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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第2章 こわおもてな婚約者
23/34

2-11. 激闘

 唸るレオ君に注意を払いながら、バルバ様は盾を拾いました。

 ですが。


「ふむ……いらんな」


 ぶんっ、と盾を投げ捨ててしまいました。それだけではなく、兜も脱いで放り投げてしまいます。


『ほう。防御を捨てるか』

「重くてかなわん。あんなものを身に着けていては、お前のスピードについていけん」

『一撃食らえば、それで終わるぞ?』

「なに、こちらが先に一撃入れればよいだけだ」


 バルバ様が剣を構えました。ですが、鞘はついたままです。


『抜かぬのか、英雄』

「お前はデイジー殿の騎士(ナイト)さまだと聞いた」


 レオ君の問いかけに、バルバ様が静かな声で答えます。


「デイジー殿の目の前で、お前を斬るわけにはいかんだろう」

『……甘いことよ』


 ふっ、と。

 どこか呆れたように笑うレオ君。そして、ちらりと私を見ました。


『情けをかければ、デイジーに危害を加えぬとでも思っているのか?』


 レオ君の体が、再び光り始めました。そして、ドンッ、という音と共に、その光が放たれて私の方へと飛んできます。

 光は途中で二頭のオオカミとなり、私に襲い掛かってきました。とっさのことで、私は身動きできません。


「なんの!」

「我らがいることを忘れるな!」


 シルフィーさんとオスカー君が、私の前に飛び出しました。盾を構え、襲い掛かってきたオオカミを食い止めてくれます。そこへアーチボルト様の剣が一閃、オオカミは光となって消えてしまいました。


「デイジー様、ご無事ですか?」

「は、はい……」


 ドッドッドッ、と心臓が早鐘を打ちました。

 叩きつけられた殺意に体がすくんでいます。恐怖のあまり、腰が砕けてしまいそうです。


 でも、だめです。

 ここでヘタレて、どうするんですか。


 私は歯を食いしばり、下腹に力を込めました。

 私を守るため、バルバ様が戦ってくださっているのです。へたり込んでなんていられません。この戦い、最後まで――バルバ様の勝利を見届ける義務が、私にはあるんです。

 それができなくて、どうしてあの人の妻になれるでしょうか。


「デイジーちゃん、危ないよ! 下がって!」

「大丈夫です、お父様」


 息を吸って――いいえ、吐いて。

 吐いて、吐いて、全部吐き出して、それから大きく吸い込んで。

 私は胸を張り、まっすぐにバルバ様を見つめました。


「私はここで、バルバ様の勝利を見届けます!」

『……ほう』


 ――あれ?

 今、レオ君が笑ったような、そんな気がしました。気のせいでしょうか。子供の頃よく見ていた、猛々しくも温かなまなざしが、あの殺気の向こうに見えたような気がしたのですが。


『気丈よな。だが英雄、これでわかっただろう。私は本気だぞ』

「……そのようだな」

『さあ、剣を抜け、英雄。全力で来ぬと、デイジーが死ぬぞ』


 レオ君が禍々しい殺気を放ちました。手を抜くというのなら、私もろとも葬ってくれる――そんな意志が伝わってくるようです。


「デイジーには、傷ひとつつけさせぬ」


 そう告げたバルバ様が、静かに鞘を払いました。

 いくつもの戦いを潜り抜け、国難を切り伏せてきたバルバ様の剣。その刀身が月の光を浴びてきらめき、まっすぐにレオ君に向けられました。


「行くぞ、レオナルド!」

『来るがいい、英雄!』


 剣と牙が交錯し、森の空気が一変しました。


 一太刀。跳躍。咬撃。回転。


 盾と兜を捨てたバルバ様は、レオ君の素早い動きに翻弄されることなく、食らいついていました。しかし幾度剣を繰り出しても、ひらりひらりと躱されます。そして時折、レオ君がバルバ様に肉薄し、鎧の可動部、その隙間に牙を突き立ててきます。


「くっ!」


 レオ君の攻撃を防ぎ続けていたバルバ様ですが、わずかな隙をつかれ、左肘に嚙みつかれました。


 ですが、その瞬間。

 バルバ様の剣が光を描きました。


 ギャウッ、とレオ君の悲鳴が上がりました。

 バルバ様の剣が、レオ君の左肩をえぐります。そこから血――ではなく、銀色の光が噴き出すのが見えました。


「今度こそ決まったか?」


 オスカー君のつぶやきは、私の願望でもありましたが。

 レオ君は、バルバ様の追撃を素早く避け、距離を取ります。さらなる追撃をしようとしたバルバ様ですが、噛まれた左腕が痛むのか、顔をしかめ立ち止まります。


 再びにらみ合う、王者と英雄。


 そんなバルバ様とレオ君を見て、ぎゅっ、と胃袋をつかまれたような気がしました。


 私の騎士(ナイト)さま、レオ君。

 私の愛する人、バルバ様。


 私にとって大切な存在が、どうして戦っているのでしょう。レオ君は、どうして私に襲い掛かってくるのでしょう。

 こんな戦いに、意味なんてあるのでしょうか。


「お互いに一撃ずつ。レオナルドよ、ここらで手打ちとは出来ぬのか」


 私の思いを感じ取ったようなバルバ様の言葉。


『出来ぬな』


 しかしレオ君は、即座に拒絶します。そして鋭い視線を――私に向けてきました。


 あれ?

 やっぱり、笑ってる?

 なに?

 レオ君、何を考えているの?

 私に何か伝えたいことがあるの?


『とはいえ、だらだらと戦うのも芸がない。英雄、次の一撃で雌雄を決しようではないか』


 レオ君の全身が光り始めました。

 放たれる強烈な殺気。離れている私にすら伝わってくるのです、間近にいるバルバ様へのプレッシャーはどれほどでしょうか。


「望むところ」


 バルバ様もまた、剣を構え気迫をみなぎらせていきます。全身から立ち上る闘気がレオ君の殺気を押し返し、まるで私を守ってくれているようです。


 静寂が、バルバ様とレオ君を包みました。

 もう誰も割って入ることはできません。私はただ戦いの行く末を見守るしかありません。


 戦いの行く末に――何を望む?

 ふと、誰かに問われたような気がしました。その問いに、私は静かな決意で答えます。


 バルバ様の、勝利を望む、と。


『グゥォォォォォーッ!』

「はぁぁぁぁぁぁーっ!」


 裂帛の気合ととともに、バルバ様とレオ君が全身全霊を込めた一撃を放ち。

 王者と英雄の戦いは、決着を迎えました。

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