-2人だけの生活-
もう少しで、アタフタな連休も終わる頃……
「じゃ、亜澄ちゃん。コイツのこと、宜しくな!」
「ママーっ!!」
これから1週間、父さんと桃子さんは、再婚旅行?にいく。が、新しく出来る店の下見らしいけど。
「もぉ、ほんと子供ねぇ。じゃ、敦くん。あとのことは、任せたわね」
「へ? あぁ、はい……」
後のことと言っても、2人が旅行中、しっかりと学校もある訳で……。
2人が乗った新幹線は、ゆっくりと大阪へと向かって、俺と亜澄は……。
「さーってと!!」
「……。」
スタスタと先に歩き出し、俺はその後をついて行ったんだが……。
恐らくアイツは迷ってる。
マジかよー。おもしれー奴だなー。
笑いたいのを堪えつつも……。
「なぁ、おい。お前、どこ向かってんだ?」
「出口……」
いや、そこに標識あるだろ?目、ついてんの?
亜澄は、目の前の壁に出口と矢印があるのが見えないのか?しきりに、ウロウロしてる。
「ったく。こっちだって!」
いきなり亜澄の手を掴んだせいか、亜澄がバランスを崩し……
「ったいなぁ!! なにすんのよっ!! がさつ!!」
「迷子になってる方が悪いんだろが!! 出口は、こっち!!」
亜澄は、俺が指さした方向を見てはいたが……目を細めていた。
「お前、そういやコンタクトしてねーの? メガネは?」
俺が知ってるコイツは、普段は眼鏡だった。顔合わせの時は、なぜかコンタクトだったらしいけど。
「う、うるさいわね!! いいじゃないの! で、どっちなの!?」
いや、だからな……
「お前、視力いくつ? 裸眼で」
「0.3よ。普段は眼鏡だけど、壊れたから……」
勝った!俺は、裸眼で2.0と、そこで張り合ってもしょうがない。
「ほら! 帰るんだから!」
手を掴んで、出口へと向かった。
「で、いくら貰ったんだ?」
「え? なにを?」
「生活費! 1週間の!」
「あぁ。あれか……。確か……」
亜澄が、俺の手を解いて鞄から今朝渡された封筒を出して、見せてくれた。
「じゅ、十万? は? 父さん、頭おかしくなった? て、これは?」
封筒の中には、お金とメモが入ってて……
「敦には、渡さないこと! って、俺そこまで金つか……うな」
渡されたお金をそのまま封筒に戻して、亜澄に渡したが……。
「お前、料理出来……たな。確か…」
「一通りは、出来るわよ。ママが、働いてたし」
複雑な家庭なのは、父さんから聞いてたけど。
「だよなー、トップだもんな。お前は!」
悔しいが、俺は何も出来ねぇ。今までは、家政婦さんが定期的にきてたけど、孫が生まれたからって辞めてしまった。
「飯には早いか……」
「そうね…。あ、スタバ!」
「……。」
げっ。あの甘ったるいやつか……。
「飲む?」
「うん!!」
しょうがないから、2人で入って俺はコーヒーにして、亜澄は長い名前のを伝えた。
小遣いは同じ金額だが……
「お前、PayPayいくら残ってんの?」
「あるにはあるけど。あまり使わないし……」
画面見せて貰ったけど、どんな使い方すればそんなに貯まるんだ?位にあった。
「これ? なんか、おばあちゃんが内緒でくれた」
亜澄のばあちゃん、怖いらしいけど、おじさん家族がいないとあれこれ優しくしてくれるらしい。
コイツ全てトップじゃねーか!!
「あげようか?」
「いらん! なぁ、それうまいのか?」
「飲んでみる?」
一口だけ飲んだら…甘すぎる。
「でも、珍しいね。君が、こういうのに興味あるなんて……」
子供の頃は、甘い飲み物が好きで、父さんが飲んでるコーヒーにもミルクや砂糖をたっぷり入れて飲まして貰ってた。
「俺には無理だな」
「そっ……」
亜澄は、短く言うと横を向いてまた飲み始めた。
─ヤバい!コレって、コレって関節キス?!ど、どうしよう!!赤ちゃん出来たりしないかな?!
