冬子さんを助けるのよ!
私は箕輪まどか。もうすぐ中学二年生の霊能者だ。ちなみに美少女である。
うーん。
久しぶりに妙な自己紹介が復活したのは、作者が錯乱しているの?
G県は、北部山沿いは豪雪地帯で、南部は空っ風が吹きすさぶところだ。
今日も私は、強風にスカートが巻き上げられないように注意しながら、家路を急いでいた。
親友の明菜がインフルエンザで休んでいるので、お見舞いに行くのだ。
明菜には会えないけど、花とメッセージカードを渡すつもりだ。
ところが、そうはイカの……。おっと危ない!
お父さん並みの昭和ギャグで、しかもエロ兄貴さえ言わないような下ネタを言ってしまうところだったわ。
しかし、思い通りにいかないのが、私の人生だ。
「まどかりん!」
私の絶対彼氏の江原耕司君の声がした。
空耳? でもかなりはっきり聞こえたぞ。
「まどかりん、こっちこっち」
またか。ユー○ャンのCMのような台詞と共に、江原ッチが現れた。
「え!?」
しかも、驚いた事に、小松崎瑠希弥さんの運転するスポーツカーの助手席に乗っていたのだ。
「どういう事よ!?」
私は窓から身を乗り出して私に手を振っている江原ッチの襟首をねじ上げた。
「く、苦しいよ、まどかりん」
江原ッチが泣きそうな顔で言う。
「小倉冬子さんが狙われています。早く乗って下さい」
瑠希弥さんが言った。
「え? 冬子さんが?」
私は江原ッチを素早く後部座席に押し込み、助手席に乗った。
「小倉さんは、赤白山の山頂付近に結界を張って潜んでいたらしいのですが、サヨカ会の残党に見つかってしまったようです」
「え?」
赤白山の山頂? あの某テレビ番組で毎年恒例だったワカサギ釣りをしている辺り?
今確か、氷点下よ、そこって。
冬子さん、サヨカ会に見つかる前に凍死しちゃうわ。
「行きますよ」
瑠希弥さんがアクセルを踏み込む。
車は唸りを上げて走り出した。
「山頂付近て、雪がありますよね。大丈夫なんですか?」
私は不安になって尋ねた。
「え?」
瑠希弥さんが蒼ざめる。
「瑠希弥さん、まさか、タイヤを履き替えていないんですか?」
江原ッチが後部座席から身を乗り出して言った。
「はい」
瑠希弥さんは悲しそうな顔をして答えた。
どうしよう? 今からタイヤ交換をしていたら、間に合わない。
「オヤジの四駆なら、確かスタッドレスタイヤのはず。一回家に戻りましょう、瑠希弥さん」
「はい」
瑠希弥さんは嬉しそうな顔で応じた。
私達は江原ッチの家に行った。
ところが、更に難問が待ち構えていた。
「私、マニュアル車は運転できないんです」
瑠希弥さんが恥ずかしそうに言う。
免許がない私には意味不明だが、どうやら瑠希弥さんは「オートマチック車限定免許」を持っているらしいのだ。
その免許だと、江原ッチのお父さんの車は運転できないのだ。
しかも、悪い事に、今日はお父さんもお母さんも不在。
「どうしよう?」
自分のせいで動きが取れないと思ってしまった瑠希弥さんは、泣きそうな顔になった。
「兄貴に連絡してみます」
私は意を決してG県警鑑識課の兄貴の携帯にかけた。
「何だ!?」
仕事中らしく、もの凄く不機嫌な兄貴が出る。
「代わって、まどかさん」
瑠希弥さんに携帯を渡す。
「お仕事中申し訳ありません、慶一郎さん。小松崎瑠希弥です」
「えええ!?」
そばで聞いている私達にも聞こえるくらい、兄貴は大声を上げた。
瑠希弥さんは手短に状況を説明した。すると、
「付近にいるパトカーで迎えに来て下さるそうです」
瑠希弥さんは嬉しそうに言った。
凄い。さすが瑠希弥さん、エロ兄貴をイチコロ……。
そして、わずか一分少々で、パトカーが現れた。
「どうぞ、乗って下さい」
迎えに来たのは、付近をパトロール中の交通課のおまわりさんだった。
「申し訳ありません」
どうやら、この人も瑠希弥効果で急いで来たらしい。何て事だ。
大丈夫か、G県警?
