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美少女霊能者箕輪まどかの霊感推理  作者: 神村 律子
小松崎瑠希弥さんと一緒なのよ!
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ロリコン伯爵に会ったのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。ついでに美少女ね。


 ……。


 何なのよ、本当に! 何か私に恨みでもあるの?


 え? 恨みしかない? 酷い……。


 


 そんな事で、今日は大雪注意報が出ているG県南部。


 私の住むM市も、積雪が五センチを超えると予報で言っていた。


 雪は嫌いじゃないけど、すべるから嫌なのよね。


 え? 今の時期、すべるとか言うなって?


 ああ、受験シーズンだからね。


 でも、言われなくても、すべる人はすべるんだから、気にしても仕方ないわよ。


 え? 酷過ぎるって? まあ、スルーしてよ。


 ところでスルーって何?


 


 今度こそ本題ね。


 大雪は私達の登下校を直撃し、私は慎重に歩を進め、家に帰った。


 バレンタインイヴを美輪君と過ごした親友の近藤明菜は、雪のせいで体調を崩し、寝込んでしまったようだ。


 先生から渡されたプリントを届けるため、私は苦労して明菜の家に向かう。


 舗道は車が跳ねた汚い雪と、道路伝いの家が集めた山のような雪で狭くなっている。


 車の跳ねる雪を避けようとすると、屋根から落ちて来る雪が傘を揺らす。


「もう!」


 私はついイラッとして叫んだ。


「おうおう、まーどかちゃんじゃないか」


 その時、一番会いたくない人の声が聞こえた。


 G県警鑑識課最古参の宮川さんだ。ロリコン伯爵である。


「こ、こんにちは」


 私は震えながら宮川さんを見た。


「相変わらず、可愛いなあ、まーどかちゃんは」


 鑑識の制服を着た宮川さんは大きな傘を差して、笑顔全開だ。怖過ぎる。


 あれ? 宮川さん、花束を持っている。


「お、これか? 残念だけど、まーどかちゃんにあげるために買ったんじゃないんだ。また後でね」


 宮川さんは、私が花束を見たのを勘違いしてそんな事を言い出した。


「いえ、別にいいです」


 私は作り笑いをして応じた。貴方からの花束なんて、未来永劫結構ですから。そう言いたかった。


 あれ? その花束、何だか……?


 ウソ……。宮川さんて、離婚してるんだ。


 知らなかった。っていうか、結婚してたんだ。


 手に持っている花束は、亡くなった娘さんのお墓に供えるために買ったものだ。


 娘さんもいたんだ。更に驚きだ。


「お墓参りですか?」


 私は探るような目で尋ねる。すると宮川さんは見た事がない顔になった。悲しそうだ。


「そうだよ。娘の墓参り。女房と離婚してから、娘が病気になってさ」


「そうなんでありますか」


 NGワードを避けるためとはいえ、酷く場違いな言い回しをしてしまった。


「ずっと知らせてもらえなかったんだよ。やっと知らせが来た時は、葬儀も終わってからだった」


 宮川さん、可哀想。奥さんのご両親が、宮川さんを嫌っているのだ。いや、憎んでいる。


 駆け落ち同然に、大学生の時結婚したのだ。


 ご両親は、その時すでに妊娠していた奥さんとお腹の中の娘さんのために入籍は認めたけど、結婚式は挙げさせなかった。


「娘のお墓がある場所も、知り合いの葬儀屋が教えてくれたので、何とかわかったんだ。でなきゃ、未だに墓参りもできなかった」


 宮川さんは涙ぐみながら、歩き出した。あれ? これは一緒に行くしかない展開?


「昼夜別なく仕事に出る酷い夫だったからね。離婚は仕方なかった。言われるままに応じたよ。でも、慰謝料はいらないから、娘に会わないでくれという条件は、本当に辛かった」


 私は何も言えなかった。いつも能天気な宮川さんからは全く感じられない話だったので。


 娘さんが亡くなったのは、三年前。小学校五年生だった。


 あれ? 私と同じ学年?


「ここだよ。やっと娘に謝れる」


 宮川さんは、あるお寺の脇にある墓地に入って行く。私も後に続いた。


「あ」


 墓地の先に女の子の霊が立っている。


 宮川さんの娘さんだ。


 彼女は、私に見えている事を悟ったのか、お辞儀をした。


「娘さんがいますよ、宮川さん」


 私が言うと、宮川さんはハッとして、


「見えるのかい、まどかちゃん?」


 何だ、宮川さん、「まどかちゃん」て言えるの?


 今度からは普通に呼んでよね。


「ええ。お墓の前で待ってますよ」


 宮川さんは、傘を投げ出し、雪塗れになりながら、走った。


 私も歩を早める。


「お父さん、ごめんなさい。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとお母さんを許してね」


 娘さんの名前は、まどかさん。そうか、そうだったのか。


「円……」


 宮川さんは、お墓の前で泣き崩れた。宮川さんの制服に雪が降り積もる。


「宮川さん、円さんが、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんとお母さんを許してって言ってます」


 私は円さんの言葉を伝えた。宮川さんは涙でグチャグチャな顔を私に向けた。そして、お墓に向き直り、


「許すも許さないもないよ、円。お父さんが全部悪いんだから。お前にまで心配かけて、本当に悪いお父さんだな」


 宮川さんはまた泣き崩れた。円さんも泣いている。


「お父さん」


 すがりつきたくてもそれができない円さんは、号泣する宮川さんを見つめる事しかできない。


「円さん、私の身体を貸すわ」


「え?」


 円さんはキョトンとした。私は微笑んで頷く。


「ありがとう、まどかさん」


 円さんは私が同じ「まどか」だと知り、私の身体に入って来た。


「お父さん、ありがとう。そして、ごめんなさい」


 円さんは何年かぶりに父親の背中に抱きついた。


「円……」


 宮川さんは顔を上げて私を見た。今の私は、円さんに見えているはずだ。


「まどかあ!」


 宮川さんが円さんを抱きしめた。


「お父さん!」


 二人はしばらく抱き合ったまま泣いた。


 


 雪も小降りになった頃、お別れの時が来た。


「お父さん、ありがとう。私、行くね」


 円さんが言う。


「ああ。また会えるかな?」


「もちろん。また会えるわ」


 円さんが私から離れる。


「さようなら、お父さん。いつか、お母さんと仲直りしてね」


「ああ、頑張るよ」


 宮川さんはまた涙ぐんでいる。


 円さんは光に包まれ、天に上がって行った。


「円……」


 宮川さんは、見えてはいないのだろうけど、ずっと空を見ていた。


「ありがとう、まどかちゃん。本当にありがとう」


 宮川さんが私を見て言った。私は照れ臭くなった。


「大した事じゃないですよ」


 宮川さんの事が好きになれそうだ。


 本当はロリコンじゃなかったのかも知れない。


「また、円と会わせてくれるかな?」


 心なしか、顔を赤らめた宮川さん。


「ええ、いいですよ」


 私は笑顔全開で応じた。


「このままデートに行こうか、まーどかちゃん」


「嫌です」


 やっぱりロリコン伯爵なの? 照れ隠し?


 


 そして、明菜の所に行った後、身体が冷え切って、寝込んでしまったまどかだった。

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