まどか危機一髪なのよ!
私は箕輪まどか。
鴻池大仙が当主だったサヨカ会。
その残党が動いているのを知った私達は、噂のゲームセンターに行った。
しかし、それは連中の罠で、小松崎瑠希弥さんと私、そして私の絶対彼氏の江原耕司君も囚われの身となってしまった。
江原ッチは私達に背を向けたままで、モゾモゾと動いている。
まさか、この緊急時に!
私は顔から火が出そうになった。
そんな奴だったなんて!
許せない。
でも、どうすれば?
私は瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんは戒めを解こうとして身を捩っている。
何だか妙に色っぽいので、江原ッチには見せられない。
私もせめて猿轡が解けないか、顔を動かしてみた。
ダメだ。顔の筋肉が攣りそうになる。
「ほが!(こら)」
私はまだモゾモゾしている江原ッチに近づき、頭突きを食らわせた。
「ほがあ」
涙目で私を見る江原ッチ。私は江原ッチを睨みつける。
「ほがほがほが」
何か必死に訴えているようだが、全く何を言っているのかわからない。
「ほ?」
よく見ると、江原ッチは携帯を取り出していた。
「ほがが?」
でも意味がわからない。
『まどかさん、聞こえますか?』
その時、瑠希弥さんがテレパシーで語りかけて来た。
『はい、聞こえます』
私は瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんが頷く。
『この方法も、長く続けるとあいつらに気づかれます。何とか江原先生達に連絡を取りましょう』
『はい』
私と瑠希弥さんは精神を集中して、江原ッチのお父さんとお母さんに念を送った。
しかし、応答がない。
どうやら、地下室に結界が張られているようだ。
『どうしますか、瑠希弥さん?』
私は瑠希弥さんに尋ねた。瑠希弥さんも考え込んでいる。
『まどかりん』
今度は江原ッチが語りかけて来た。
『江原ッチ! おかしな事してないで、対策考えなさいよ!』
『おかしな事? 俺、さっきから一生懸命携帯のメール打ってたんだよ』
『え?』
私はギクッとした。そうなの?
『おかしな事って、何、まどかりん?』
『そんな事、どうでもいいの!』
私はまた顔が真っ赤になった。
するとそこへ鴻池仙一が部下達と共に戻って来た。
「残念だったねえ。ここは結界の間だ。念を送る事も、念を受ける事もできないよ。そして、真言も使えない」
仙一はニヤリとして言った。私と瑠希弥さんは思わず顔を見合わせてしまった。
「助けを呼んでもらった方が良かったかな? 誰が来ようと、この部屋に入れば、只の人間だからね」
江原ッチのご両親である雅功さんと菜摘さんが来ても、人質が増えるだけだったの?
結果的には良かったけれど、このままではまずい事に代わりはない。
「まあいいさ。連中には、また別の罠を仕掛けるつもりだからね」
仙一の顔が凶悪になる。私は寒気がした。
その時だった。
「どりゃあ!」
かけ声と共にドアを蹴破り、江原ッチの親友の美輪幸治君が飛び込んで来た。
「何だ、お前は?」
仙一が仰天して美輪君を睨む。美輪君はフッと笑って(私の親友の近藤明菜が見れば失神してるわ)、
「お前らの味方じゃないのは確かだぜ」
仙一は鈴と撥を取り出した。
「お前も人質だ!」
仙一は気味の悪い笑みを浮かべ、鈴を叩く。
あの気持ち悪い音が地下室に響いた。
美輪君、逃げてェッ!
そう叫びたかったが、
「ひがぐん、ひげげー!」
としか言えない、情けない私。
ところが……。
「はあ? 何してるんだよ、おっさん?」
美輪君は何ともないようだ。私達はまた気絶しそうなのだが……。
「どういう事だ? お前は何者だ?」
「うるせえよ、おっさん! 寝言は寝てから言いな!」
美輪君はたちまちそこにいた連中を叩きのめした。
「くう!」
仙一は部下を楯にし、地下室を出て行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
美輪君は真っ先に瑠希弥さんを助けた。そして、私と江原ッチの冷たい視線に気づき、
「あ、あの、アッキーナには内緒ね」
と言った。
美輪君は、江原ッチからのメールでゲームセンターに来たのだそうだ。
「さすが、江原ッチね」
私は絶賛したが、
「さっきの頭突きがまだ痛いよお、まどかりん」
と言われてしまった。
「ごめん」
私は苦笑いして詫びた。
ゲームセンターを出て、すぐに付近を探ったが、鴻池仙一の気は感じられなかった。
「先生……」
瑠希弥さんは、山形にいる西園寺蘭子お姉さんを心配している。
「それにしても、どうして美輪には鈴が通じなかったのかな?」
江原ッチが言った。それは私も不思議だ。
「リン? 何の事だ?」
美輪君にも自覚はないみたいだ。
「不思議です。美輪君、調べさせて下さい」
瑠希弥さんが言うと、美輪君は嬉しそうに、
「はいはい、どうぞどうぞ」
と言った。
「美輪君」
絶対零度の明菜の声が響いた。
ゲーセンの外で待っていたのを美輪君が忘れていたのだ。
「もしもの時は、アッキーナが連絡してくれる手筈だったんだ。ハハハ」
美輪君は笑って誤魔化そうとした。明菜は呆れて、私を見た。私は肩を竦めた。
その後、エロ兄貴に連絡して、警察に来てもらったのだが、仙一の部下達は全員操られていただけで、何も知らなかった。
「まどか、今度は何に関わってるんだ?」
兄貴が珍しく心配そうに訊く。
「サヨカ会の残党よ」
サヨカ会と聞き、兄貴はビクッとした。
「蘭子さん、大丈夫かな?」
兄貴が小声でそう呟いたのを、恋人の里見まゆ子さんに伝えるかどうか迷うまどかだった。