第十二話 おまえで良かった
「そんなことがあったんだな……」
昼間は夜の過去をゆっくりと噛み締めながら言った。
「君が言った通りだよ……」
「……?」
「僕は、誰とも関わろうとしないで、傷つかず生きてきた……そんな人間が君のことをダサい。なんて……僕が言える立場では全然ないのにね……」
夜は暗く沈んだ声で言った。
「い、いや、そんなことねぇよ……オレだってあれは言い過ぎたと思ってるし……悪かったよ……だからあんまり真に受けないでくれ……」
「いや、昼間くんが謝ることないよ。事実だし……今、思い返すと。僕が君を助けようと思ったのは、長田くんたちから仲間外れにされた昼間くんの姿を、昔の自分の姿と無意識のうちに重ねていたからかもしれないな……」
「夜……」
「でもさ、やっぱり普通に考えて、水晶玉で占うって、ちょっと前時代的だし、胡散臭くない?」
(あ、それ自分で言うんだ)
「信じてもらえなくて当然だよね。そもそも、僕、占い師だけど、男だし……占い以外にも幽霊とかそういうオカルトっぽいものも、オタクってほどでもないけど、全般好きだし……やっぱ、周りから見たら変人というか……キモイよね……」
「キモくねぇよ」
「……!」
夜は、ばっ! と昼間の方を見た。
「つーか、お前オレが人間じゃないっていうのは当てたじゃねぇか」
「……そんなのたまたまだよ……」
夜は完全に卑屈になってしまった。
「……」
昼間はそんな夜を見て、頭を悩ませた。すると、昼間は「あ!」と声を出した。
「もしかして、お前の占いが当たらなくなったのって、多田にボロクソ言われたからじゃないのか?」
「え? まぁ、一応?」
「要は、占いが当たるかどうかは、お前の精神面が関わっているんじゃないのか? 少なくとも、オレが 人狼だって当てた時は、お前すげぇ元気だったし」
「……! た、確かに……」
「だろ?」
(こんなこと、自分だけじゃ気づかなかったな……)
「あ、ありがとう昼間くん!」
「あとさ、お前の話、聞いていて思ったんだが……お前……なにも悪くねぇじゃん」
「え……!」
夜は目を見開いた。
「元凶は多田だろ? アイツが百パーセント悪い。あと、お前の周りの奴らもどうかしているんじゃねぇのか?」
「え?」
「夜が……嘘なんてつくわけねぇだろうが……‼ ウワサなんかで勝手に決めつけやがって……」
昼間は怒気をほのめかす顔つきで言った。
「……!」
昼間の言葉一つで夜の乾ききっていた心は沁みるように温かく潤い、夜は目の輝きを取り戻した。
「昼間くん……」
「だって……夜は、お人よしで、ポンコツで……」
「ん?」
「おまけに泣き虫で……」
「ん、ん?」
「そんな嘘つく度胸あるわけないだろ⁉ ソイツら本当、お前のことなんも分かってねぇな‼」
昼間は頭をムシャクシャさせながら言った。
「うん、アリガトウ。でもフォローの観点は変えてほしかったな」
夜は死んだ魚みたいな目で言った。
「つーか、お前、人付き合い苦手とか言ってたけど……オレとは普通に話せてんじゃん」
「いや、それは昼間くんだからだし!」
「……!」
昼間は「はぁ」とため息をついた。
「え! なんでため息⁉」
「いや……お前ホント、急にそういうこと言うんじゃねぇよ」
昼間は自分の膝と膝の間に顔を埋めた。
「えぇ……」
夜は本当に意味が分からないようだった。
「まぁ、とにかくお前は案外、根は明るいんだから自信持て!」
「そ、そうかな……」
夜は照れくさそうに頭をかいた。
「あ、でもあんまりハッキリ言い過ぎるなよ? ほら多田のこととか……」
「え? 多田くん?」
「アイツ最悪な奴だけど、小五でおもらししたってみんなの前で言うのは……ぶっちゃけ可哀そうだったろ」
「え、でも、本人は当たっていないって言ってたよ」
「だ・か・ら! そういうことじゃねぇんだよ! 生死の境はまだしも、ママと今でもゴウトゥベッドと、布団の上でおねしょかましちゃいました。のダブルコンボは否定せざるをえないだろ‼ 取り巻きに『そうだ! そうだ! 多田くんが小五でおねしょするわけないだろ‼』って言われた時の多田の気持ち、ちょっとは考えろよ‼」
「ウッ……」
夜はぐうの音もでなかった。
「まぁ、ソイツの人物像からして最初からお前の占い結果を全否定するつもりだったんだろうが……さすがに、言っていいことと、悪いことがあると思うぞ」
「はい、本当に反省してます……」
「あとさ……」
「……?」
(また、怒られる?)
