scene2 沈む太陽
剣を振るう。だが、腕は重く、刃は鈍い。
目の前の相手——ギルドの新人冒険者は、軽々とレオナールの剣を受け流した。
「……っ、くそ……!」
バランスを崩したレオナールに、相手の剣が容赦なく迫る。
「終わりだ」
寸前で止められた刃。ギルドの訓練場に沈黙が走る。
「……また負けたのか」
レオナールは膝をついた。
かつて「勇者」と呼ばれた男の姿は、そこにはなかった。
***
ギルドの酒場。
薄暗い照明の下、レオナールは一杯の酒を前にしていた。
「おい、またあの落ちぶれ勇者が飲んでるぜ」
「もうEランクだろ? すっかり俺たちの仲間だな」
周囲の冒険者たちの嘲笑が、耳に突き刺さる。
——勇者の称号を剥奪され、仲間も失い、実力も衰えた男。
それが今のレオナールだった。
「……クソが……」
酒を煽る。苦い液体が喉を焼くが、心の空虚さは埋まらない。
(なぜ、俺だけがこんな目に……)
ユークを追放した日から、すべてが狂い始めた。
だが、それを認めることはできなかった。
「俺は……間違ってない……」
自分に言い聞かせるように呟く。
だが、その言葉は驚くほど軽かった。
***
夜の王都をふらつく足取りで歩く。
「お前がいないと、俺たちは……」
かつての言葉が脳裏に蘇る。
ユークにすがりつこうとした、情けない自分。
——そんな姿を、彼は冷たく見下ろしていた。
「……チクショウ……!」
拳を壁に叩きつける。
その時、暗がりから声がした。
「ふふ……落ちぶれたな、元勇者」
「……誰だ?」
黒いローブの男が、静かに佇んでいた。
「お前は……」
「お前に、力をやろう」
ローブの男は、淡々と言った。
「力……?」
「お前が求めるものは、それだろう?」
レオナールの心が、揺れる。
(力が……あれば……)
——俺は、再び立ち上がれるのか?
ローブの男は、ゆっくりと手を差し出した。
「お前が選ぶのだ。沈むか——蘇るか」
レオナールは、その手をじっと見つめた——。
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