表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

scene2 誇りの崩壊

 王都の名門貴族ヴェルナー家。そこに生まれた少女は、幼い頃から魔法の才を期待されていた。


 ——ヴェルナー家の名に恥じぬ実力を持て。

 ——負けることは許されない。

 ——最高の魔術師になれ。


 その言葉が、リーナ・ヴェルナーの人生そのものだった。


 7年前——ヴェルナー家の屋敷にて。


 10歳の誕生日。ヴェルナー家の広大な庭園には、貴族の子息たちが集まっていた。彼らは皆、王国の名門家系の子供たち。幼いながらも、それぞれが将来を期待されるエリートたちだった。


 その中で、リーナは誰よりも優雅に立っていた。


「リーナ様、本日はおめでとうございます」


「魔法の腕前を拝見できると聞きましたが……?」


 子供たちの間で囁かれる期待の声。それを聞いたリーナは、自信に満ちた笑みを浮かべる。


「いいわ、見せてあげる」


 彼女が手を掲げると、周囲の空気が熱を帯びた。幼いながらも、彼女の魔法はすでに一流だった。


「《ファイアボルト》!」


 彼女の指先から放たれた炎の矢が、的を正確に撃ち抜いた。その美しさと威力に、貴族の子供たちは驚嘆し、拍手を送った。


「すごい! さすがはヴェルナー家のご令嬢だ!」


 誇らしげな気持ちが胸に広がる。誰もが自分を称賛し、優れた才能を持つと認めてくれる。この瞬間こそが、リーナにとっての「正しき世界」だった。


 だが——


 その背後から聞こえた、父の低い声が、彼女の誇りを打ち砕く。


「まだ甘いな」


 リーナはハッと振り向いた。


 ガイル・ヴェルナー。彼女の父であり、王国屈指の宮廷魔術師。長身の男は、腕を組んだまま冷ややかに娘を見下ろしていた。


「父上……」


「今のお前の魔法は、美しさばかりを意識している。だが、実戦ではそんなものは無意味だ」


 ガイルは手を振ると、一瞬にして同じ《ファイアボルト》を放った。その魔法は、リーナのものとは比べ物にならないほどの速度と威力を持ち、的を焼き尽くした。


「魔法は、相手を倒すためにある。それを忘れるな」


 リーナは息を飲んだ。


 彼女の魔法は、父から見れば「甘い」。それは、すなわち「未熟」だということだった。


 誕生日の祝福の場は、一瞬にして「教育の場」に変わった。リーナはただ、冷たい視線の中で、小さくうなずくしかなかった。


  それからのリーナは、より一層の鍛錬を積んだ。


 学院に入学してからも、誰よりも高みを目指した。負けることが何よりも怖かった。だからこそ、常にトップでなければならなかった。


 その中で、彼女にとって不可解な存在が現れた。


「そんなに気を張らなくてもいいんじゃない?」


 のんびりとした声。


 ユーク・アーデル。学院の同期生で、どこにでもいる平凡な少年。魔法の才能は並程度だが、なぜか誰とでも気さくに話し、誰よりも自然体で生きていた。


 リーナは、彼のようなタイプが理解できなかった。


「勝ち負けがすべてじゃないって、どういうこと?」


 ユークは苦笑しながら答えた。


「まあ、魔法は便利な道具だからさ。別に、勝つためだけのものじゃないと思うよ」


 リーナは呆れたように笑った。


「甘いわね。魔法は力よ。強い者が使うからこそ意味があるの」


 それが、彼女の信念だった。


 現在——勇者パーティの宿舎にて。


 リーナは、手元の魔道書を閉じ、ため息をついた。


(ここ最近、魔法の調子が悪い……)


 戦闘での違和感は、日に日に増していた。以前なら、詠唱も魔力の流れも完璧だったのに、今はどこか噛み合わない。


 だが、問題はそれだけではなかった。


「……お前、最近役に立ってないよな」


「魔法使いなのに、火力がないとか終わってるだろ」


「まさか、年か?」


 仲間たちの冷たい言葉が胸を刺す。冗談交じりとはいえ、それは確実に「今のリーナ」を評価したものだった。


(私が……役に立たない?)


 そんなはずはない。彼女は名門貴族ヴェルナー家の娘であり、王国の最高学府を卒業し、勇者パーティに選ばれたエリートだ。


 なのに、今やただの「足手まとい」。


(……私は、間違っていたの?)


 ユークの補助があったから強かった。


 それは認めたくない事実だった。


 しかし、それを認めない限り、彼女はこのまま沈むしかない。


「……」


 リーナはゆっくりと立ち上がった。


 迷っている暇はない。落ちぶれるつもりもない。


(だったら、自分で何とかするしかない)


 彼女は、魔道書を手に取り、静かに決意を固めた。

読んでいただきありがとうごさいます!

この作品が面白かったら、感想、ブグマ&評価(下の星マーク)をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