瑠希弥さんと霊視に行くのよ!
私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。
え? 「美少女」ってどうして入れないのかですって?
恥ずかしくって無理だからよ!
知ってて訊いているでしょ、意地悪!
小松崎瑠希弥さんを思い浮かべると、自分はまだまだお子ちゃまだって思い知らされるのよ。
ようやく現実に気がついたな、ですって?
フンだ!
そんな訳で、一時は降板の噂も流れた(?)エロ兄貴が、久しぶりに霊視の話を持って来た。
現場は隣のT市郊外。
昔は古墳だったのかと思われるような小高い丘にうっそうと木が生い茂っている場所だ。
その森の中で、若い女性の遺体が発見された。
今流行の山ガールという訳ではない。
そこは単なる私有地で、観光名所ではないからだ。
近くに大きな白衣観音像があって、そこは観光地だけどね。
今日はエロ兄貴が妙に嬉しそうだ。
それに反して、すでに婚約間近という噂の里見まゆ子さんは浮かない顔をしている。
周囲が引くくらい最近ラブラブだった兄貴とまゆ子さんに何があったのかと言うと……。
瑠希弥さんだ。
今回の霊視の仕事には、瑠希弥さんが同行しているのだ。
私の絶対彼氏の江原耕司君のお母さんである菜摘さんが、瑠希弥さんに私と同行するように勧めたらしい。
将来の義理の母である菜摘さんの意向を無視するわけにもいかないし、私もできるだけ瑠希弥さんと話がしたかったので同意した。
最初は不服そうだった兄貴と、私に賛同してくれたまゆ子さんは、瑠希弥さんに会ってから、立場が入れ替った。
兄貴は大賛成派に早代わりし、まゆ子さんは慎重派に変身。
瑠希弥パワー恐るべしなのだ。
そして今は移動中の車の中。
運転するまゆ子さん。助手席で嬉しそうにしているバカ兄貴。
何も知らずに後部座席に座っている瑠希弥さん。
それを横目で見ながら、エロ兄貴のアホさ加減に呆れる私。
瑠希弥さんはこの前会った時より魅力がアップしているらしく、同行を切望した江原ッチは菜摘さんに却下され、只今精神修養中らしい。
ちょっとだけ可哀想な気もする。
でも、瑠希弥さんに実際会ってみて、女の私でさえクラッとするくらいの力を感じる。
身体の半分がエロからできている兄貴に瑠希弥さんを会わせたのは大きな間違いだったかも知れない。
エロに関しては、三歳児ほどの理性もないのだから。
車が急停車した。
瑠希弥さんをチラチラ見ている兄貴に怒ったまゆ子さんが急ブレーキをかけたのだ。
「きゃ!」
私はまゆ子さんの様子に気づいていたので平気だったが、無防備だった瑠希弥さんは驚いたようだ。
瑠希弥さん、ちょっと天然が入っていて、そこだけが気にかかる。
「着きました」
ぶっきら棒にそう言うと、まゆ子さんはさっさと車を降り、トランクから鑑識セットを取り出す。
「ここは……」
私は異様な雰囲気にビクッとした。
そこは古い合戦場のようだ。
たくさんの人が戦死している。
その人達の霊はすでにいないが、その人達の怨念が留まったままだ。
「いけませんね」
瑠希弥さんが必須アイテムの黒縁眼鏡をクイッと上げて呟く。
「何がですか?」
瑠希弥さんの言葉は全て拾う兄貴のエロ耳が聞き逃すはずがない。
それに気づき、まゆ子さんがまたムッとする。
「はい!」
兄貴に叩きつけるように鑑識セットの入ったジェラルミンのケースを渡した。
「ここ、悪意が集積しています。その悪意に呑まれた人物が、女性を殺害したようです」
い! 商売上がったりだわ、瑠希弥さん!
私が何も感じていないのにそこまでわかるなんて!
「まどかさん、行きましょう。お二人はここにいて下さい」
瑠希弥さんは兄貴達にそう言うと、私に目配せし、森に入って行く。
「う……」
さっきより気持ちが悪い気が吹き溜まりのように留まっているのを感じる。
「わかりますか、まどかさん?」
瑠希弥さんの目は、初めて会った時の西園寺蘭子お姉さんの目と似ていた。
私はドキッとした。
(かっこいい、瑠希弥さん……)
瑠希弥さんは木々の間を歩いて行き、悪意の中心を目指した。
私もそれに続く。
「まず、被害者の女性の霊を守りましょう」
「はい」
殺害された女性の霊は、ここの悪意に取り込まれそうになっていた。
「オンマリシエイソワカ!」
私と瑠希弥さんは摩利支天の真言を唱えた。
周囲の悪意が散り、女性の霊は解放された。
「オンカカカビサンマエイソワカ」
次に地蔵真言を唱え、女性の霊を霊界へと送る。
そして仕上げだ。
ここをこのままにしておくと、また同じような事件が起こる。
「相手は霊ではないから、容赦しなくていいわ、まどかさん」
「はい」
私達は印を結び、大黒天真言を唱えた。
「オンマカキャラヤソワカ!」
瑠希弥さんと私の力が合わさったので、その大黒天真言は江原ッチとの合体技より凄まじかった。
つむじ風のように悪意を巻き込み、その全てを浄化した。
「任務完了ね」
瑠希弥さんがニコッとして私を見た。私も微笑み返した。
何だか瑠希弥さんにドキドキしたのは、そういう事ではないと思うけど。
私達は兄貴達のところに戻った。
「犯人は被害者の恋人です。但し、彼は自分が殺した事を知りません。難しい事件になるでしょう」
瑠希弥さんが兄貴に説明した。
「そうですか」
兄貴もまゆ子さんに怒られたのか、ようやく鑑識課員の顔になった。
「片づけて下さい」
まゆ子さんに言われるがままになっている兄貴はこっけいだった。
「小松崎さん」
まゆ子さんが瑠希弥さんに声をかけた。
何だか気まずそうなのがわかる。
「はい、何でしょうか?」
瑠希弥さんは相変わらず屈託のない笑顔だ。
「ごめんなさい。それだけです」
まゆ子さんはペコリと頭を下げると、車に乗り込んでしまった。
「何でしょうか?」
不思議そうな顔で私を見る瑠希弥さん。
「さあ」
私は笑顔で肩を竦めた。
この雰囲気、叶わないなあ。
瑠希弥さんがその気になったら、落ちない男子なんていないだろう。
絶対そんな事しないと思うけど。
あれ?
そう言えば瑠希弥さん、自分の力を制御できるようになったら、私にその力のつけ方を教えてくれるって言ってたよね。
何だか楽しみなまどかだった。ムフ。
 




