-聞いてないっ!!-
ある日、父さんから紹介したい人がいるから、と俺は新作のゲームに釣られて、誕生日しか連れてってもらえないレストランへと連れてこられた。
「初めまして。江尻桃子といいます」
「はぁ、ど…」
「敦?」
父さんの顔が……
「あ、いや。澤田敦です……」
頭を下げた瞬間、チラッと父さんの顔を覗くと、よし!という感じで珍しく笑顔だった。
新しい母さんが出来るのか?あれ、でも聞いた話だと……
「あ、ごめんなさいね。亜澄は、珍しく体調崩しちゃって……」
そう確か父さんの話だと、俺より数ヶ月違いの義妹が出来るからというが……。
なんだ、体調が悪いのか。
「じゃ、注文しようか?」
という感じで話が流れて行ったんだが……
なんか、俺邪魔じゃね?なにこの2人、彼女いない歴15年の俺の目の前でイチャイチャしてんの?
いつもは、怒る・注意するしかしない人が、今俺の目の前で終始笑顔出してる。母さんが、病気で死んでからずっと俺は父さん側の婆さんと暮らしてたけど……。
その婆さんも死んで、父さんと2人暮らし。
「…し? おい、敦」
「へ?」
名を呼ばれ顔を上げると、父さんがメニューを指さしていた。
「どっか具合でも悪い?」
と桃子さんが、心配げな表情をしてたけど。
「あ、じゃ。俺ハンバーグセットで……」
そういうとウエイターさんが、頭を下げて去っていった。
まだそう暑くない季節なのに、俺の目の前は夏!!それも、猛暑!!という感じでこの2人はまた……。
「ねぇ、ほんとに買ってくれるの?」
食事が運ばれて、ふと新しく出るゲームソフトの事を聞いた。
「あぁ、ちゃんと買ってやる。あとお前には話さなかったが、引っ越す事に決まったから」
「ごめんね。うちの亜澄が、なんか自分の部屋が欲しい!って聞かなくて……」
聞けば、桃子さんちは自分の両親とお兄さん家族と同居で部屋が自分のお袋さんと同じらしい。
結婚するって、大変なんだな。でも、そしたら?
「亡くなった母さんの物は、そのままだ」
「ええ。嫌でしょ? だから、安心して」
はい?いや、別に亡くなった母さんのものを使われるのは、別に嫌じゃねぇぞ?といっても、そうモノは無いんだが……。
「引っ越しは、5月の連休にするし。ほら、亜澄ちゃんとよく話して、どっちが南側の部屋を使うか相談しなさい」
なんだ?口調まで、優しくなって……。いつもは、しろ!とか言ってる人が……。
「ま、いいけど」
それにしても、そのアズミって子、どんな子なんだろ?可愛い感じだったらいいけどな……。
その日は、新しい母さん(桃子さん)の紹介だけで終わったし、翌日俺は新しいゲームソフトを買ってもらった!
ありがとう。新しい母さんになってくれて。
義妹になるアズミちゃんという子の紹介は、後日の流れとなったのだが……。
「あ、遅れてごめ……え?」
「え? なんで? お前が?」
俺は、危うく飲んでいたコーラで咽せる一歩手前だった。
「どうした?」
「あず、知り合い?」
父さんと桃子さんは、キョトンとした顔で、俺と俺の同級生でもあり、俺のクラスのクラス委員長の江尻亜澄を交互に見ていた。
薄いピンクのフワッとしたワンピースに包まれた江尻亜澄は、俺の顔を見ると露骨に嫌そうな顔をした。
「なんだよ」
「……」
チッ、無視すんなよ!
俺と父さん、桃子さんと……
「江尻亜澄です。宜しくお願いします」
コイツは……
「なんだ、お前たち同じ学校?」
「同じクラス? あーっ、いつも言って……」
「ママッ!!」
ん?どうせ、俺の悪口だろうけど……。
この日は、この間行ったお店とは違って、父さんの経営するレストランの個室。
「まぁ、同じ学校で、同じクラスなら、仲もいいだろうし」
いや、父さん?俺とコイツは、仲なんて最悪だが?
─義妹が、コイツなんて……
─なんなのよ!!ママから、相手に数ヶ月離れた男の子がいるからって聞いてたから、てっきり弟かな?って思ってたのに!!よりによって、なんでコイツなのよ!!
─それでも、父さんと桃子さんの手前、仲が悪いとか知られたくないし。
─ママには、死んじゃったパパの分まで幸せになって欲しいけど……。
「あ、俺ちょっとトイレ……」
「ママ、ちょっとコンタクト直してくるね」
2人でトイレの入り口で、コソコソと話した結果……。
「いい? ママ達の前では、仲いい振りだからね?」
「わかったって! いちいち、言うな。俺だって父さんには優しくなってもらいたいんだ」
2人して、新しい父さん、母さんの前では、仲のいい振りをしよう!と決まった。
おかげで……
「ね? 大丈夫? あなた、オムライス好きだったわよね?」
「おい、いつものハンバーグで胃もたれか?」
2人して胃薬のお世話になることとなった。
「ほんと、仲がいいのねぇ」
は?
あ?
「あ、そうだ。連絡先交換しとこうか? お兄ちゃん?」
「あ、うん。そだな、義妹よ」
などと言うコントのような会話をし、俺たちは別れそれぞれの家に向かった。
「大丈夫か?」
「あー、うん。俺、風呂入る」
「あぁ」
一歩その頃…
「いい? ママ。絶対に言わないでよね!」
「え? 何を? あなたが、家で敦くんの事を言ってるのを?」
「なんで?」
「もぉっ!! いいから、言わなきゃいいの!! お風呂入ってくる!!」
絶対に知られたく無いんだから。
同じクラスになって1か月だけど……。
私の初恋の人が、義兄になるだなんて!
「ついてなぁい!」
「ついてねぇ!!」
学力テストが終わり、ついに明日から10日間の大型連休!!そして……
「私、南側の部屋がいい!!」
「あ、ずりぃ!! そこ俺……」
2人が俺を見てる……。
「じゃ、北側でいいです」
としか言えねぇじゃんよ!!
「敦、お前この成績は……」
テーブルにズラッと並んだ俺の答案用紙……
「340人中、240?! うっわぁ」
「……。」
かのいう亜澄は……。
54/340……。
「教えようか?」
「は?」
「教えて貰えばいいだろ?」
「そう…ねぇ」
桃子さんは、頬に手を当てて、俺と亜澄を交互に見てこう言った。
「ね、アズはどう思う?」
「え? わた…し?」
突然そう言われた亜澄は、なぜか妙に困った顔をした。
「ほら、お前だって嫌だろ? 俺に勉強教えるのって」
言え!嫌だと言え!言うんだ!!江尻亜澄!!(再婚したけど、互いの子供は養子縁組はしなかった)
俺は、ジッと亜澄の顔を見て、そう願っていたのに……
「…別にいいけど」
「「……」」
そこの2人!ウンウンと頷くんじゃねぇ!!
「はぁぁぁっ!? お前、頭おかしくなったんじゃねぇのか!?」
「……え?」
俺の言葉に、父さんの眉が動き、亜澄は一瞬固まっていた。
「敦!」
「あ、いや……わ、悪気はないから! 俺、ちょっと勉強してくる!!」
その場にいれるほど、神経鈍くは無いつもりだ。俺の名を呼んだ父さん、怒っていたと思う。けど、俺は本当に嫌なんだ。アイツにだけは、教えられたくない。
俺にだって、プライドっちゅーもんがある!