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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第2章 こわおもてな婚約者
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2-14. 婚約発表

 お父様が認めてくださったことで、バルバ様と私の結婚話はとんとん拍子で進みました。

 とにかく、ルーツ侯爵家の熱意がすごくて。家令のアーチボルト様を派遣してきたことからもわかりますが、なんとしてもこの縁談をまとめようという、断固たる決意をお持ちのようです。


「これを逃したら、バルバ様は生涯独身確定ですからな」


 侯爵家存亡の危機なのです、と力説するアーチボルト様。うーん、ルーツ侯爵家の皆様、いちいち大げさじゃありませんか?

 お父様とアーチボルト様であらかたの段取りを済ませると、翌週には王都で両家顔合わせとなりました。いや早いですって。兵は拙速を貴ぶとは言いますが、せめてもう一週間いただけませんか?


「申し訳ございません。年末年始、わが当主はどうにも多忙で。なんとかご協力いただけませんか」


 アーチボルト様に平身低頭でお願いされては致し方ありません。ローミア子爵家、総力戦で両家顔合わせの準備を進めることとなりました。私も、未来の義両親に嫌われてはならないと、マナーその他もろもろを総おさらいして当日を迎えました。

 よーし、来るなら来い。絶対に気に入られてみせる、と覚悟を持って臨んだのですが。


「よく来てくれた! うちのバカ息子をよろしく頼むぞ!」

「ええ、本当に! こんな可愛らしいお嬢さんが娘になるなんて、大歓迎よ!」

「私たち侍女一同、全力でサポートいたします!」


 そんな感じで、侯爵ご夫妻はもちろん、使用人含めルーツ侯爵家を挙げて「来てくれただけでもうOK!」という大歓迎ぶりでした。

 なんていうか、その――かえってプレッシャー感じちゃいます。うう、お手柔らかにお願いしますね。


   ◇   ◇   ◇


 両家顔合わせの三日後、バルバ様と私の婚約が正式に発表されました。

 さらにその翌日、頭のてっぺんから足の先まで飾り立てられ、バルバ様と私は王宮へと向かうことになりました。

 国王陛下に婚約を報告するための、表敬訪問です。いやほんと、怒涛の展開です。よく陛下のスケジュールを押さえられましたね。ルーツ侯爵家の、絶対に私を逃がさないという気迫を感じます。


「では行こうか」

「はい」


 バルバ様にエスコートされ王宮へ。十年働いていた場所ですが、それはあくまで裏方として。こうして公の場に出るのは初めてです。しかも英雄バルバの妻となる女性を一目見ようと、多くの貴族の方が集まっているのです。

 うう、緊張します。

 名門貴族の出でもなく、絶世の美女でもなく、ど田舎貴族の地味な娘。そんな私を見て皆様がっかりするのではないか、なんて不安でいっぱいだったのですが。


「おお、あれが精霊の加護を受けた乙女か!」


 ――はい?

 今、なんとおっしゃいました?


「なんと清楚な」

「うむ。ただ美しいだけの女とは違う、清らかな気品を感じるな」

「さすがは英雄の妻となる女性だな」


 えーと、何でしょう。いったい何が起こっているのでしょう。

 思わず、謁見の場に参加されていたエステル様を見てしまいました。でも、エステル様は首を横に振るだけ。「あなた何をしたの?」と逆に目で問われてしまいましたが、私にもさっぱりです。

 とりあえず悪意は感じませんし、陛下との謁見は笑顔で乗り切るとしましょう。


「どうもね、噂が流れているらしいのよ」


 どうにか謁見を終え――夜、ローミア子爵家のタウンハウスに戻ったとき、お母様が耳にした噂を教えてくれました。


「英雄バルバが求婚(プロポーズ)した侍女は、実は精霊の加護を受けた乙女で。妻にしたければわが試練を乗り越えよと、精霊が遣わした光る獣と対決し、激闘の末にこれを退けた……ということになってるみたい」

「はぁ!?」


 光る獣と対決――それって、バルバ様とレオ君の戦いのことですか?

 いや、確かにおとぎ話みたいな事件でしたけど。あれ、そんな風に伝わってるんですか? そもそも「精霊の加護」てなんですか? そんなのありましたっけ? 私、ただのど田舎貴族の娘なんですけど。


「英雄の妻となる女性なら、それくらいであってほしいという、皆様の願望かしらねえ」


 願望、て。

 婚約しただけで「精霊の加護を受けた乙女」だなんて盛られてしまうなんて。私、この先どうなるんですか? そういえば前に「聖女のようだ」なんて噂されていたこともありましたね。これ、そのうち女神とかにされちゃうんじゃないですか? 考えるの、ちょっと怖いんですけど。


「ま、あなたが選んだ道ですから。がんばってね♪」


 お母様、そんな他人事みたいに!

 お願いです、ちょっとでいいですから、噂を打ち消すのに協力してくださいよぉ!


   ◇   ◇   ◇


 バルバ様との婚約発表に、国王陛下へのご挨拶。

 これを皮切りに、次から次へと行事が押し寄せてきました。あいさつ回りだけでも軽く百を超えたのではないでしょうか。さすがは名門ルーツ侯爵家、人脈の広さが半端ありません。

 侍女の仕事をしながらなんてのはとても無理で、私は早々にエステル様付きの侍女を辞めました。引継ぎもきちんとできず申し訳なかったのですが、エステル様、タイン様、アイリス――お世話になった人たちは、祝福と共に温かく送り出してくれました。


「またお会いしましょう。体に気を付けてね」

「はい、殿下も。皆様もお元気で」


 門出にお別れはつきものですが、十年も働いていた場所を去るのは少し寂しく感じました。

 でも。

 その寂しさなんて吹き飛ぶほど忙しい日が始まりました。特に年末年始なんて、連日の公式行事やお招きで休む暇もありません。気がつけば年が明けていて、新年最初の月も下旬になっていました。


「どうにか一段落着いたわね。お疲れ様。実家に戻って少しのんびりしていらっしゃい」


 ルーツ侯爵夫人――お義母様の勧めで、私は取り損ねた年末休暇を過ごすため、ローミア子爵領へと戻りました。

 しかも、バルバ様も一緒にとのことです。

 バルバ様はバルバ様でお忙しく、最近あまりゆっくりと話していません。ローミア子爵領では大した行事も予定されていませんから、ゆっくりできるはずです。

 お休みの間にたくさんお話ができるといいな、とウキウキした気分で休暇に入りました。

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