第十三話 ウソかマコトか
〝ウ~ウ~〟
パトカーのサイレンが赤くとがったような音をあげて、あたりの闇を切り裂いた。
十数台のパトカーが河川敷を埋め尽くした。
二人は、髭面で目のしたにクマがあり、黒髪を下の方で結わえている中年くらいの男性刑事と二十代前半くらいの灰緑色の髪をした男性刑事とその他の警察官にこれまでの経緯を話した。
やってきた警官たちは、河川敷を降り、その光景を見て唖然とした。
昼間と夜に言われた場所を懐中電灯で照らした先にいたのは、河川敷の草むらを埋め尽くすほどの屍と化した不良の山だった。
「待て……お前ら二人でこれだけの人数やったのか……?」
髭面の刑事が眉をひそめて昼間と夜に尋ねた。
「二人じゃなくて、オレ一人でやったんだよ、夜は関係ねぇ」
「そうか……」
髭面の刑事はそうは言ったものの、にわかには信じられなかった。
「……ん……」
不良の屍の中から、ただ一人、瞼がぴくぴくと動く者がいた。
「……ん……うわ……‼ 眩し! 何だよっこれ……‼」
瞼を開けたのは長田だった。
長田は懐中電灯の目が焼けるような光を浴び、その光から逃れたい一心で自分の腕で視界を覆った。
「あ、起きたか?」
それに気づいた昼間はフラットに長田に尋ねた。
「……‼」
長田が目を細めて見た先で捉えたのは昼間だった。
「……お前……‼」
長田が昼間を咄嗟に睨みつけた。しかし――
「おい、大丈夫か?」
長田の隣にいた髭面の刑事が長田の顔をのぞいた。
「おい! 一人、目を覚ましたぞー!」
周りにいた警官のうちの一人の声をあげた。
その声に長田の歪んでいた視界が途端に晴れた。
それと同時にけたたましいほどのパトカーのサイレン音が長田の耳に飛び込んできた。
「はぁ……?」
長田は目の前の光景を見て寝起きに水をかけられたような顔をした。
自分たちを取り囲む無数のライトと大人。奥の方で点滅を繰り返している赤いネオン。
現状況を把握するのには十分なほどの視覚情報だった。
「あっ……あ……」
長田は金魚のように口をパクパクさせた。
「おーい、まだ寝ぼけてるのか~?」
昼間は長田の顔の目の前で手を振った。
「……ヒッ‼」
長田は体を引きずりながら後退した。
「お、ちゃんと目が覚めたか?」
昼間は何事もなかったかのように明るく言った。
(お、俺はコイツにやられて……それで……それで……)
長田は必死に記憶をたどった。
「――モノだ――」
長田がふと呟いた。
「え? なんて?」
昼間は長田の声が小さすぎてよく聞き取れなかった。
「バ、バケモノなんだよ‼ ソイツは‼」
長田は昼間をまっすぐ指さした。
「……‼」
夜は思わずぎくりとした。
「お、落ち着け。どういうことだ?」
髭面の刑事が長田をなだめながら聞いた。
「コイツは人間じゃない‼ その……変身して、狼みたいに、なって、オレたちを襲ったんだ……‼」
長田はおどおどと小鹿のように怯えていた。
「……」
その異常に怯えた様子の長田に対して、ただ事ではないことは一目瞭然だった。
そのため髭面の刑事を含め、近くにいた警官たちは昼間を凝視した。
(ま、まずい……! ここまでは想定していなかった……昼間くんが人狼だとバレてしまう……なにか早く言い訳を……!)
「あ、あの!」
夜は途端に口を開いた。すると周りの警官たちは一斉に夜に視線を向けた。
「あ……」
夜はその威圧感に尻ごみした。しかし、夜は肩にかかったスクールバッグの紐をグッと掴んで、必死に言葉を続けた。
「あの……‼ 昼間くんは――むぐっ⁉」
夜の口は急に何者かの手によって塞がれた。
「いや~『襲われた』なんて心外だよな~。なぁ! 夜‼」
昼間は夜の口を手で塞ぎながら陽気に言った。
「むぐっ……⁉」
夜は目を皿のようにして驚いた。
「オレに合わせろ」
昼間は夜の耳元でささやいた。
「……!」
昼間は夜の口から手を放した。
「……え……昼間くん……」
夜は心配そうに昼間の名前を呼んだ。
「やっぱ、まだ寝ぼけてるみたいだな。そっちから、襲ってきたくせに……すっかり被害者面しちゃって……さらにはオレをバケモノ呼ばわりなんてな……」
(昼間くん……)
「お前…………そんな幻覚見るなんてついに頭イカれちまったな!」
「「……‼」」
「あ、前から頭はおかしかったか!」
昼間は屈託のない笑顔で言った。
「はぁ……?」
長田は、口をぽかんと開けた。
「いやさ! オレをバケモノみたいに強かった。ってんなら分かるけど、『変身』って! さすがに聞いていて笑いそうになったわ! あぁ! おもろ……!」
昼間は腹を抱えて笑った。
「……い、いや、コイツは……」
長田はまだ足搔こうとした。
しかし昼間はさらに畳みかける、
「っていうか、どこがバケモノだって?」
昼間は長田に向かって腰を下ろし、長田の顔をのぞいた。
「……!」
長田がそこで、目にしたものはただの人間の昼間だった。
「なぁ、言ってみろよ」
「……ッ‼ お、お前だって、見ていただろ!」
長田はそう言って今度は夜を指さした。
「さぁ……ナンのコトか……」
夜は視線を左にやった。
「……‼」
「なぁ、ほら夜もこう言ってるぞ?」
「……」
「長田ぁ、黙ってないでさ、ほら、言ってみろよお前の言うバケモノはどこにいる? なぁ、言ってみろよ……なぁ‼」
昼間は長田に最後の追い打ちをかけた。
すると長田は一言も発することはなくただゆがんだ地面を見つめていた。
髭面の刑事が長田の肩にぽんっと手を置いた。
「……大丈夫か?」
長田はバッと髭面の刑事に目をやった。
彼は長田を心配そうに見ていた。
「あ、あの――!」
長田は目を輝かせた。
しかし、それは一瞬のことだった。
「お前……一回、病院で診てもらえ」
「……ッ‼」
長田はようやく気が付いた。髭面の刑事が向けていた目は心配でも何でもなくて、ただの哀れみの目だということを。
周りの警官も、「重症」だなと言った目をしており、長田の話をまともに聞く警官なんてどこにもいなかった。
それから長田はパタリと何も喋らなくなった。
(確かに、よく考えたら、そんな現実味のない話を突然されても誰も信じないか……しかも警察になんて……)
夜はふぅと安堵のため息をもらしたと同時に昼間の言動に納得した。
夜は昼間に視線をやると、昼間もこちらを見ていることに気づいた。
昼間は夜と目が合うと小さくグッドサインをした。
(……!)
夜はそれに気づき、昼間と同様に小さなグッドサインを昼間に送った。




