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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第3章 こわおもてな旦那さま
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エピローグ - 新しい騎士さま

 時は流れ――。

 春の終わり、久しぶりの休暇を取って、私はローミア子爵領へ里帰りしました。


「どうぞ、のんびりしてくださいませ」


 家政婦のテスラさんのお言葉に甘えて、思いっきりぐーたらしました。ルーツの家でものんびりできないわけではありませんが、やはり侯爵夫人として気が抜けないところはありまして。実家の気楽さはありがたいです。


 天気のよい午後、庭の木陰でのんびりと本を――読んでいたはずなのに、いつの間にかうとうとしてしまいました。


 夢の中で、私は子供に戻っていて。

 仲良くなった子供たちと楽しく遊んで、大笑い。そんな私たちを見守るように、少し離れたところでゆったりと座っているのは、大きくてこわおもてな私の騎士(ナイト)さま、オオカミのレオ君。


 ああ、懐かしいなぁ――そんな風に思ったところで、私は元気な声に起こされました。


「おかあさまー、ただいまー!」


 はっ、と目を覚まし、私はゆっくりと顔を上げました。

 お父様と、お父様に手を引かれた小さな女の子が見えました。私が手を振ると、女の子はぶんぶん手を振って、全速力で駆けてきます。

 もうじき五歳になる私の娘、クラリス=ルーツ=ローミア。武の名門ルーツ家の血を引く、ちょっぴり(かーなーり)おてんばな女の子です。


「お帰りなさい、クラリス」


 三泊四日の予定で、お父様――クラリスにとってはおじいちゃん――といっしょに水源の村へ遊びに行っていたクラリス。戻るのは夕方になると思っていたのですが、案外早く戻ってきましたね。


「楽しかった?」

「はい、とっても、とーっても! また行きたいです!」


 私の膝に抱き着いて、満面の笑みを浮かべるクラリス。父親譲りの凛々しい目元に、自然と私の頬がほころびます。


「あのね、お母様。お友達ができたの!」

「まあ、それはよかったわね」

「うん! それでね、仲良しになったから、連れてきたの!」

「は?」


 お友達を、連れてきた?

 水源の村から、ですか? ええと、それって――。


 オン、と声が聞こえました。


 見れば、お父様の足元に、まだ若い犬――いいえ、あれはオオカミの姿。野性味あふれるそのお顔の迫力と言ったら、たいしたものです。


「あら、まあ」


 私と目が合うと、オオカミはゆっくりと近づいてきました。

 私を恐れるでもなく、警戒するでもなく。ただ静かに近づいてくるその姿、すでに貫禄があります。そのままクラリスの足元まで来ると、まるで従者のように静かに座りました。


「ね、すごいでしょ? とってもかしこいの!」

「ええ、たいしたものね」


 私は椅子を立ち、若いオオカミの前に座りました。

 私の視線を受けても、目をそらさず、まっすぐに見つめてくる力強さ。そこに警戒の色は見えません。


「ふふ……そう、お友達になったの」


 懐かしさが胸にこみ上げてきます。さきほどまで見ていた夢は、ひょっとして予知夢の類でしょうか。


「初めまして、オオカミさん。私はクラリスの母、デイジーよ」


 くぅん、と鼻を鳴らし私を見上げるオオカミくん。私が静かに手を差し出すと、ふんふんと匂いを嗅いで、ぺろりと舐めました。よろしく、という挨拶でしょうか。


「あなたは……レオ君の生まれ変わり? ううん、きっと子孫ね」

「そうだろうな」


 お父様、ちょっぴり疲れた顔をされています。あら、これは――私と同じように、クラリスが連れて帰ると駄々をこねたのでしょうね。


「レオくん、てだあれ?」

「私が子供の頃に飼っていたオオカミよ。とっても怖いお顔だけど、とっても賢くて頼りになる、私の騎士(ナイト)さまだったの」

「そうなんだ!」


 クラリスが、パッと顔を輝かせました。


「じゃあ私も! 私もこの子を騎士(ナイト)さまにしたい! 連れて帰っていいでしょ? ちゃんと面倒見るから!」

「そうねえ……なら約束できるかしら。騎士(ナイト)さまが仕えるにふさわしい、素敵なレディになると」

「はい、約束します!」


 クラリス、元気いっぱいに即答。

 よしよし、これで行儀作法のお勉強もちゃんとしてくれるようになりますね。心の中でガッツポーズです。


「なら、お父様にお願いしましょうか」


 話はまとまった? と言わんばかりに大あくびをしたオオカミくん。ふふ、仕草がそっくり。この子、絶対にレオ君の子孫ですね。


 ようこそ、新しい騎士(ナイト)さま。

 おてんばですが素直な娘です、どうかよろしくお願いしますね。

おわり

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 何というエモい終わり方( ˘ω˘ )
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