夜は少し身構えた。
「オレ、お前の名前、結構好きだぞ」
「へ?」
急に何を言い出すのかと思い夜は豆鉄砲をくらったような顔をした。
「まず、夜って涼しいだろ? あと、月がきれいに見えるだろ? 人通りが少なくなって歩きやすいし、あとオレそもそも、どっちかっつーと夜行性だから……」
「ま、待って! 待って!」
夜は慌てて昼間の暴走を止めた。
「い、一体、なんの話を……」
「だから……お前の名前が好きな理由を……」
「え、急に? というかそれって理由なの?」
「え? じゃあ、二文字で呼びやすいところとか?」
「いや、二文字の名前なんてたくさんあるから‼ じゃ、なくて……」
「はぁ~お前わがままだな?」
「いや、わがままって……」
夜は呆れた眼差しを昼間に向けた。
「オレさ……夜が変な名前って思ったことねぇぞ?」
「え‼ いや、ウソ……」
「ほんとだって。それにオレ最初『光宇宙』って名づけられかけたんだぜ? それよかマシだろ」
(う、上には上がいた……‼)
「まぁ『夜』って初めて聞く名前だったけど、お前がその名前だとなんか、違和感ねぇっつーか……似合っているというか……」
昼間は歯切れ悪く言った。
「……」
(他人から自分の名前を褒られたのは初めてだな……)
「あのさ……」
「な、なんだよ……」
「昼間くんは……僕に怒ってないの?」
「え? なんのことだ?」
「だって、僕、君を占ったことで君の正体を知っちゃったし……君が他人に知られたくない事だったんじゃない? 僕は……もっと、君と仲良くなりたかったから、調子に乗っていつもの仲良くなる手口を使ったんだ。だけど逆に余計なことまで知ってしまった。おまけに昼間くんに『人間じゃないでしょ』なんてひどいことを言ってしまったし……その……ごめんなさい……あの時は……」
(僕は本当に学習しないな……)
夜は暗くうつむいた。
「……まぁ、そりゃ。最初は人狼ってバレたかもって思って焦ったけど……お前は他人に言いふらすような人間じゃないとは見ていて思ったし、言っちゃ悪いが、言いふらす相手もいないだろうと思ったからな」
「ヴッ……‼」
夜の心にグサッと深く槍がささった。
「むしろ、バレたのがお前で良かったわ」
昼間は、ほのかに笑みを浮かべた。
「そ、それは、僕がぼっちで、言いふらす相手がいないから⁇」
「ははっ! ちげぇよ!」
昼間は笑って言った。
「オレ……小学生のとき一度だけバレたことがあったんだ」
「え! そうなの⁉」
「あぁ……ダチと遊んでいるときについ、口論になったんだ。正直、何で口論になったかは正直、覚えていない……でも誰かの言動に対してすごくムカついて……日が暮れていたこともあって、人狼の姿になってしまったんだ。その時、オレを見たアイツらの顔は恐怖に満ちていたよ。長田がオレにビビり散らかしていたみたいにな……」
「あぁ……なるほど……」
「それでオレは『あ……ごめん………』つってすぐさま人間の姿に戻った。それで、オレは意を決して正直に自分のことを言おうとした」
『実は……おれ――!』
「そいつらとは仲もかなり良かったし、バレてもアイツらはオレを受け入れてくれると思ったんだ……だけどアイツらは……『バケモノが出たぞー‼』て言ってオレから逃げて行ったんだ……」
昼間は昔の話しているうちに次第に心が暗く沈んでいった。
「……」
