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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第1章 こわおもてな求婚者
2/14

1-02. 夢じゃなかった

「はっ!?」


 気がついたら、ベッドの上でした。

 あれ、私いつの間に寝てしまったんでしょう。ずいぶん生々しい夢を見てしまいました。バルバ様がエステル様を訪ねてくる、きっと結婚の申し込みよね、なんてあれこれ妄想してたから、あんな変な夢を見たんでしょうね。


「……あーびっくりした」

「こっちのセリフ」


 独り言に、ツッコミが入りました。


「やっと起きたか、この幸せ者め」

「え?」


 同僚で同室のアイリスでした。腰に手を当てて私を見下ろし、あきれた顔でため息をついています。


「幸せ……者?」

「そーよ。まったく、求婚(プロポーズ)されて気を失うなんて。大騒ぎだったんだからね」

「え、それって今見てた夢……」

「あーもー、寝ぼけてんのか!」


 ぺちん、と。

 軽くデコピンされました。


「はい起きる! そして現実を受け入れる! あんたはバルバ様に求婚(プロポーズ)されて、気を失ったのよ!」


 徐々に意識が覚醒していきます。同時に、血の気が引いていきます。

 英雄であるバルバ様に、求婚された。

 びっくりしすぎて、気を失った。

 しかも、王女であるエステル様の前で。


「……やばい、やっちゃった」

「そーね。ほら、とっとと起きなさい。殿下のところに行くよ」


 嫌だ、行きたくない、とダダをこねたけど。

 アイリスに襟首つかまれて、エステル様のところへ連行されました。


   ◇   ◇   ◇


「あきれた」


 エステル様が、本気であきれた顔になり、深々とため息をつきました。


「デイジー。あなた、本当にバルバ様の気持ちに気付いていなかったの?」

「はい」


 噓でしょこの子、という感じでみんなが私を見ていました。なんだか痛い子を見ているような、そんな視線です。


「ここへ来るたびに、真っ先にデイジーに話しかけていたでしょう?」


 それは私が応対係で、まずは私が対応するのが決まりだからだと。


「デイジーが好きなお菓子、毎回いただいていたでしょう?」


 エステル様がお好きなお菓子でもありましたので。


「バルバ様との剣の稽古に、デイジー以外を連れて行っていないでしょう?」


 私以外の方は、バルバ様を怖がるからですよね。

 他にも色々と証拠を挙げられましたが、私にしてみればすべて別の理由がありました。そんなの気付けなくて当然だと思うんですけど。


「あなたってば……」


 またもや深ーいため息をつかれたエステル様。うう、そんな憐れむような顔をしなくてもいいじゃないですか。


「どうしてあれで気づかないのか、逆に聞きたいのですけど」

「あの、そんなにわかりやすかったんですか?」

「ダダ漏れでしたね」


 とは、侍女頭のタイン様。こちらもすっかりあきれた顔でした。


「殿下への挨拶にかこつけて、好きな女性に会いに来るなんて。バルバ様でなければ厳重注意しておりましたわ」


 うんうん、とうなずく侍女の皆様。


「わかりやすかったよねえ」

「デイジーと私たちとじゃ、明らかに態度違ってたしね」

「デイジーがいないときは、お茶も飲まずに帰ってたし」

「逆にデイジーがいると、三十分はねばるよね」

「そういえばこの前なんかさ……」

「あ、私が見たのはね……」


 キャッキャウフフと、侍女の皆様が目撃談を披露していきます。言われてみれば、なんとなく思い当たる節があります。その一つ一つを聞く限り、「これで好意に気づかないなんて鈍すぎない?」と言いたくなるような内容でして。

 うう、こっぱずかしいです。もう許してください。私が悪かったです。


「まったく。バルバ様もおかわいそうに」


 いつの間にか用意されていたお茶を、優雅に口に運ぶエステル様。のどを潤したところで、じろりと私をにらみます。


「デイジーが気絶なんてするから。バルバ様、デイジーを怖がらせてしまったかと、しょんぼりして帰られましたよ」

「え、しょんぼり?」


 バルバ様にはまるで似合わない形容詞です。それ本当ですか?


「今にも泣きそうでございましたね」

「さすがに気の毒でした」

「お慰めの言葉も出ませんでした」


 同僚の皆様が、次々とバルバ様への同情を口にします。それを聞くたびに、私の心がチクチク痛みました。


「デイジー」

「は、はい」


 カップを置き、少し強い口調になられたエステル様。私は思わず背筋を伸ばします。


「私からバルバ様に使いを出しておきます。場所は用意しますから、二人できちんと話をするように」

「え、二人で、ですか!?」

「当たり前でしょう。プライベートなことなんですから。いちいち巻き込まないでちょうだい」


 いや確かにそうですけど。

 さきほどバルバ様が私に求婚(プロポーズ)したのって、エステル様のご命令と言って差し支えないのでは? 合図とともに、侍女全員で盛り上げていましたよね?


「何か言いたいことでも?」

「い、いえ、なんでもありません」


 ギロリとにらまれて、慌てて頭を下げました。

 でも、でもですよ?

 男性と二人でなんて、何を話せばいいんですか。生まれてより二十五年、年齢=恋人いない歴のこの私、男性とお付き合いした経験なんてないんですけど。しかもお相手はあのバルバ様で、目の前で気絶するなんて醜態さらした後ですよ? 私、どんな顔して会えばいいんですか?


「知りません。自分で考えなさい」


 思わずこぼした私の泣き言に。

 エステル様はちょっとスネた感じで、ふん、とそっぽを向いてしまいました。


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