瑠希弥さんが学校に来たのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者。ついでに言えば、美少女である。
ついで、ね。……。
先日、私は三年生の原西誠司さんにいきなり告白され、全校の女子達を敵に回しかけた。
原西さんは前生徒会長で、学年トップの成績を誇る超人気者なのだ。
しかも、原西さんは、私に彼がいるのを承知で告白していた。そして、
「返事は今でなくていいです」
などと言って立ち去った。危うく、
「付き合って下さい」
とどこかのアホ作者みたいに軽く落とされてしまいそうになった。
でも、そうはならないのが箕輪まどかである。えっへん!
私は、絶対彼氏の江原耕司君一筋なのだから。
え? 以前は牧野徹君と付き合っていたくせに、ですって?
細かい過去にはこだわらないでよね。
その私と原西さんの関係を特に快く思わなかったのが、三年生の隅田真保さん。
隅田さんは前生徒会副会長で、原西さんと付き合っていると自分で噂を流していたと言う噂の人だ。
何だかややこしい事になりそうだったが、隅田さんはサヨカ会の残党に操られていたのがわかった。
私の身を案じてくれた将来の義理のお父さんの江原雅功さんが教育委員会に話をしてくれて、小松崎瑠希弥さんが学校に潜入する事になった。
「俺も転校したい」
江原ッチが小声でそう言ったのを私は聞き逃さず、
「後で話があります、江原耕司君」
と脅しのメールを送っておいた。
そして、瑠希弥さんが学校にやって来る日になった。
私と親友の近藤明菜はいつものように一緒に登校し、教室に向かおうとした。
「何、あれ?」
明菜が職員室の前に群がっている男子達に気づいた。
「ああ、気にしないで。バカ男子共だから」
私はそれを無視して階段を昇り始める。
そのバカ男子の先頭にいたのがあの力丸卓司君だった事は、彼の交際相手で江原ッチの妹さんの靖子ちゃんには内緒にしてあげよう。
「まどか、何か知ってるの?」
明菜が階段を駆け上がって、私に尋ねる。
「瑠希弥さんよ」
「え?」
これでは意味不明なので、私は明菜に事情を説明した。
「なるほどね」
明菜はあからさまに嫌な顔をした。
「それでわかった。美輪君が『今日のデート、アッキーナの学校でしようよ』って言って来た理由が」
あれま、明菜の彼の美輪幸治君まで、瑠希弥さんの事を知ってるの。
江原ッチのお喋りめ、後でお仕置きね。
「美輪君、お仕置きしないとね」
明菜が憤然として言った。
明菜はネチネチと言葉で美輪君を責めるのだ。
関係ない私まで落ち込んでしまう程、明菜の言葉責めはきつい。
可哀想な美輪君。
そんなこんなで、一時間目が終了。
私と明菜がトイレに向かう途中、瑠希弥さんの声が聞こえた。
(まどかさん、職員室に来て下さい)
え? 何? 職員室に来て下さいは、生徒にはNGワードよ、瑠希弥さん。
「明菜、ちょっとごめん」
私はトイレを素早くすませ、職員室に走った。
「こらあ、廊下を走るな!」
体育の藤本先生が怒鳴った。
「ちょりーす」
ふざけてそう言うと、何故か嬉しそうな顔になるので、藤本先生は面白い。
「失礼します」
私は恐る恐るドアを開き、職員室に入った。
「まどかさん、こっちこっち」
紺のスーツに黒眼鏡と言う最強形態の瑠希弥さんが、某CMのように職員室の端で呼ぶ。
設定では、事務員さんとの事だ。
私が姿を見せたので、瑠希弥さんに蠅のように纏わりついていた男の先生達がサッと逃げ出した。
奥さんに言いつけますよ、本当に。
「どうしたんですか、瑠希弥さん?」
私は時間を気にしながら尋ねた。
「江原先生の予想通り、この学校にサヨカ会の残党の気配があります」
瑠希弥さんが声をひそめて言う。
「え?」
私はギクッとした。
「人が集まる所にいれば、正体が発覚しにくいと判断したのでしょう。私にもどの人がそうなのか、わかりません」
「そう、ですか」
ああ、危ない。今回は絶対にNGワードは言わないぞ。
「但し、職員室にはいませんね」
「そうなのですね」
またもやギリセーフだ。職員室にいないとなると、生徒の中にいるのだろうか?
「しかも、一人なのか大勢なのかもわかりません。ですから、一人での行動は慎んで下さい」
「わかりました」
私は大きく頷き、チャイムが鳴ったので、職員室を出る。
「まどかさん、これを」
瑠希弥さんが数珠を渡してくれた。
「これは西園寺先生から頂いたものです。魔を退け、まどかさんの力を増幅してくれるはずです」
「あ、はい」
私は緊張してその数珠を受け取った。蘭子お姉さんの数珠か。心強いな。
私は職員室を後にして、廊下を走る。
「階段を駆け上がるのは危険だよ、箕輪さん」
偶然、原西さんと踊り場で会った。
「すみません」
私は原西さんの顔を見ないようにして頭を下げ、すれ違う。
「可愛いね、箕輪さんて」
その時、原西さんが囁いた。私は心臓が大きく鼓動するのを感じた。
何、今の? 私、原西さんに惹かれているの?
そのドキドキは、教室に戻っても収まらない。
顔が火照っているのがわかる。
私、どうしちゃったのかな?
自分の気持ちが理解できないまどかだった。