-仲直りは、もう一度?-
「なぁ、お前最近暗くね?」
「そうか? あんま変わらんだろ?」
呉に彼女が出来た。それは、友人として嬉しいのだが……。
あの日以来、亜澄の態度が冷たいというか、俺のどの言葉に対しても突っかかる?というのが正しいのか……。
「はぁっ……」
「59回目だぞ」
「なにが?」
「ため息! ため息1つつく度に、幸せが逃げるとか言うだろ?」
彼女持ちのお前に、俺の悩みなんかわかる訳ねぇだろが。
確かに唇が当たったし、手に胸もいったけど。好きでした訳じゃねぇし、不可抗力なんだし。なのになんであんなに怒るのかわからない。
家に帰れば帰ったで、コイツは無視をするし。
「じゃ、亜澄。敦くん、行ってくるわね」
「うーん。行ってらっしゃい」という亜澄とキョトンとする俺。
桃子さんを送り出した後、亜澄に聞こうとしても無視!
「なぁ、俺お前になんかしたか?」
「……」
「この間のことは、ちゃんと謝っただろ!」
「……」
夕飯の支度をしてる亜澄は、ふと手を止めたが、また包丁を動かし始めた。
「亜澄! お前が一体何に対して俺を無視するのかわからんけど。もういいっ!!」
亜澄の態度にイラついた俺は、そのまま家を飛び出していった。
ばか!ばか!
どうして思い出してくれないの?他に好きな子でも出来たの?
わざわざ大胆なビキニきて、胸にあるハート型のホクロに気づいて欲しかったのに……。
「バカ! あっくんのバカッ! あっ……」
涙流しながら、人参切ってたから、手元狂ってちょっと切れちゃった。
「ばかぁ!! もぉ知らないっ!!」
怒り任せに野菜を切ったり、お肉切ったり、炒めたりしてたから……
「うち、何人家族だっけ?」
ものすごい量のおかずがテーブルに所狭しに並んだ。
「もう9時じゃん。ばか…」
流石に食べ切れない量だから、タッパーに詰めて、冷凍庫へ突っ込んだ。
ママは、おじさんの家へと呼ばれて行った。何の用かは知らないけど、多分お金の話かも知れない。
ソファに座って、テレビを見てても、内容が頭に入ってこない。時計だけが、ゆっくりと動いている。
「もぉっ!! どこにいるのよ! あのバカ!」
と言ってクラスメイトに電話する訳にもいかないし。スマホ鳴らしても、返信すらないし。
アレコレ考えてたら、いつの間にか眠ってて物音で目が覚めた。
部屋の灯りは、消えてた。ついてた筈なのに。
「誰? あっくん?」
うっすらだけど、人影が見えるけど、あっくんでもお父さんでもなかった。
「ねぇ、誰? 誰かいるの?」
ガタガタと音がして、私はソファの影に隠れたけど。
「そうだ。確か、後ろの引き出しに……」
─むっかし、あっくんに貰った私の宝物の笛!
笛を思いっきり吹いた!!
ピィーーーーーッ!!ピィーーーーーッ!!
なんかバタバタとしたのか、ガタンガタン音を立てながら、人影は出てったけど…。
夜だし、なんだ?なんだ?と幾つかの部屋のドアが開いて……
その中にギョッとした顔のあっくんがいた。
「お、おにいちゃぁぁぁぁんっ!! 助けて…こあい……」
あっくんの顔を見た瞬間、腰が引けて四つん這いの状態で助けを求めた。
「盗られたものは?」
「わかんない。けど、笛は無事でした!」
駆けつけたお巡りさんに、その笛を見せた。
「空き巣ですかね? でも、どうやって入っんだろ?」
いくら高層のマンションでも、防犯カメラは各階についているし。
「大丈夫だから。ちゃんと父さんや母さんにも連絡しといたから泣くな」
怒りを鎮める為に家を飛び出したものの、財布もスマホも持たずにきて、行く当てもなかったから戻ってきたら……。
「ごめんな、亜澄。俺が飛び出してなかったら……」
なんか部屋の中が、ごちゃごちゃで刑事さんとかもきてて、落ち着かないし。父さんに電話したら、今夜は駅前のホテルに泊まれと言うから、それだけ伝えて鍵渡して亜澄と一緒にビジネスホテルに来た。
「ほら、これ飲んで……」
部屋の中にあったコーヒーを作って渡した。
「あり…がと」
まだ少し震えてるのか、うまく持てないみたいだったが……。
「俺も飲むか」
残ってたお湯で自分のコーヒーも作って飲んだけど、まだちょっと苦かった。
「少しは落ち着いたか?」
「うん」
テーブルの上にちょこんと乗ってる小さな笛をじっと見てると……
「これ? 幼稚園の頃ね、好きだった子に貰ったんだ。けど、その後、急に引っ越しちゃったから…」
なんだろう?なんか、どこかで見たような?引っ越し?幼稚園の頃を思い出したが……。
「好きな子? いたの?」
「うん。今もその子の事は、好き…かな?」
やっと亜澄が、笑った。
俺にもそんな好きな子が……いた?ような。
でも、なんか思い出せない。
「あ、風呂……。入れそうか?」
「うん。だいじょぶ」
風呂は、交代で入った。良かった……。
別々のベットに入って、なんとなく自分の生い立ち?みたいなことを話してる内に……
「やっと思い出した?」
「うん。俺、あの時は思いっきり落ち込んだ」
「おじいちゃんが亡くなって、急遽引っ越す事になったんだよね。だから、みんなにバイバイも出来なかった」
俺のあっちゃんが、亜澄で、亜澄のあっくんが俺だった。
「これは、私の大事な宝物……」
亜澄が居なくなる前日に家族で水族館に行って、お揃いの笛を買ってもらったから、渡した。ただそれだけのことなんだけど。
「私は、ずっとあっくんと会いたいと思ってた」
「俺は……」
「でも、なんかこうして会って、家族になった」
「そうだ、な」
「これ見ても、わからなかったのに?」
亜澄が、起き上がって、ガウンの胸元をはだけると……
「そこまでは、わからんって!」
「じゃ、見て! ずっと見ていて欲しい」
─なんなんだよ、いきなり……。俺だって、男なんだけど!!
目の前に、ふくよかなタルンタルンがあって、手を上そうかと思えば、
「まだだめっ!!」
待ったがかかった。
「ママが言ってたもん。赤ちゃんはね、好きな人が現れた時に出来るからって! だから、もぉ赤ちゃん出来たかも知れない」
「はい?」
─桃子さぁん!おたくの娘さん、だいぶ勘違いした性認識してますが?!
「え? そ、そうなの?」
「うん。だからね、責任取って?」
「はぁっ!? 亜澄、よく聞け。お前は、最大な勘違いをしてるんだ!」
寝るまでにはまだ時間があったから、わかりやすく教えてあげた。コイツ、頭はいいんだけどなぁ。なんで、そんな認識だったんだ?
「ほんとうにごめんなさい。まさか、その……ね?」
ひとり真っ赤な顔をして、事態を飲み込んでくれたのか、寝るまで枕で顔を何度も隠してた。
「頭がいいって、全てに対してじゃなかったんだな…」
「うるさいっ!! おやすみ!!」