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こわおもてな旦那さま  作者: おかやす
第1章 こわおもてな求婚者
12/34

1-12. 大団……円?

 謹慎が明け。

 私は改めてお話がしたいと、バルバ様に手紙を出しました。場所はお茶会と同じ、エステル様のお庭の東屋です。

 当日、再びドレスアップされた私は、アイリスと共にバルバ様のお越しをお待ちしていました。


「ま、ぶっちゃけさ。バルバ様の求婚(プロポーズ)、断るのは無理だったと思うよ」


 ですよね。

 名門ルーツ侯爵家の跡継ぎにして、英雄と呼ばれるバルバ様の求婚(プロポーズ)、官職すらないど田舎貴族の娘が断ったりしたら、何様だ、て感じですし。


「それもあるけど。実は、もうかなり噂になっていたからね」

「はい?」


 アイリスいわく。

 英雄バルバが、エステル殿下お気に入りの侍女に思いを寄せている、というのは社交界で結構な噂になっていたそうで。知りませんでした。


「田舎貴族の娘にも断られたとなれば、バルバ様大恥かくし。その後で殿下が嫁ぐなんて話、さすがに無理だし。あんたが断るつもりだったら、総出で説得することになってたのよ」


 総出、て。

 それ絶対()()じゃないですよね。うう、想像するだけで怖いです。


「ところでさ、ひとつ聞いていい?」

「なんですか?」

「あんた、どうしてバルバ様のお顔が怖くないの? 私、今でもドキッとすることあるんだけど」


 アイリスだけでなく、タイン様やエステル様も、いきなり出くわすとびっくりするのだとか。


「騎士団の人たちですら怖い、て言ってるのに。あんただけは平然としてるのよね」

「あー、それは。たぶん、慣れているからですね」

「慣れている?」

「ほら、前に話したじゃないですか。小さい頃から私を守ってくれていた、騎士(ナイト)さまのこと」

「ああ、レオ君ね! なに、そんなに怖い顔だったの?」

「それはもう。お父様なんて、絶対に近づかなかったですね」

「なるほどねえ、耐性あった、てことか」


 懐かしいな。

 あの子、私がバルバ様と結婚すると知ったらどうするだろう。私を倒すことができたら結婚を許してやろう、とか言い出しそうな雰囲気なんですよね。やだ、想像したらおかしくなってきちゃった。


「ほら、バルバ様が来たよ。笑うのやめなさい」


 庭園の入口にバルバ様のお姿が見えました。キリア様もご一緒です。今日のバルバ様は騎士の正装。キリリと引き締まって、とてもかっこいいです。


「ようこそ、バルバ様」

「お招き、ありがとうございます」


 バルバ様のお声、ちょっと上ずっていました。手に持っていた花束を差し出され、受け取ります。


「まあ、すごく立派な花束。ありがとうございます」


 バルバ様が持っていたから小さく見えましたが、私だと両手で抱えるほどの大きさです。こんな立派な花束、もらったの初めて。うれしいな。


「そ、それでデイジー殿、本日は求婚(プロポーズ)のお返事を……」

「団長、まだです。まだ早い。落ち着いて」


 いきなり本題に入ろうとするバルバ様を、キリア様が慌てて止めていました。

 ふふ、いいコンビなんですね。


「デイジー。花束はこちらで」

「うん、お願い」


 アイリスが花束を引き取ってくれ、私は姿勢を正しました。


「バルバ様」

「な、なんでしょう」

「色々とご迷惑、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「い、いや、私は何も。迷惑なんてとんでもないですぞ!」

「ありがとうございます」


 まっすぐにバルバ様を見つめ、笑みを浮かべました。それだけでお顔を真っ赤にされるバルバ様。なんだかものすごく緊張されていて――やだもう、かわいい。これはもう、焦らしたりせず先にお伝えした方がいいですね。


「バルバ様。先日のお返事ですが」


 私の言葉に、バルバ様が、ピンッ、と背筋を伸ばされました。

 私も深呼吸をして、気持ちを落ち着けます。私にとっても一世一代の、特別なシーンなんですから。嚙んだりしたら一生後悔です。


求婚(プロポーズ)、お受けさせていただきます。ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」


   ◇   ◇   ◇


 英雄バルバが求婚(プロポーズ)に成功した。

 そのニュースは瞬く間に広がり、翌日には王都に住む誰もが知るところになったそうです。

 さすがは英雄、注目度がハンパないですね。

 その相手が私、ということもすぐに知れ渡ったとのこと。あることないこと、色々な噂も飛び交っているとか。騒ぎになると大変なので、私は当分内勤となりました。


「こんなの、序の口なんだろうなぁ」


 いずれ公の場に出た時のことを考えると胃が痛いです。求婚(プロポーズ)を受けただけでこの騒ぎですから、結婚までに色々ありそうです。いえ、むしろ結婚してからの方が大変かも。私、ちゃんとやれるんでしょうか。


「いけないけない、弱気は禁物。覚悟決めなくちゃ!」


 お昼休憩も終わりの時間。まずは目の前のことを片付けなくては。そう思い、よし、と気合を入れて立ち上がった時、タイン様がやってきました。


「デイジー、手紙が届いていますよ」

「手紙?」


 バルバ様でしょうか。いえ、バルバ様なら直接お越しになるでしょうね。はて、誰でしょう。


「あ、お父様だ」


 封筒の裏書、見覚えのある筆跡でお父様の名前が書かれていました。しかも特急便指定です。いったい何事かと、すぐに封を開けて手紙を読んだところ。


「しまった……ど、どうしよう……」


 血の気が引きました。


「どうしました?」


 タイン様が心配そうに声をかけてくださいます。私は「あははー」と乾いた笑いを返し、ガクブル震えながら顔を上げました。


「どうしたのです、デイジー。実家で何かあったのですか?」

「タイン様……申し訳ありません、私、その……盛大にやらかしてしまいました」

「やらかした? 何をです?」

「その、私……」


 私は息を呑み、震える声で、己の罪をタイン様に告白しました。


「バルバ様からの求婚(プロポーズ)のこと……両親に伝えるの忘れてましたぁ!」


 どうやら。

 早速問題が発生したようです。

第1章 おわり

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