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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第1章 こわおもてな求婚者
5/16

1-05. 甘党なバルバ様

「どうぞお座りください。お茶をご用意いたします」


 微妙な雰囲気になったバルバ様と私に着席を促し、アイリスがお茶の支度をしてくれました。

 本日のお茶会、アイリスが給仕係を務めてくれています。お茶もお菓子も自分で給仕できるのにな、と思ったのですが、「バカモノ」とデコピンを食らってしまいました。


「田舎のお茶会じゃないんだから。主催者(ホスト)が自分で給仕しちゃだめでしょう」


 お茶だのお菓子だのは人に任せて、私は主賓(ゲスト)であるバルバ様のおもてなしに集中しろ、と言われてしまいました。

 でもおもてなし、て――なにをすればいいんですか?


「……」

「……」


 私とバルバ様、無言のまま。確かに私が主催者(ホスト)ですが、身分という点ではバルバ様の方がずっと上、私から話しかけてもいいんでしょうか。


「……」

「……」


 お茶とケーキが並べられても、私たちは無言のまま。「何黙ってるの、会話しなさいよ」と言わんばかりのアイリスの視線が痛いです。

 あう、あうう。とりあえず、天気の話でもすればいい? いきなり求婚の話(本題)に入るのはまずいよね。


「おいしそうなケーキですな」


 私がおろおろしているのを見て取ったのか、バルバ様が先に口を開きました。


「デイジー殿が用意してくださったのですか?」

「あ、はい。バルバ様、甘いものがお好きですから、いいかなと思いまして」

「え?」

「特に生クリームがお好きですよね。ここの生クリームは、王都で一番と言われてるんです。きっと気に入っていただけると思います」


 バルバ様、なぜか沈黙。え、喜んでいただけると思ったのに、なんで? ホントにおいしいんですよ?


「き……気づいておられたのか?」

「え?」

「いや、その……私が甘いものに目がないことを、です」


 え、みんな知ってることですよね?

 ちらりとアイリスを見ると「知らなかった」と言わんばかりの目をしています。バルバ様の後ろに立つキリア様も「へー、そうだったんだ」なんて顔。

 あれ、これ言っちゃいけないやつでした?


「ひょっとして……内緒でしたか?」

「いや、そういうわけでは」


 バルバ様、なんとなく恥ずかしそう。


「その、まあ……なんですな。見た目のイメージと合わないので、あまり公にはしておらんのです」

「そんなことないと思いますけど」


 確かにバルバ様は、大柄で厳めしい雰囲気ですが。

 でも甘いものをおいしそうに食べてるときのお顔、見ていてほっこりするんですよね。


「お好きなんだなー、なんだか可愛らしいところもあるんだなー、なんて思ってました。ええと、その……ほら、熊だって蜂蜜が大好きですし。イメージと合わないなんてことはないですよ!」

「熊……」


 バルバ様が、ぽつりとつぶやいた直後。

 ぷっ、と小さく笑う声が聞こえました。それも正面と後ろからの二つです。


「熊って……いや熊って……くっ、くくくっ……」


 一人は、バルバ様の背後に立つキリア様。頬を膨らませて噴き出すのを必死に我慢しておられます。

 そしてもう一人。私の背後に立つアイリスは、顔をそらして小さく震えています。


 え、今、笑うところでしたか?

 笑わせるつもりで言ったんじゃないんですけど。


「なんつー的確な。やべー、ツボった。デイジーちゃん最高」

「おい……笑いすぎだ」


 バルバ様が、ドスの利いた声でキリア様をにらみつけました。


「あと、なれなれしく名前を呼ぶな。たわけが」

「これは失礼いたしました、団長殿」


 謝りはしたものの、キリア様、まだ笑っておられます。そんなキリア様を「このやろう」と言わんばかりの顔でにらんでいるバルバ様ですが、どうしてでしょう、あまり怖くありません。

 いえ、ぼーっと見ている場合ではありません。私もアイリスをたしなめなければ。


「アイリスも」

「も、申し訳ありません……バルバ様、大変失礼いたしました」


 私がたしなめると、アイリスはすぐに真顔に戻り謝罪しました。さすがアイリス――と言いたいところですが、まだ口元がぴくぴくしています。必死で笑いをこらえているんでしょうね、あれ。


「すいません、バルバ様。アイリスにはあとでよーく言っておきますから」

「いや、まあ……お気になされぬよう」


 慌てて私も謝罪しました。バルバ様は鷹揚に許してくれましたが、ホント、アイリスには困ったものです。


「あの、では気を取り直して。どうぞお召し上がりください。きっと気に入っていただけると思いますから」

「では、遠慮なく」


 バルバ様がフォークを手に取り、ケーキを切り分け、口の中へ。一口食べて、おお、と目を見開きます。


「これは。確かにおいしいですな、絶品です」

「お気に召して何よりです」


 心なしか、怖いお顔が崩れて蕩けているようです。

 どうやら社交辞令ではなく、本当に気に入っていただけたようです。よかった、と胸をなでおろしながら、私もケーキを一口いただきました。


 うん、おいしい♪

 やっぱり甘いものって、最高ですよね!

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― 新着の感想 ―
???「蜂蜜食べたいなぁ〜」
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