サービスエリアは危険がいっぱいなのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
只今、関越道を北へ爆走中。
小松崎瑠希弥さんの運転で、憧れの西園寺蘭子お姉さんがいる山形に向かっている。
決してビートきよしさんに会いに行くのではない。
それより……。
瑠希弥さんの顔から笑顔が消えているのが気にかかる。
どこかのメイドと違って、いつも笑っている訳ではないけど、瑠希弥さんも笑顔のイメージがある。
しかし、高速を走り始めてから、瑠希弥さん、眉間に皺が寄りっ放し!
何だか怖い。
「あの、瑠希弥さん、どこかでトイレタイムしませんか?」
私は声をかけるのも怖いくらいだったが、勇気を振り絞って言った。
「そ、そうね。そうしましょう」
瑠希弥さんは私をチラリとも見ないで答えた。
不安がまた増した……。
瑠希弥さんは一番近いサ-ビスエリアに入ってくれた。
つい、溜息を吐いてしまう。
「ごめんなさい、まどかさん」
瑠希弥さんは駐車スペースに車を停めるなりそう言った。
私はギクッとした。
怖がっていたのがわかってしまったようだ。
「いえ、その、えーと……」
作り笑顔で取り繕おうとした。
「トイレ、我慢してたのね。気がつかなくてごめんなさいね」
「……」
瑠希弥さんは全く別の事を詫びていたのだ。私は苦笑いした。
「あ、ありがとうございます」
瑠希弥さんはトイレには行かず、売店の方へと歩き出した。
私は成り行き上、したくもないのにトイレに向かった。
「あれ?」
トイレの途中にある看板の前。
そのサービスエリアはいつもは利用しない所なので、初めて立ち寄ったのだが、妙な気が漂っているのがわかった。
(霊? 何だか微妙だ)
そんな事を考えていると、本当に尿意が訪れてしまった。
「ふう」
取り敢えず、トイレをすませ、また気を感じた所に戻った。
(何だろう、これ?)
考えていると、また尿意。
え? どういう事?
今度は強烈だ。走った。
危なかった。漏れそうになったのだ。
「もしかして……」
さっきの場所を遠くから霊視してみる。
原因がわかった。
生霊という訳ではないのだが、トイレが混雑した時にあの辺りでたくさんの人が我慢していたようだ。
その念だけが漂っていて、そこで休憩したり、立ち止まったりすると、念の影響で尿意を催すみたいだ。
私はそこを通らないようにして、車に戻った。
その間に、何も知らないカップルがそこでイチャイチャし始めた。
予想通り、二人は同時に尿意を催し、トイレに走った。
「浄霊した方がいいのかな?」
私が呟くと、
「差し支えないでしょう。大丈夫ですよ、まどかさん」
瑠希弥さんが笑顔で缶コーヒーを差し出して言った。
「そうですか」
危ない。もう少しでNGワードだ。
「勝手に選んで買ってしまったけど、大丈夫?」
「はい。私はコーンポタージュ以外でしたら」
ハッと気づくと、そのコーンポタージュを飲んでいた瑠希弥さん。
嫌味に聞こえたかな? ちょっとバツが悪い。
「そうなんですか」
わや! 言われてしまった、NGワード。
「あの念は、あと二、三日で消えますから、そのままで大丈夫です。それより、問題なのは私の車です」
「え? どうしたんですか?」
私は瑠希弥さんの車を見た。
そして、ギョッとした。
さっきまで何もいなかったはずなのに、ワラワラと妙な霊が取り憑いている。
良く見ると、若い男の生霊だ。どういう事だろう?
「売店で飲み物を買っていたら、妙な男の人達に囲まれて、怖かったので」
「ナンパですか?」
私は鋭い目で周囲を見回す。私の彼氏の江原ッチや、親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君を無意識のうちに落としてしまう瑠希弥さんの能力なら、その辺のエロ男など、あっと言う間だろう。
「ちょっと帝釈天の真言で追い払ったのですが……」
「え?」
いきなり雷撃っすか? 瑠希弥さん、結構過激かも。
なるほど、連中は気を失ったけど、生霊が瑠希弥さんを追いかけて来たのね。
「まどかさん、お願いしていいかしら?」
瑠希弥さんが申し訳なさそうに言う。
つまり、瑠希弥さんが攻撃すると、そいつらは更に瑠希弥さんに惹きつけられてしまうという事らしい。
「わかりました。全部まとめて吹き飛ばします」
私は印を結び、
「インダラヤソワカ!」
と唱えた。
生霊達は車から弾き飛ばされ、肉体に戻ったようだ。
「車で来たのは失敗でしたね。先生に、電車は人が集まるから良くないと言われたのですが」
瑠希弥さんは人、特にエロい男共をどんどん引き寄せてしまうようだ。
「運転していても、前と後ろの車から、強烈な念が放射されて、本当に疲れました」
「そうなんですか」
わあ! 自分で言ってしまった、NGワード。
そういう事だったのか? 瑠希弥さん、運転が下手な訳じゃなかったのね。
「ちょっと先生に相談してみます」
瑠希弥さんが携帯を出してかける。
途端に周囲にいた男達が瑠希弥さんに気づき、近づき始めた。
もしかすると、電波の影響?
車の中でも、ラジオを聴いていたからかな?
ああ、瑠希弥さん、男共に取り囲まれてる!
私はすかさず、
「インダラヤソワカ!」
と雷撃をお見舞いする。するとその力で、瑠希弥さんの周りに漂っていたいわゆる「淫の気」って奴が消えた。
瑠希弥さんは全くそんなつもりはないのだが、瑠希弥さんの感応力が強過ぎるために、男共の淫の気を呼び起こしてしまうようだ。
これはあくまで私の推理でしかないけど。
「摩利支天真言を唱えて、数珠を手首に巻けばいいみたいです」
瑠希弥さんは周囲に集まって呆けたようになっている男達を気にするでもなく、私に言った。
「そうですか。良かったですね、解決して」
瑠希弥さんは早速摩利支天真言を唱え、数珠を巻いた。
私にもわかるくらい、瑠希弥さんの気が落ち着いた。
「さすが、蘭子お姉さんですね」
「はい。私なんか、まだまだです」
瑠希弥さんは笑顔で言ったが、ちょっと落ち込んでいるみたいだ。
蘭子お姉さん。まだまだ私には遠い存在だ。
当面の目標は瑠希弥さんにしよう。
今は、どちらかと言うと、瑠希弥さんの感応力より「ボン、キュ、ボン」のスタイルがほしいまどかだった。