心臓が波打つのが速く感じるよぉ〜。
「おーい、委員長。じゃねぇ。えっと……江尻?」
「ん? あー、呼び方ねぇ。いいんじゃない? 今まで通り、江尻で。誰にもお互いの親が再婚したなんて知らないし。担任とかだけだから……」
父さんからウツミン……宇都宮先生には、伝えてあるし、思春期の頃なので他に話す事は致しませんよと言われた。
「そうだな……」
「うん。それに、お父さんやママの前は……お兄ちゃん?…には、見えないな」
コイツは、本当言うな!
「名前呼びでいんじゃね? その方が楽だし…」
「仲良く、仲良く、か。そのうち、ボロが出たりして?」
飲み終えたカップを店内のゴミ箱に捨て、眼鏡屋へ。
「これは?」
「いいんじゃねーの? 前と同じやつ?」
「うん。よくわかったねぇ。メーカー言ったっけ?」
なんも聞かされてませんが?
アレコレかけて見る亜澄を見ながら、彼女がいたらこんな感じになるのかなぁ?と思ってた。
彼女いない歴15年。恥ずかしい話、◯貞である。アイツは、どうなんだろ?頭いいし、可愛いし…彼氏とか……
「いないけど?」
心で思ってた事が、声になっていたらしく……
「どこから? 聞いてた?」
「うん。彼氏とか?のとこからだけど? なんで?」
「い、いや。いい。忘れてくれ! 眼鏡買った?」
「うん。それがどうかした?」
亜澄は、訝しげな表情で俺を見上げてたが……。
「夕飯の買い物、行くぞ」
とだけ伝えて、足早に進んだ。
彼氏は、いないよ!ずっと君のこと好きだったんだし!告白すらされたことないわよ!!
─バカ…。鈍ちん。覚えてないの?
「おーい! 行くぞ!」
今日は、やけに暑いなぁ。
「38度、だな」
「……」
夕飯頃から、亜澄がやけに無口になって、風呂が沸いたからいいぞと伝えたら、部屋でグッタリしてた。
「ごめん…」
「まぁ、薬とかあるし。なんか、飲むか?」
「いら…ない」
顔がやけに赤いし、呼吸も少し荒いのか長く話すのが辛そうだ。
ママ達には、言わないで!と言うから、こうして亜澄の部屋に俺はいる訳だが。女の子の部屋って、こんなにも綺麗なのか?!
なんとなく、尻がムズムズしてくる。
「あっくん……」
ふと懐かしい呼び方をされたが……
亜澄は、眠っているらしく、うわごとのように"あっくん"と何度も呼んでいた。
「あっくん、あーちゃん、か……」
俺にも幼稚園の頃、そう呼んでくれた女の子が近所にいた。
当時はまだ母さんが元気で、幼稚園に母さんが迎えにくるまで、そのあーちゃんという女の子と遊んでいた。
その子と同じ小学校に通えると思ってたけど、幼稚園を卒業する直前に、ぷいとさよならも言わずに引っ越していったんだ。
約束までしたのに、勝手に居なくなってしまったあーちゃん。俺は、裏切られた気持ちになって、小学校へ入っても誰かと遊ぶ事もなく暗い気持ちのまま卒業をした。
今は…あーちゃんがどこで何をしているのかは知らない。中学校に入学して、コイツと同じクラスになって、気づいたらコイツのことしか考えなくなったし。
目が覚めると、なぜか敦くんが私の部屋にいた。なんとなく、身体が昨日はやたらと熱く感じて、小さなテーブルの上にはポカリスエットと風邪薬、体温計とか置いてあった。
「ありがとう」
小さくそう言うと彼の手が動いたが、目を開ける事はなかった。