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風邪

〈名句なき日柄憲法記念の日 涙次〉



【ⅰ】


「ガハ、ガハ」

「嫌だお父さん、風邪~?」と悦美。「君繪に伝染さないでくださいよ~」

「可笑しいな、ガハ、ガハ」拳法家、武道家は體調管理を全ての基本としてゐる。風邪感染はじろさんにしては、手拔かりと云へた。珍しく、マスクなどをしてみた。日頃は、完全なる呼吸法により、コロナ感染の懼れ0%と、マスクすらしないじろさんだつたのである。


 風邪菌と共に、更に厄介な物が、じろさんの躰に入り込んでゐた。云ふ迄もなく、【魔】である。分子レヴェルに迄、微細な奴が、じろさんの躰を操らうとしてゐた。



【ⅱ】


 じろさん、自分の躰に違和感を覺えた。これは-

「俺の躰を奴らのいゝやうにさせてたまるか」一瞬にして、じろさんには、【魔】軍の目論見が分かつたのである。風邪菌と共に、奴らが俺の躰に、入り込んで來てゐる!

(さしづめ、ベルゼブブ邊りの考へさうな事だ-)ベルゼブブ、魔界の「蠅將軍」。ルシフェルの側近、と云ふ古い過去を持つ彼は、ウィルス関係何でもござれ、だつた筈だ。


 ベルゼブブ「此井はカンテラの右腕。右腕を捥がれたカンテラの、苦痛に歪む顔が見てみたいわい、くつひゝ」

 彼は既に、美酒に酔ひどれてゐた。それ程迄に、今回の作戦、自信があつたのである。

(因みに、カンテラは左利きなので、この場合は「左腕」と云ふ方が、正しい。)


 じろさんは、考へた。この儘行動するのは危ない。自分が何をしでかすか、内在する【魔】にお伺ひを立てなきや分からない事は確かだ。まづ、【魔】を()()()事、である。



【ⅲ】


 祓ひ行、と云へば、水垢離である。だが、風邪引きの俺に、水垢離は逆効果ではないか。熱發して、ダウンしてしまふ。

 とじろさん、水が駄目なら、火だ、と思ひ付いた。


 カンテラに刀剣商(刀研ぎの際、利用してゐる。替はりの差し料を借り受けるのだ)を紹介して貰つたじろさん、何を思つてか、よく斬れる、然し無銘で安価な刀を二本、買つた。そしてカンテラにごによごによと何やら耳打ち-

 カンテラには最早業病と化した(【魔】のせゐで)風邪を伝染す心配はない。カンテラはアンドロイドである。風邪は引かない。ベルゼブブも、だからじろさんを狙つて來たのだ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈風邪引きの達人と云ふ達人は洟のかみ方一つも違ふ 平手みき〉



【ⅳ】


 カンテラは、じろさんに云はれた通り、事務所のポーチに特殊なシートを敷き、そこに自分の手指から火を放つた。「ち、ちよつと何する積もり?」秘書であり、管財者である悦美が啞然としてゐる。

「いや、これでいゝのさ」じろさんは、刀を二本、そこに置いた。並行するやうに置いたのである。じろさん、裸足で刀の上を渡り出した。これは、修験者に古くから傳はる「垢離」の方法、所謂「火渡り」、である。


 カンテラばかりでなく、じろさんとて、この手の「修法」は心得てゐた。或る程度は、魔導士として働く事が出來たのである。たゞ、不完全を嫌ひ、それを今迄實行しなかつたゞけだ。


 じろさん、合掌し、印を結んでゐる。ぶつぶつ「眞言」を唱へ、燃え盛る火の中を、刃を傳つて歩いて行く。炎を充分に浴びたな、と思つたじろさん、白刃から降りた。



【ⅴ】


 皆さんも、風邪引きの際には試してみたら如何? これで大體、治つてしまふから、不思議だ。そして微細な「菌【魔】」はすつかり滅菌されてしまつた。


「調子、どう? じろさん」

「うん、鼻の通りもすつきり。熱もない」

「風邪と一緒に【魔】退治出來たやうだね」‐「だうやらね」



【ⅵ】


 収まらないのはベルゼブブである。「火渡りだあ? この科学万能の世に、迷信を持ち込むなつての!」まあ、異常體驗が躰の自浄機能を呼び醒ます、つてのは、* ニューサイエンスでは常識なんだけどね。

 ベルゼブブ將軍、今回自分が斬られなかつたゞけでも、良しとせねば。



* それも行き過ぎると問題がなくはないが... 科学と偽科学との検証は、未だ成されてゐないのが、現狀である。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈發熱を初夏と聞き微熱する 涙次〉



 短いが、こゝ迄。皆さんも風邪には氣を付けませう。万病のもと、だからね。チャオ!!

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