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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第1章 こわおもてな求婚者
6/14

1-06. 大好きリスト

「疲れた……」


 どうにか無事お茶会が終わり、部屋に戻った私は、どっと疲れが出てベッドに倒れ込みました。


「あー、なんとかつつがなく終われた」

「なにが、つつがなく、よ」


 突っ伏していた私の後頭部を、ぺちん、とアイリスが叩きます。


「だらだらとケーキの話して、肝心なことはあいまいにして。何も解決してないじゃない」

「だ、だってぇ~」


 バルバ様からの求婚(プロポーズ)を受けるのか受けないのか。

 本日のお茶会の本題。私は結論を出せず、持ち帰りご検討させていただきます、となりました。


「昨日の今日だよ? そんなにすぐには答えられないってばぁ」


 本日改めて、バルバ様から正式に求婚(プロポーズ)されました。

 さすがに気絶はしませんでしたが、やっぱりびっくりします。どうして私なんでしょう。私、バルバ様の気を引くようなことはしてないと思うんですが。


「それがよかった、て言ってたじゃない」


 お顔の怖さに怖気(おじけ)ることなく。

 騎士団長という地位に媚びることもなく。

 いつも変わらぬ笑顔で、自然体で接してくれた私のことを、いつの間にか愛していた――そんなことを正面切って言われてしまいました。


「熱烈な愛の告白だったねー。聞いててドキドキしちゃった」

「ううー、はずかしいです」

「嬉しくなかったの?」

「そ、それは……」


 ちょっと――いえ、かなり嬉しかったですけど。

 男の人から、あんなにまっすぐな好意を向けられる日が来るなんて思ってもいませんでしたし。なんていうか、その、顔が火照るというか、むず痒いというか。


「真っ赤になって、照れてうつむくデイジー。かわいかったよー。バルバ様も見惚れてたねー」

「か、からかわないでくださいよぉ!」


 とにかく分かったことがひとつ。

 バルバ様が本気だ、てこと。

 求婚(プロポーズ)されちゃった、て照れて恥ずかしがって済む話じゃありません。


「どうしよう……」


 相手は「英雄」です。建国以来の武の名門、ルーツ侯爵家の嫡男にして騎士団長です。

 そんな人からの求婚(プロポーズ)、よく考えたらものすごいことなのでは?

 これを受けたら、私はルーツ侯爵家の未来を担う立場となり、騎士団長の妻として国を支える立場となり、バルバ様が爵位を継げば侯爵夫人として名だたる貴族や国王陛下と親交を深めていく立場となる、てことですよね。


「まあ、覚悟は必要でしょうね」

「うう……無理ですよぉ……」


 私、ど田舎貴族の娘ですよ。中央の高位貴族の方なんて、遠目で見たことがあるだけですよ。そんな人たちと対等にやっていくなんて、私には荷が重すぎます。


「ま、それもあるけど」


 アイリスが肩をすくめ、椅子に腰を下ろしました。


「それを考える前に、はっきりさせておくことがあるでしょ」

「え、何ですか?」

「そもそもあんたは、バルバ様を一人の男性としてどう思っているわけ?」

「一人の……男性として?」


 ――はて?

 考えたこともありませんでした。


「なら考えようか。ほれ、思いつくこと言ってみて」


 アイリスが紙の束とペンを手に取りました。

 いや、言ってみて、て――何を言えばいいんですか?


「バルバ様について、思いつくこと片っ端から。はい、どうぞ」

「え、ええと……名門ルーツ侯爵家のご嫡男」

「はい、それから? どんどんいってみよー!」


 英雄と呼ばれる高潔な騎士。

 史上最強と言われる騎士団長。

 すごく大きなお体で、頼もしい。

 お顔はちょっと怖い。でも心はとてもお優しい方。

 健啖家。甘いものがお好き。細やかな気配りができる方。意外におしゃれ。お茶に詳しい。お花にも詳しい。子供を見る目がお優しい。大声を出すとすごい迫力。

 それと――、それから――、それに――、そうそう――、そういえば――、あとは――。


「わかった、よーくわかった。もう結構。お腹いっぱい」


 思いつくままを口にし続けた私。それをメモしていたアイリスですが、十枚目の紙がいっぱいになったところで、手を挙げて私を止めました。


「はあ。なんなんですか、いったい」

「なに、て……あんた、バルバ様のこと大好きじゃん」

「……へ?」


 ほれ、とアイリスが紙の束を差し出しました。

 私が口にした、バルバ様について思いつくこと。それが全部書かれています。


「まさか紙十枚分もスラスラ出てくるとは。夫婦でもここまで出てこない、つーの」


 ニマニマと笑うアイリスを見て、頬が一気に熱くなりました。


「しかも、ほとんどが好意的なものよ。これもう大好きリストじゃない。ダイスキオーラがダダ漏れだなあと思ってたけど、ここまでとは」


 ダイスキオーラ、て。

 なんですかそれ、そんなもの私から出てたんですか?


「出てたね。あふれ出てたね。よもやここまでとは。うん、これは仕方ない。バルバ様が惚れるのは当然。責任取って結婚するしかないね」

「せ、責任、て……私のせいですかぁ?」

「いいじゃない、別に。バルバ様のこと、嫌いじゃないんでしょ?」

「ですから、私はど田舎貴族の娘で、バルバ様とは家柄が全然釣り合わない……」

「ていっ」

「いたっ!」


 いきなりデコピンされました。バチン、て大きな音。けっこう痛いです。


「な、なにするんですかぁ!」

「そんなことは百も承知で、バルバ様はあんたに求婚(プロポーズ)したの。あんたがつらい目に遭わないよう、全力で守るお覚悟でしょうね」

「で、でも……」

「でもじゃない。英雄が覚悟決めたんだから、あんたもグダグダと半端な気持ちで臨むな」


 思いのほか真剣なアイリスの目に、私は息を呑みました。

 でも――アイリスの言う通りです。私はバルバ様からの求婚(プロポーズ)に驚いておろおろするばかりで、まだ真剣に考えたとは言えません。


「ごめん、そうね……私、ちゃんと考える」

「よし」


 アイリスがにこりと笑い、私も笑い返します。

 持つべきものは友――アイリスが友人で、本当によかったです。

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