表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第2章 こわおもてな婚約者
21/34

2-09. 遠吠え

 私たちが水源の村に着いたのは、日没直後でした。


「来たぞ!」

「おお、あれが英雄バルバか!」


 村の中央にあるローミア家の別荘前に、村の人たちが集まっていました。英雄バルバの到着に、皆様が沸き立ちます。これ、村の人全員集まってませんか。さすがはバルバ様、どこへ行っても人気者です。

 村の人たちに交じって、お父様とお母様もおられました。よかった、ご無事のようです。その背後には、シルフィーさんとオスカー君の姿も見えます。


「お父様、お母様!」


 馬車を降り、お父様とお母様に駆け寄りました。二人とも、呆れ半分の顔です。私に何が起こったのか、シルフィーさんから聞いているのでしょう。


「デイジー、やっぱり来たのか」

「まったくあなたって子は」

「お父様もお母様も、ご無事で何よりです」

「あなたこそ」


 二人はため息をつきつつも、駆け寄った私を抱きしめてくださいました。


「ケガはしていないのね、デイジー?」

「はい。バルバ様が守ってくださいましたから」


 私の言葉に、お父様とお母様がバルバ様を見上げました。


「バルバ様。娘を守っていただき、ありがとうございました」

「なんとお礼を申してよいのか……」

「なんの。妻にと望む女性を守るのは当然のことです」


 力強く答えたバルバ様。その言葉を聞いて、村の人たちがどよめきます。


「え、妻に!?」

「うそっ! デイジー様、英雄バルバとご結婚なさるの!?」


 驚きの声が広がっていき、やがて、どこからともなく拍手が沸き起こりました。


「なんでぇ領主様、そうなら早く教えてくだせぇよ!」

「おめでとうございます、デイジー様!」

「いやぁ、あのちっちゃかったデイジー様がついに……めでてぇなぁ!」


 あちらこちらから飛んでくる祝福の声。

 あの、まだ決まってませんので。お父様のお許し、まだですので。ですから、その、祝福の拍手はまだ取っておいてくださいませ。


「はっはっは、皆様の祝福、ありがたいことですな」


 その様子を見て、アーチボルド様がニコニコ笑っておられます。対してお父様は困惑顔。結婚推進派と反対派の反応、てところでしょうか。


「とはいえ、まずは問題を片付けてからでしょうな」

「ああ、わかっている」


 バルバ様がお父様の前に進み、膝をつきました。これは、領主たるお父様に対する騎士としての礼。すぐにシルフィーさんとオスカー君も動き、バルバ様の後ろに並んで膝をつきます。


「お初にお目にかかる、ローミア子爵。こたびの光る獣の件、微力ながらお力添えをさせていただきたく馳せ参じた次第。私は王国第一騎士団、団長バルバ=ルーツ」

「同じく、騎士シルフィー=ワリシュ」

「同じく、騎士オスカー=バレット」

「以上三名、光る獣討伐隊への参加、お許しいただきたい」

「願ってもないことです」


 騎士の礼を取ったバルバ様たちに対し、お父様も表情を改め、丁寧な一礼で答えました。


「英雄たるバルバ様のご助力、心強い限りです。どうかこの村を……そして娘を、お守りください」

「必ず」


 短く、でも力強く請け負ったバルバ様の声。

 不思議ですね、バルバ様がうなずくだけで、すべてが解決してしまう気がします。これが英雄と呼ばれる理由――バルバ様のカリスマなんですね。


  ◇  ◇  ◇


 私たちは別荘一階に設けられた会議室に場所を移し、光る獣について情報交換をしました。


 光に包まれた、獣らしきもの。

 半月ほど前から、夜にだけ現れるとのこと。光に包まれているため正体は不明ですが、かなり大きな体で、悠々と、まるで王者のような貫禄の歩みで村を闊歩するそうです。


「どうやらここに現れた獣と、昨夜町に現れた光る獣は、同じもののようだな」


 会議に同席した猟師、お父様、そしてシルフィーさんが村の人から聞いた目撃談。すべてで私たちが町で見た光る獣と、特徴が一致します。同じものと考えて間違いないと、バルバ様は断じました。


「目撃されたのはこのあたり。村の奥、森の入口にある開けた場所だ」

「まあ、そこなんですか」


 お父様が地図で指示した場所は、私にとって懐かしい場所でした。

 私は小さい頃、この村の雰囲気が大好きで、しょっちゅう遊びに来ていました。村の子供たちとも仲良くなり、一日中駆けまわって遊んでいたものです。

 森の入口にある広場は、さほど遠くないこともあって、子供にとっては格好の遊び場でした。私にとっては思い出の場所であり、そして、大切な出会いがあった場所――。


「……あ」


 うそでしょ、私。

 どうして今まで思い出さなかったのでしょう。私にとって一番大切な思い出なのに。

 頭の中が急に晴れていく感じがして、小さい頃の記憶がよみがえります。そう、森の入口にある広場は、とても大切な場所。そこで私はあの子と出会い、そして――。



 オォォォォーン。



 夜の闇を貫いて、遠吠えが聞こえてきました。


「この遠吠え……」


 猟師の方々が眉をひそめました。

 光る獣が現れて以来、鳴き声や遠吠えを聞いたことは一度もないとのこと。それが今夜、初めて遠吠えが聞こえたのです。


「間違いねえ、オオカミだ」


 オォォォォーン。

 再び遠吠えが聞こえました。まるで誰かを呼んでいるようです。


「どうやら……私を呼んでいるようだな」


 バルバ様が険しい顔になりました。三度(みたび)遠吠えが聞こえると、バルバ様は窓を開け、大声で叫び返します。


「今そちらに行く! 首を洗って待っておれ!」


 バルバ様の声が響くと、遠吠えはピタリとやみました。


「ふん、こちらのことは見ているぞ、ということか」


 窓を閉め、バルバ様が振り返りました。険しく引き締まった顔に、他の皆様が息を呑むのを感じます。

 そのお顔は、まさしく戦士の顔。王国一の騎士であり、英雄と呼ばれる男、第一騎士団団長バルバ=ルーツです。


「シルフィー! オスカー! 行くぞっ!」

「はっ!」

「了解です!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