里見まゆ子さんは嫉妬深いのよ!
私は箕輪まどか。中学一年生だけど、霊能者だ。
考えてみると、もうすぐ中二なのよね。
世の中、「中二病」とかいう病があるらしいけど、私には関係ない。
だって、私はリア充だから。
で、中二病って何?
今日は日曜日。
そして私のエロ兄貴は寝て曜日らしい。
お父さん並みの「寒いギャグ」をかまして来る。
恋人の里見まゆ子さんと喧嘩したらしく、デートをキャンセルされ、腐っている。
だったら、昔のようにたくさんいるはずのガールフレンドに連絡すれば良さそうなものだが、まゆ子さんと付き合うに当たって、今までの「女性関係」を全て清算させられたらしい。
携帯に溢れんばかりに登録されていた女性達は、皆削除させられたのだと言う。
まゆ子さん、恐るべし。
そして、それに素直に応じた兄貴もアッパレだ。
私は張本さんじゃないけど。
そんな兄貴を慰めるでもなく、私はサッサと家を出て、絶対彼氏の江原耕司君の家に向かう。
今日は江原ッチの家で、食事会なのだ。
だから私は朝食も抜いて、準備万端だ。
えっ? どこまで食い意地が張っているんだって?
大きなお世話よ、フンだ。
いよいよ江原家が見えて来た時だった。
「まどかちゃん」
どこからか、私を呼ぶ声がする。しかも聞き覚えがある。
「こっち、こっち」
今流行りの資格取得のCMかと思ったら、違った。
兄貴の恋人にして、私の将来の義理のお姉さんの、まゆ子さんだった。
明子姉ちゃんみたいに電柱の陰から私に手招きしている。
デジャヴって奴?
「まゆ子さん、どうしたんですか?」
私は不思議な偶然に驚いた。まさかまゆ子さん、江原家の食事会目当て?
そんなはずはないな。
「今から、そのお屋敷に行くんでしょ?」
まゆ子さんは江原家の門を見て尋ねる。
「はい、そうですけど。それが何か?」
私はますます意味がわからず、尋ね返す。
「だったら、私も一緒に行っていいかしら?」
「えっ?」
ドキッとした。まさかまゆ子さん、本当にお食事会目当てなの?
「小松崎瑠希弥さんとお話したいの」
まゆ子さんの言葉に私はビックリした。
もうそれは終わったはずなのに。
まゆ子さん、意外に嫉妬深いのかな?
「兄貴はもう、瑠希弥さんとは連絡取ってませんよ」
「それはわかってる。でも、念のため。ね?」
まゆ子さんの目が怖い。私は逆らう事ができなくなっていた。
「わかりました」
仕方なく、私はまゆ子さんを伴い、江原家の門をくぐった。
「いらっしゃい、まどかりん……」
江原ッチが出迎えてくれたが、まゆ子さんがついて来ているので、驚いている。
「お久しぶりね」
まゆ子さんはニコッとして江原ッチを見る。江原ッチは「ショタコン事件」(里見まゆ子さんが怖いのよ!参照)の事を思い出したのか、顔を赤らめて、
「ど、どうも」
とだけ言った。
「瑠希弥さんはいる?」
私が代わりに尋ねる。
「いるけど。どうしたの?」
江原ッチは不思議そうだ。それはそうだろう。
「お話があるの」
まゆ子さんは穏やかに言ったつもりなのだろうが、私と江原ッチは殺されると思った程だった。
「よ、呼んできます」
江原ッチはまさに逃げるように家の中に駆け込んだ。
私をまゆ子さんと二人きりにしないでよ。
そう言いたかったが、言えなかった。
あれ? 何だろう、この違和感は?
何かを感じるのだけど、それが何なのかわからない。
もう限界、と思い始めた時、
「お待たせ致しました」
と瑠希弥さんが来てくれた。
江原ッチは、玄関の扉からこっちを覗いているだけで、出て来ようとしない。
「今日は、小松崎さん」
まゆ子さんが怖い笑顔で挨拶する。
しかし、霊感は鋭いのにそういうのにはまるで鈍感な瑠希弥さんは、
「今日は、里見さん。お久しぶりです」
とごく普通に挨拶した。
まゆ子さんの嫉妬パワーが跳ね上がるのがわかった。
あっ! 私は思わず瑠希弥さんを見た。瑠希弥さんが頷く。
「まどかさん、摩利支天真言を」
「はい」
私達は印を結び、真言を同時に唱えた。
「オンマリシエイソワカ」
真言が二重に膨れ上がり、まゆ子さんを押し包む。
「きゃっ!」
まゆ子さんの身体に幾重にも取り憑いていた生霊が一気に引き剥がされ、消えて行った。
瑠希弥さんが来た事で、私にもわかった。
まゆ子さんは、兄貴と縁を切られた女性達の生霊に取り憑かれ、嫉妬の塊にされていたのだ。
もしかして、まゆ子さんて、霊媒体質なのかしら?
「あら? 私、何していたの?」
生霊が離れたので、まゆ子さんは自分を取り戻したようだ。
私は動揺するまゆ子さんに事情を説明した。
まゆ子さんは真っ赤になった。
「恥ずかしいわ。私、そんな事を……」
穴があったら入りたい。それが今のまゆ子さんの心境だろう。
「慶一郎さんに言います。携帯の登録を元に戻していいって」
まゆ子さんは申し訳なさそうに言った。
「それがいいですね。過剰な束縛は、亀裂の原因です」
瑠希弥さんが言った。
「お食事の用意もできていますから、里見さんもどうぞ」
「あ、はい」
結局、まゆ子さんは食事会に参加する事になった。
いろいろと話をした二人は、携帯番号とメールアドレスを交換したようだ。
良かった。
知っている人同士の関係がうまくいかないのは、見ていて気持ちのいいものではないから。
私も反省しなくちゃ。江原ッチが気が多いのは、私の嫉妬も一因なのがわかったから。
「ご馳走様でした」
私とまゆ子さんは、江原家を後にした。
「いろいろありがとう、まどかちゃん」
まゆ子さんが帰り道で言う。
「私は別に……。みんな、瑠希弥さんのおかげですよ」
私は苦笑いして応じた。
「西園寺さんも、小松崎さんも、全然慶一郎さんには気が向いていないのに、私、嫉妬ばかりして……。本当に恥ずかしいわ」
まゆ子さんはまた赤くなった。
「でも、何か嬉しいですよ、妹としては」
「えっ?」
まゆ子さんはビックリして私を見た。
「だって、それだけまゆ子さんはお兄ちゃんを好きだって事ですから」
私はニヤッとして言った。するとまゆ子さんはゆでダコみたいに赤くなり、
「や、やだ、まどかちゃんたら……」
と言うと、足早に歩き出した。
そんなまゆ子さんを可愛いと思う。
今日は何となくいい日だと感じるまどかだった。