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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第3章 こわおもてな旦那さま
33/34

3-06. いつまでも変わらぬ愛を

 その夜、大公子様主催での夜会が行われました。

 強盗事件に巻き込まれたこともあり、無理に参加しなくてよいとは言われましたが。侯爵夫人としてのお仕事――社交が全然できていません。体調も特に問題ありませんし、旦那さまと一緒に参加しました。


「おお、英雄バルバ!」

「あれが……さすがの貫禄ですなぁ」


 私たちが会場に入ると、あちこちで声が上がりました。

 やはり旦那さまは大注目ですね。妻として誇らしいです。


「聞きましたか、昼間の強盗騒ぎ」

「おお、聞いている。ルーツ侯爵が鮮やかに解決したそうだな」

「武器も持たず、正面から堂々と乗り込まれたそうだ」

「大声での一喝、それだけで強盗はすくみ上って降参したというぞ」

「さすがですな!」


 さっそくあちこちで昼間の強盗事件の話になっていました。一人のケガ人も出さずに解決した私の旦那さま、すごいでしょ、と自慢して回りたいところですが。


「その奥方様も大したものではないか」

「自分が残るから、他の人質は解放せよと強盗と交渉したとか?」

「五人の強盗相手に、臆せず毅然と対峙したそうですよ」

「さすがは精霊の乙女ですな!」


 あうう。

 「精霊の加護を受けた乙女」が、いつのまにか「精霊の乙女」になっています。だんだんレベル上がってませんか? このままだとほんとに女神とかにされてしまいそうで怖いです。

 皆様、すごいのは私じゃなくて、旦那さまですよ! どうかお間違えなく!


「デイジーも、すっかり有名人だな」


 一通り挨拶を終え、壁際で一休みしていたら、旦那さまがニコニコ笑っておっしゃいました。


「私も鼻が高いぞ」

「もう、からわかないでください。旦那さまあってこその私ですよ」


 ええ、そうですとも。

 国を守るために命を懸け、勝利をもって多くの命を守ってきた旦那さま。実力と結果で「英雄」と呼ばれるようになった旦那さまに対して、私のは本当にただの噂、いえ、誤解でしかないのですから。


「何を言う。デイジーがいてこその私だぞ」


 旦那さまが、真面目な顔になっておっしゃいました。

 戦いに明け暮れ、どこか荒んでいた自分を温かな笑顔で迎えてくれた。

 私の顔を見ても怖がりもせず、いつも変わらぬ態度で接してくれた。

 そんな君に出会えたから、人を愛するということを覚えたのだ、と。


「デイジーに出会わなければ、私は戦いしか知らぬ、粗野な男に成り下がっていただろうな」

「そんなことは……ありません」

「あるさ。嘘だと思うならキリアに聞いてみるといい」


 第一騎士団副団長、キリア様。長年、旦那さまとともに戦場を駆け抜けた戦友。確かにキリア様なら、私が知り合う前の旦那さまをご存じでしょう。

 でも、そんなの。


「聞きたくありません」


 私は旦那さまのたくましい腕に抱き着きました。


「多くの騎士に慕われる、高潔で誇り高い騎士の中の騎士。それが私の旦那さまです。それ以外の旦那さまなんて、知りません」


 人は誰しも、他人には知られたくない過去があります。私にだってあるのです、戦場を駆け抜けてきた旦那さまにないはずがありません。

 でも、そうだとしても。

 私は今、こうして目の前にいる旦那さまを誇りに思い、心から愛しています。それで十分なんです。


「そうか……ありがとう、デイジー」


 抱き着いている私の手に、旦那さまの大きな手が重ねられました。


「ならば私は誓おう。いつまでも、デイジーが誇りに思い、愛してくれる男であり続けると、な」

「旦那さま……」


 重ねられた手のぬくもりに愛しさが募ります。私は旦那さまを見上げ、笑顔を浮かべました。


「では私も誓います。いつまでも変わらぬ愛を、旦那さまに捧げることを」

「よいのか、そんな誓いを立てて」

「もちろんです。簡単すぎて、誓いにならないですけどね」


 うれしそうに笑う旦那さま。その笑顔に、とても幸せな気分になります。

 誰もがこわおもてと言い、怖いという旦那さまのお顔。

 でも私は旦那さまのお顔が大好きです。私にだけ向けてくださる笑顔が、とても愛しいのです。どうかそれを忘れないでくださいね、旦那さま。


「あら」


 音楽が鳴り響きました。

 いつの間にか楽団が出てきて、演奏を始めています。どうやらダンスタイムのようです。

 大公子様とエステル様、主役のお二人が手を取り合って前へと出ます。それを見て、他の方たちもパートナーとともに前へ出て行きます。


「デイジー。我らも踊ろうか」

「まあ。大丈夫なんですか、旦那さま」


 運動神経抜群な旦那さまですが、実はダンスは苦手。体が大きくて力も強いので、お相手の女性が振り回されちゃうんですよね。


「みっちり練習してきた。その成果を見せてやるぞ」

「あら、いつの間に。いいですわ、練習の成果を拝見いたしましょう」


 ちなみに私はそこそこ踊れます。王女付きの侍女がダンスも踊れないなんて許しません、と侍女頭のタイン様に徹底的にしごかれましたので。


「では……」


 こほん、と咳払いをして、旦那さまが私に手を差し出します。


「私と、踊っていただけますか?」

「はい、よろこんで」


 旦那さまの手に自分の手を重ね、エスコートされながら前へ。

 皆様の視線を感じながら、曲に合わせてステップを踏み始めます。


「あら、本当にお上手になられましたね」

「そうだろう」


 ニカッと笑う旦那さま。

 ほめられたのがうれしいんですね。うふふ、お可愛い♪


「旦那さま」


 もっともっと旦那さまの笑顔が見たいな――そう思ったら、つい口を開いてしまいました。


「実は、大切なご報告がございます」

「大切? なんだね?」


 かすり傷ひとつなかった私ですが、城に戻ると、念のためにと医師の診察を受けました。

 そこで告げられた、医師の言葉。

 きっときっと、旦那さまはお喜びになるはずです。


 あ、でも。

 ここで教えたら、旦那さま大騒ぎしちゃうかも。夜会で騒ぎを起こすわけにはいきませんね。


「ごめんなさい。やっぱり後で。お部屋に戻ってからお話しします」

「ん、そうか。わかった」


 ちょっぴり不思議そうな旦那さま。

 そんな旦那さまが愛しくて――私はわざとステップをミスして、旦那さまにぎゅっと抱き着いたのでした。


第3章 おわり。

次で完結です。

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