグレーの警察車両に乗り込んだ。




