マッキーを守るのよ!
私は箕輪まどか。中学生の美少女霊能者だ。
しかもイケメンの彼氏までいるリア充である。
え? 使い方、間違ってる?
気にしないでよ、一休さん。
この前、私は絶対彼氏の江原耕司君ととうとうキスをした。
し、し、しかも、く、唇同士で!
きゃああああ!
今思い出しても顔が赤くなる。
江原ッチをかなり刺激してしまったようで、彼は夜眠れなかったとメールをくれた。
それは私もだった。
以前付き合っていた牧野徹君とは、手を繋ぐだけで、ほっぺにすらキスした事はなかった。
彼も、あの悪役商会の予備軍のような綾小路さやかと順調なのだろうか?
さやかも相当なツンデレだから、牧野君みたいな草食系がいいのかもね。
「だから、あんたにツンデレとか言われたくないって何度言えばわかるのよ!」
え? さやかの声が聞こえる。
とうとう幻聴? 私ってやばいの?
「いつまで妄想に耽ってるのよ、まどか!」
ふと顔を上げると、そこにはそのツンデレがいた。
「だからツンデレ言うな!」
さやかは髪の毛が逆立つほど怒っていた。
「あれ? ここはどこ?」
状況が飲み込めない。どうしてさやかがいるの?
そこはファミレスだった。
更にさやかの横には、マッキーこと牧野君がいた。
ああ! ようやく思い出した。
大通りを歩いていた時、牧野君に声をかけられて、ここに入ったんだ。
でも何故さやかが?
「私も一緒にいたでしょ!」
さやかはまだ怒っている。
「まどかちゃん、江原君は?」
いつもの笑顔でマッキーが尋ねた。私は憤るさやかを無視して、
「今、ちょっと冷却期間中なの」
私は苦笑いして答える。
江原ッチが、
「今まどかりんと会うと、まどかりんを襲っちゃいそうなので、しばらく頭を冷やさせて」
とメールをよこしたのだ。
襲われるのは困るので、私も承諾したのだが、会えないのはやっぱり寂しかった。
「あーら、もう倦怠期なの、まどか?」
さやかが嬉しそうに言った。私はムッとしたが、
「まあね。ラブラブ過ぎると、そんな事もあるのよ」
と強がってみせる。
ところで、倦怠期って何?
「実は、まどかちゃんに相談があるんだけど」
マッキーが深刻な顔で話し出す。さやかもマッキーを心配そうに見ている。
どうしたのだろう? マッキーの気がどんよりしている。
以前、彼のお父さんが悩んでいるのを解決してあげた事があるけど。
「僕、狙われてるんだ」
「え? どういう事?」
私はキョトンとした。するとさやかが、
「以前私が付き合っていた奴が、牧野君と私の事に気づいて、牧野君をつけ狙っているのよ」
「ええ!?」
さやかが以前付き合っていた男?
それは性質が悪そうだ。
「全部聞こえてるんだから、言葉には気をつけてよね」
さやかが呆れ気味の顔で私を見る。
「でもさ、以前付き合っていたって、いつよ? マッキーとは六年の時からでしょ?」
「幼稚園の時」
何故か恥ずかしそうに答えるさやか。
それ、付き合ってたの? 大いに疑問だ。
「そいつも霊感強くて、よく幼稚園の帰りに除霊して遊んでたの」
それは凄い。私も除霊ができるようになったのは、まだそれほど前じゃないのに。
「ずっと連絡取れてなかったんだけど、この前偶然、そいつと会ったの」
私はさやかの気を通じて、その幼稚園時代の男を探ってみた。
うわ! 何、こいつ?
