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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第1章 こわおもてな求婚者
3/14

1-03. どうしよう

 その日のうちにエステル様の使いがバルバ様を訪ね、お会いするのは明日のお昼過ぎとなりました。


「明日!? 早すぎませんか!?」

「早くない」


 ぺちん、とエステル様からの伝言――という名の命令を伝えたアイリスに、おでこを叩かれました。


「相手はこの国の英雄。あんたは王女付きとはいえ下っ端侍女。むしろ今すぐにでもお訪ねして、お詫びするべきでしょうが」

「そ、そうかもしれませんけどぉ……」


 でも気持ちの整理というか、心の準備が必要なわけでして。せめて一日空けてほしかった。


「庭の東屋を使っていいから、お茶でも飲みながらゆっくり話しなさい、だってさ」

「え、あそこですか!?」


 そこはエステル様専用のお庭なので、邪魔が入ることはありません。確かに、ゆっくり話すのにふさわしい場所ですが。


「そこ、エステル様のお部屋から丸見えですよね?」

「そうね」

「……のぞく気満々なんですね」

「んなわけないでしょう」


 ぺちん。

 またもや、おでこを叩かれました。


「バルバ様にまた変な噂がたったら困るからよ。まったく、あんたが気絶なんかするから」

「……すいません」


 だって、本当にびっくりしたんだもん。

 ため息をつきながら、私はベッドに寝ころびました。

 あーもー、明日どうしよう。まずは気絶なんかしてしまったこと、お詫びよね。そうだ、タイン様に頼んで、一番おいしいお茶とお菓子を用意しておこう。バルバ様、実は甘党なんですよね。生クリームたっぷりのケーキなんかいいかもしれない。とりあえずそれでご機嫌を取って、それから――。


「ふうん」


 明日の段取りをうんうん考えていたら、アイリスが軽く首をかしげました。


「なんだか楽しそうね」

「え?」


 楽しそう――ですか、私。


「うん、めっちゃ」


 アイリスがにんまりと笑います。え、なんですかそのいやらしい顔。


「気絶しちゃうぐらい嫌なのかと思ったけど。そうじゃないんだね」

「そ、そんなわけないでしょ! あれは本当にびっくりしただけで……」

「そーかそーか。ならよかった。おめでとう、デイジー」

「はい? なんでおめでとう?」

「お受けするんでしょ、求婚(プロポーズ)

「え、なんでそうなるの!?」

「だーって、明日のデートにウキウキしてる乙女にしか見えないし。これはもうOKする気満々だな、て」

「で、デート!? ち、違うから! 失礼をお詫びするお茶会だから!」


 そもそも相手は「英雄」のバルバ様ですよ。

 私みたいな、十年たっても平のままの侍女が妻になるなんて、そんな畏れ多いこと。


「あんた一応、子爵家のご令嬢でしょ?」

「官職すらないど田舎貴族ですよ? 貴族の令嬢だ、なんておこがましくて名乗れません」


 それに対してバルバ様のご実家は、代々続く武の名門、国の支柱ともいわれるルーツ侯爵家。個人的にも家柄的にも、私ではとてもバランスが取れません。


「侯爵家の嫡男で、英雄とまで呼ばれる方ですよ。もっとふさわしい方がいらっしゃるでしょう」

「例えば?」

「その……殿下とか」

「うわ! それ絶対殿下に言っちゃダメだからね。特にあんたは」

「え、どうして?」

「まじかー」


 私の質問に「信じられない」という顔になったアイリス。


「はぁ、まったく。侍女の仕事はあんなに気配りできて細やかなのに……気づいていないとは」

「え、何をですか?」

「いい。知らなくていい。どうかそのままのあんたでいて」

「あの……バカにしてます?」

「バカにはしてないけど、ちょっとあきれてる。でも、ものすごくあんたらしいな、て感心してる」


 アイリスの手が伸びてきて、よしよし、と私の頭を撫でました。その撫で方、ちょっと納得いきません。


「もう。私の方がお姉さんなんですからね、子供扱いしないでください」

「お姉さん、て。誕生日が三日早いだけじゃない」

「それでも私がお姉さんです」

「職階は私が上だけど?」

「……申し訳ございません。好きなだけお撫でください」


 神妙に頭を下げ、再び顔を上げたところで。

 ぷっ、と二人同時に笑い出しました。


「それで」


 ひとしきり笑ったところで、アイリスが真面目な顔になりました。


「結局どうするの、バルバ様からの求婚(プロポーズ)

「……どうしよう」


 明日のお茶会、謝って終わり――にはならないですよね。そりゃそうですよね。

 でもこれ、どうするの? なんて言って断ったらいい? そもそも断ってもいいの? じゃお受けする? でも私がバルバ様の妻って、そんなのいいの? いいわけないよね?


「あんた、ほんっとに、一度も考えたことないわけ?」

「何を?」

「バルバ様と恋仲になるとか、結婚するとか」

「ない……けど……」

「王宮勤めの侍女と騎士の結婚なんて、ザラにあるのに?」


 いやそう言われましても。

 相手は精鋭中の精鋭として有名な、第一騎士団の団長ですよ。しかも「英雄」なんて呼ばれる方ですよ。一介の、それも下っ端の侍女が、そんな妄想していい相手じゃないですよね?


「いや、だからこそ妄想すると思うんだけど」

「でも、殿下と結婚するんだろう、てずっと思ってたし……」

「なるほどねえ」


 おいたわしや、とつぶやくアイリス。私に向けて――ではないようです。


「ま、いいや。後はあんたの問題だ、しっかり悩んでちょうだい」

「そ、そんなあ! 見捨てないでよ、相談に乗ってよ!」

「しーらない。さて、明日も早いし、寝よ寝よ」

「アイリスぅ!」


 悩める私を置き去りにして。

 アイリスはベッドにもぐりこむと、あっという間に寝息を立ててしまいました。


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