00.プロローグ「さいごの言葉」
ユーキフォリア皇国最北端の地、グランクレストでは、全てを塗り潰すような激しい吹雪が続いていた。
山脈の麓にある岩山、そこに聳え立つ白亜の城──グランクレスト城の一室で、銀髪の美丈夫が窓を背にして立っている。
氷の剣のように鋭いその視線の先には、ひとりの娘。
彼女もまた負けず劣らず、触れれば切れそうな双眸でもって男を睨みつけていた。
男は、地の底を這うような低音を響かせる。
「俺のそばから離れるつもりか? 勝手は許さん。その両手足を縛って二度とこの城から出られぬようにしてやっても良いのだぞ」
その声に呼応するかのように、男の背後にある窓がパキパキと音を立てて凍っていく。
暖炉の火が消え、室内の温度がぐっと下がった。
城の中とは思えない寒さが肌を突き刺そうとも、娘は動じない。
その姿に苛立ったように、男は娘の腕を掴もうと手を伸ばす。
娘はその手を、ぱしんっと叩くように振り払った。
「──うるさい! お前のような化け物、私が本気で愛していたとでも!?」
彼女の言葉は雷鳴のように轟き、硬く冷たい氷の石さえ、たやすく粉々に砕いていくようだった。
そして娘は、金色の髪を翻して、深い深い冬の暗闇に向かって駆け出した。