結構霊感強いんですけど。
しかも、何気にイケメンで、さやかってば、そいつに気持ちが動きかけてるわ。
「まどか」
さやかは私を引き摺るようにしてトイレに行く。
「私はおしっこしたくないわよ」
「違うわよ! 牧野君に聞かれたくないの!」
さやかは顔を赤らめている。
「あ、あいつに気持ちが向きそうなのは、牧野君に知られたくないわ。だから……」
「わかってるわよ。そんな事、私がすると思ったの?」
私は微笑んで言った。するとさやかは、
「思った」
と酷い返し。
「あんたねえ!」
取り敢えず、その話題には触れない事で、トイレ会談は終了した。
「だったら、さやかがきっちり話しつければいいんじゃないの?」
私が言うと、さやかは、
「それができれば苦労はしないわ。あいつ、私の気を知っているから、私がいると近づかないのよ」
牧野君は恥ずかしそうに、
「それで、中学が同じまどかちゃんに助けてもらえればと思ったんだ」
なるほど。そいつはマッキーが一人の時を狙って来るのか。
「わかったわ。元カノとして、助けてあげる」
私は笑顔全開で応じた。
「ありがとう、まどかちゃん」
「頼んだわよ、まどか」
さやかが高圧的なのは気に食わないけど、マッキーの顔に免じて許してあげよう。
こうして交渉は無事終了し、両首脳は帰宅したのだった。
そして翌日。
いつ以来だろう?
私は牧野君と登校。多分、中学生になってからは初めてだ。
「何だか、緊張するなあ」
牧野君は照れながら言う。そんな顔をされると、私も照れてしまう。
「あれえ、何だ、何だ、浮気か、箕輪?」
肉屋の力丸卓司君が近づいて来た。事情を説明するのが面倒臭いので、
「靖子ちゃんに言いつけるわよ」
と呪いの言葉を吐いた。リッキーはビックリして、
「ひいい!」
と叫び、逃げて行った。効果てきめんだ。
その時だった。
「牧野徹、さやかちゃんと別れろと言ったのがわからないらしいな。痛い目に遭わせるぞ」
と声が聞こえた。
「ま、まどかちゃん……」
牧野君は私の背中にしがみついた。
この辺は、小学校時代と変わらないな。
「うーん? その子は誰? もしかして、新しい彼女かな、泣き虫君?」
そう言って現れたのは、昨日さやかを通じて感じたイケメンだ。
パッと見はそれなりだが、どことなく胡散臭いのは何故だろう?
「誰よ、あんた?」
イケメンは自分の気でガードしたので、それ以上は心の中はわからない。
「僕の名は、叶秀明。通称イケメン仮面だ」
何故かバラをくわえた。どういうつもりだろう?
ああ。痛い子なのか。
「可哀想な子を見るような目をするな!」
叶と名乗ったその男が言う。そして牧野君を見ると、
「さやかちゃんは僕にこそ相応しいのだよ、泣き虫君。君はコオロギにでも愛を囁いていたまえ」
と意味不明な事を言った。
「さやかは、あんたなんか嫌いだって言ってたわよ、ツケメン仮面さん」
私がわざと間違えると、
「イケメン仮面だ! お前、ちょっと可愛いと思っていい気になるなよ。自分で思っているほど、お前は可愛くなんかないんだからな!」
と毒づいて来た。
「私はちょっと可愛いんじゃなくて、凄く可愛いのよ、ラーメン仮面さん」
「また間違えたな! 許さない!」
そいつはヒステリーを起こした。
「地獄を見せてやる! インダラヤソワカ!」
叶は帝釈天の真言を唱えた。私は牧野君と共にその場から飛ぶ。
雷撃が虚しく地面を貫いた次の瞬間、
「インダラヤソワカ!」
私の帝釈天の真言が、叶を襲った。
「グギャギャーッ!」
叶は感電して、その場に倒れた。
「世の中には、上には上がいるって事を知りなさい」
「は、はひ……」
感電しながら、叶は反省の弁を述べた。
こうして事件はあっさり解決した。
と思われた……。
ところが!
下校時。私は江原ッチにメールで、
「襲われてもいいから、会いたい!」
と送信し、コンビニで待ち合わせ。
もう少しで着くところだった。
「まどかさん」
不意にそいつは現れた。
「か、叶! まだ懲りないの!?」
私は再び印を結んだ。すると叶は慌てて、
「あああ、違う、違う! リベンジに来たんじゃないよ。これを」
と封筒を差し出した。
「はあ?」
「じゃ!」
叶は照れ笑いをしながら走り去った。
中身を開いてみる。
「好きです。付き合って下さい」
私は全身に鳥肌が立った。
とんでもない展開になったよお!
モテ過ぎるのもどうかと思うまどかだった。