「いえいえ」
瑠希弥さんに頭を下げられて、ニヤついているのが嫌だが、今はそんな事を考えている場合ではない。
パトカーに乗るなんて、久しぶりだが、何度乗っても乗り心地が悪い。
さすが、天下のG県警だ。嘘のように早く、赤白山山頂付近に着いた。
「急ぎましょう、まどかさん、耕司君」
瑠希弥さんはパトカーを降りると、走り出した。
「きゃあ!」
案の定、瑠希弥さんは雪の上で盛大に転んだ。
「大丈夫ですか?」
パトカーのおまわりさんが、機敏な行動で瑠希弥さんを助け起こす。
チッと舌打ちした江原ッチを、私は思い切り睨んだ。
江原ッチの顔色が途端に悪くなる。
「ごめんなさい」
次は慎重に歩を進める瑠希弥さんだった。
私達は、雪の上をそろそろと歩き、冬子さんがいると思われる沼の反対側に来た。
ここら辺は確か、去年も来たところだ(マジでヤバいって感じ?参照)。
でも、去年と違って、一面雪景色だ。
沼の上でワカサギ釣りをしている人達がたくさんいる。
「こっちね」
瑠希弥さんは細心の注意を払いながら、林の中を進む。
少し開けたところがあり、そこに雪に埋もれかけた小さな小屋が建っていた。
「冬子さん!」
私は思わず駆け出し、叫んだ。
「まどかちゃん」
すると小屋の扉がギイッと開き、冬子さんが現れた。
「どうしたの、小松崎さんまで?」
「は?」
私達は呆気に取られた。
冬子さんの話では、サヨカ会の残党の気配を感じたのだが、彼らは現れていないという。
「でも、結界を破ろうとしている気を感じたのですが?」
瑠希弥さんが不思議そうな顔で冬子さんに尋ねる。
「麓の結界を破ったのまでは感じたけれど、それより上の結界は破られていないわ。さっき、あなた達の気を感じて、結界を解いたところなの」
「そうなんですか。いずれにしても、何事もなくて良かったです」
瑠希弥さんはさり気なくNGワードを言い、笑顔になった。
「ここも知られてしまったから、別の場所に移らないといけない」
冬子さんは小屋を見て言った。すると江原ッチが、
「ウチに来ませんか? ウチなら、安全ですよ」
と言い出した。私はギクッとした。江原ッチ、冬子さんまで?
「ありがとう。でも、皆さんに迷惑をかけられないわ」
冬子さんは最近笑顔が素敵になって来ている。
「かけてもいいんじゃないですか? 俺達、共に戦った仲間ですよね?」
江原ッチは真剣な表情で言った。
私はウルッと来た。瑠希弥さんも目を潤ませて江原ッチを見ている。
「ありがとう、江原君。お言葉に甘えるわ」
こうして、冬子さんも江原ッチの家に行く事になった。
江原ッチはすぐにお父さんに連絡を取った。
「大歓迎ですって、オヤジ。若い女性が増えて、嬉しいみたいです」
江原ッチの言葉に、冬子さんが赤面した。
おお。冬子さんが恥ずかしがるのって、初めて見た気がする。
あれ? もしかして、冬子さんて、案外年上が好み?
まあ、いっか。
私達はまたパトカーに乗せてもらい、江原ッチの家に帰った。
私達は知らなかった。
サヨカ会の残党のメンバーが、赤白山山頂に向かう途中で、道路でスリップして、林の中に突っ込んでいたのを。
雪道は安全運転で走行して欲しいと願うまどかだった。