夜は黙って昼間の話を聞き続けた。
「そもそも、アイツらは人狼のオレの話なんてまともに聞いてくれなかった。それからというもの学校ではオレが人狼っていう噂があとを絶たなかった。俺の正体を見てない奴らは半信半疑でオレに直接聞きに来たり、オレに暴言を吐いてオレをイラつかせて正体を出させようと考えた奴もいたりした。だけどあの日以来、オレは今まで一回も人前で人狼の姿にはならなかったし、自分はニンゲンだと、しらを切り通し続けた。そうしているうちにオレはいつの間にか、人と話すのを極力避けるようになって、距離を自分から取るようになった。そしてオレの周りいた人間がどんどん離れていった……そんな出来事があったさなか、両親の離婚も相まってオレは転校した。次の学校では二度と本性は出さないと胸に誓ってな……」
「昼間くん……」
「ふっ、でもな……」
そう言って昼間は顔をあげた。
「お前はオレが人狼って分かっていても軽蔑せずに、今こうやって普通に接してくれている……オレは何よりそれが嬉しいんだ……!」
昼間は夜に笑いかけた。
「……!」
「だから!」
昼間は立ち上がった。
「お前が人狼のオレじゃなくてオレの中身を見てくれたように、オレも占い師のお前じゃなくてお前の中身を見て、今一緒にいる! だから、気持ち悪がったりしないから安心しろ! 今度、馬鹿にされたらオレに言えよな!」
「……‼」
夜から見た昼間は真っ暗な夜空を照らす満月のように眩しかった。
「昼間くん……」
「ソイツ、地獄のソコに落としてやるから☆」
「え? ま、待って! そこまでしなくていいから‼」
夜はすぐさまストップをかけた。
「え~なんでだよ?」
昼間は本当に不思議そうな顔をした。
「なんで、じゃない‼ そう言ってくれるのは嬉しいけど……僕も今回みたいに昼間くんに頼りっぱなしも良くないよ! 僕は君と対等な友達でいたいし……」
(友達……)
「~~夜~~‼」
「うわっ!」
昼間は人狼に変身して夜に抱き着いた。
昼間の尻尾は死ぬほど左右に揺れていた。
「もう……」
(なんか狼っていうより、大きい犬みたいだな……)
夜は案外満更でもなかった。
「あ!」
夜は何か気づいた様子で声を上げた。
「っていうか、昼間くんってズボン履いているのにどうやって尻尾出してるの?」
「え? そんなのズボンに穴開けているからに決まってんだろ」
「え! 穴開けてんの⁉ さすがにバレない?」
「いや、普段はブレザーで尻隠してっからばれねぇよ」
「あぁ‼ 着崩しているのってそういうこと⁉」
「お、おぉ。ちなみにパンツにもあいてるぜ、見るか?」
「いや、見ないけど。なんか座ったときとかに裂かれそうじゃない?」
「まぁ、そうならないように上手い具合に縫ってあるから平気だぞ。やっぱなぁ尻尾出さないとズボンの 中くすぐったくてストレス溜まるんだよ」
「えーでも、制服のズボンにまで穴開けることないでしょ……普段外では人狼にならないのに……」
「今日なったじゃねぇか」
「まぁそれもそうだけど……」
「ははっ、だろ? はぁ……よし! じゃあそろそろ警察呼ぶか……アイツらが逃げないうちに」
昼間は携帯を取り出した。
「あぁ、うん!」
昼間は百当番に電話をかけた。
《ピロピロピロ……ガチャッ……》
「あ、もしもし? え~事故……というより事件よりなんですけど――」




