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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第2章 こわおもてな婚約者
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2-12. 決着

 レオ君の牙がバルバ様の喉笛に食らいつかんとしたとき。

 バルバ様の剣が光を放ち、レオ君に叩きつけられました。


 レオ君の大きな体が宙を舞います。

 その体から、バッ、と銀の光が噴き出し、レオ君はそのまま地面に転がりました。


「これは決まりましたな」

「やった!」

「さすが団長!」


 バルバ様の勝利です。でも本当に紙一重でした。あと一瞬、剣が届くのが遅ければ、地面に転がっていたのはバルバ様だったでしょう。

 よかった、と安堵のため息をついた途端、よろけました。

 足腰から力が抜け、その場にへたり込んでしまいます。慌ててシルフィーさんが支えてくれましたが、ちょっと立てそうにありません。


「デイジー殿!」


 バルバ様が、大慌てで駆け寄ってきました。

 笑顔で勝利をお祝いしようと思いましたが、顔がこわばってうまく笑えません。涙がこぼれて、目の前で膝をついたバルバ様に両腕を伸ばして抱き着いてしまいました。


「バルバ様……勝利、おめでとうございます」

「ありがとう。デイジー殿が祈ってくれたおかげだ」


 バルバ様に優しく抱きしめられ、涙がこぼれました。

 バルバ様の勝利に、安堵こそ覚えましたが、喜ぶ気にはなれませんでした。それはバルバ様も同じなのでしょう、どこか晴れないお顔をされています。


「バルバ様、レオ君のところへ連れて行ってもらえませんか?」

「わかった」


 バルバ様は私を軽々と抱き上げると、レオ君のところへ連れて行ってくれました。

 バルバ様の一撃をまともに食らい、倒れているレオ君。

 全身を淡い光が包んでいます。傷口から流れて出しているのは、血ではなく銀色の光。流れ出した光は地面に吸い込まれるようにして消えていきます。


「レオ君」


 私が呼びかけると、レオ君がゆっくりと目を開きました。

 ああ、と思わず声が漏れました。懐かしさがこみあげてきて、涙がこぼれます。

 私が知っているレオ君でした。凶悪な顔の中、猛々しくも温かな光を宿す鋭い目。さきほどまでの禍々しい殺気はもう感じません。


「どうして? どうしてレオ君は、私を殺そうとしたの?」


 レオ君を包む光が強くなりました。

 体が、顔が、そして優しい瞳が、光に包まれ見えなくなります。このまま消えてしまうんだ、そう思うと同時に、私は声を上げていました。


「待って! 待ってレオ君! お願い、もう少しだけお話させて!」


 だけど、私の願いをレオ君は聞いてくれず。

 光に包まれたレオ君は、ふわりと浮き上がると、そのまま夜の闇に溶けて消えてしまいました。


   ◇   ◇   ◇


 森の入口の広場は、夜の闇に包まれ、静寂を取り戻しました。

 光る獣の騒動は、これで一件落着でしょう。でも私の中にはやるせない気持ちが残ったままです。レオ君は、どうして何も言わずに去ってしまったのでしょうか。


「とりあえず……村に戻ろう」


 バルバ様の言葉に、私はうなずきました。

 来る時とは逆に、村の猟師の方が先頭を歩き、その後を私を抱えたバルバ様が続きます。殿はシルフィーさんとオスカー君です。


「すまぬな、デイジー殿」

「え?」

「デイジー殿の騎士(ナイト)さまを、私が倒してしまった」


 私の目の前で斬るわけにはいかぬと、最初は鞘付きのままで戦おうとしたバルバ様。きっと、どうにかレオ君を助けたいと考えてくださったのでしょう。


「謝らないでください。バルバ様は、私を守ってくださったんですから」

「しかし……」

「いいんです。レオ君が自ら戦いを望んだのです。それで命果てたとしても、本望でしょう」


 レオ君が何を考えていたかはわからないまま。でもそれについては、これからゆっくり考えたいと思います。きっと、バルバ様ではなく、私に何かを伝えたかったのですから。


「そうか……そうだな。私も共に考えるとしよう」

「ありがとうございます、バルバ様」


 レオ君と直接剣を交えたバルバ様なら、何かを感じたはず。それをお伺いし、考える糧としましょう。


「それにしても、レオ君は本当に規格外でしたね」

「ん? ああ、そうだな」

「私がレオ君と最後にお別れしたのは十三歳の時なんです。あれから十二年も経っているのに、あの若々しさ。もうとっくに死んでいると思っていたから、びっくりしました」

「ううむ、デイジー殿、それなんだが……」


 私の言葉に、バルバ様が何か言いかけた時。


『いやいや、さすがのワシも、とうに死んでおるぞ』


 へ?

 今の声――レオ君!?


『まあ、ワシが規格外のオオカミなのは確かだがな』


 カッカッカッ、と高笑い。

 え、幻聴? いえ、違いますね。皆様も困惑した顔をしています。この声が聞こえているのでしょう。


「ええと……レオ君?」

『おうとも』

「え、なんで? バルバ様に倒されて、死んだんじゃないの?」

『口惜しいことに、倒されてしもうたの。だが、それで死んだのではない。ワシが死んだのは今から十二年前だ。デイジーと別れて半月ほどで、天寿を全うしたわ』

「そうなの?」

『ワシを診た獣医も、そろそろ寿命だと言うていたであろう。忘れたのか?』


 いえ、覚えていますけど。だから最期は森に帰らせよう、てことになったんですし。


『そもそも全身から光を放ち、人語を操るオオカミなんぞ、いるわけなかろう』


 言われてみればそうですが。

 でもレオ君ならあるかもなー、なんて。ほら、なにせレオ君ですし。規格外のオオカミにして、熊とタイマン張れる「森の王者」ですし。森に帰ったら力を取り戻して若返ったのかなー、その時、不思議な力を得たのかなー、て。


『やれやれ。おとぎ話を読み過ぎではないか?』


 呆れた声に続く、大きなため息。

 うう、バカにされた。絶対バカにされた。レオ君、ひどい。てゆーか、天寿を全うしたのならどうして復活してるんですか? 結局のところ何が目的なんですか? ちゃんと説明してくださいよ。


『わかったわかった。説明してやる。別荘の前で待っておるゆえ、早う戻ってこい』


 え、別荘?

 なんでわざわざそっちに行ってるんですか? さっきの場所で説明してくれてもよかったんじゃないですか? 私、けっこう泣いたんですけど?


『ふん。負けた腹いせの、ちょっとした嫌がらせだ。待っておるゆえ、さっさと来い』


 そんな声の後で。

 ふわぁっ、とレオ君の大きなあくびが聞こえたのでした。

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