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03.専属メイドいわく、

私がアベリア様の専属メイドになったのは、2年前。アベリア様がグランクレスト城へいらっしゃったその日でした。




アベリア・ロデ・グランクレスト様──結婚前は、アベリア・ロデ・ユーキフォリア皇女殿下。

……はい、アベリア様は、この国……ユーキフォリアの皇女殿下であらせられます。



アベリア皇女殿下といえば、それはもうすごいお方で。

なんてったって、こんな最北端の地にもその名声が轟いていたほどですから。

何がすごいのかって?

まずはもちろん、その容姿、佇まいです!

この世の輝きを全て集めたような麗しい金髪!

雲ひとつない青空さえ霞むほどの透き通った碧眼!

雪のように白く滑らかな肌と、熟れた果実のような瑞々しい唇……

常に凛と伸びた背筋、程よく引き締まったお身体。

音も立てず滑るように歩くお姿は、騎士も顔負けの身のこなしで……



……コホン! 失礼いたしました。そんなネズミでも見るような顔しないでください。



とにかく、アベリア様ほど「皇女」という肩書きが似合う方はおりません。


ほんとです! アベリア様は見た目だけではないのですから!

宰相様からも頼りにされるほどの政治的慧眼もお持ちですし、さらにその剣技はかの剣聖・レッドハート卿も認めているほどで! まさしく文武両道才色兼備!


国中の老若男女が憧れる「理想の皇女様」なのです!!




……大袈裟ではありませんよ?

だって、そうでなければ“氷龍閣下“の伴侶になんてなれませんから……。




……あ、いえ! 今のは聞かなかったことに……!


ええええっとですね!それでその、お二人の馴れ初めはですね!



……初めは、よくある政略結婚でした。

皇帝陛下は、以前から跡取りのいないグランクレストのことを気にかけてくださっていたようで……。

なんせ、ユーキフォリアの辺境は国にとって特別重要な土地です。

中でも領主様は……その、類稀なる才を、お持ちですから。

成人を迎えられた皇女殿下を送り出すのに、これ以上の相手はいないと考えられたのでしょう。



当初、領主様は乗り気ではなかったそうですが、城へやってきたアベリア様を見て少しずつ考えを改められた様子でした。

お二人は徐々に距離を縮められ……親友のようにも、兄妹のようにも見える、暖かな関係を築かれていきました。

このグランクレストにも、ようやく“二度目の春”が訪れるのだと──皆、信じて疑いませんでした。




しかし、変化は突然訪れたのです。



明確なきっかけはわかりません。

ある日を境に、奥様の領主様に対する態度が急変しました。

それまで、木漏れ日のように優しかった奥様の声音は、夜の森のように冷たく冷え切り、領主様と目を合わせることも、並んで歩くことも厭うようになりました。

たまに笑みを見せるようになっていた領主様も、徐々に以前のような凍りついたお顔へと戻っていき……。

そのうち、ある噂が広がり始めたのです。



“奥様は、幼馴染のヒューズベルト様と密通している”と──。



もちろん私は、奥様が領主様を裏切るような真似をするはずがないと思ってます!


……が、なぜかその噂は日に日に信憑性を持って囁かれるようになり……。

とうとう先日、領主様の耳にも届いてしまったのです。


ヒューズベルト様は奥様の幼馴染であると同時に、輿入れの際に陛下から遣わされていた奥様専属の侍医でもありました。


ヒューズベルト様に危害が及ぶことを心配された奥様は、領主様に捕まる前にとヒューズベルト様を帝都へ送り返しました。

……友を巻き込むまいとしたその行動もまた、領主様にとっては許し難い裏切りに思えたのかもしれません。


そしてまさに昨夜、領主様は奥様と話し合いの場を設けたようでしたが……。



……私が見たのは、領主様の部屋から飛び出し、そのまま城の外へ向かっていく奥様の姿で……。


夜通しお帰りをお待ちしていたのですが、明け方になって領主様が血だらけの奥様を抱えてお戻りになられた時は、心臓が止まるかと思いました。


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