表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/235

時代は移り行くものなのよ!

 私は箕輪まどか。中学生である。そして霊感が鋭い。しかも美少女だ。


 でも、人気はない。


 こら! 少しまともそうな自己紹介だと思ったら、何よ?


 人気がないとか、言わせないでよね。


 私には隠れファンがたくさんいるのよ。


 多分。


 きっと。


 恐らく。


 ううう。本当に泣きそうだから、もうやめて。


 


 最近は、今までより早めに家を出て、絶対彼氏の江原耕司君と途中で待ち合わせし、登校する。


 それが私のささやかな幸せ。ムフ。


「じゃあ、放課後ね」


 江原ッチと手を振り合いながら、別々の道を歩き出す。


 ああ。遠距離恋愛している人達って、こんな感じ?


 どんな感じよ?


 まあ、いいわ。


「箕輪さん」


 聞きなれない声で呼びかけられる。


「はい?」


 つい、妙なトーンで返してしまった。これでは水○豊だ。


 そこには、同じ中学校に通う女子がいた。


 しかし、顔を合わせるのは初めてだ。


「何ですか?」


 私はにこやかに尋ねたのだが、その子はどうした事か、一歩退き、


「あ、あの、幽霊が見えるんですよね?」


「はい」


 それか。興味本位で話しかけないでよね。


「わ、私の通学路に、女の子の幽霊が出るんです。霊視して下さい!」


といきなり「寸志」と書かれた熨斗袋のしぶくろを差し出された。


「あのね、私は商売で霊視してるんじゃないから、お金なんていらないわよ」


 私は関西のオバさんとは違う。


 私の目標は西園寺蘭子さん。あの人は、この前も只働きをしたそうだ。


 私達霊能者の鑑だ。


「い、いえ、お金じゃないんです。力丸ミートのコロッケ無料券です」


「はあ?」


 何だ、それ? どうしてリッキーの家のコロッケ無料券なの?


「まどかさんの大好物だと聞いたので」


 苦笑いするしかない。大好物ではないけど、無料券は魅力だ。


「どうか、お願いします!」


「わかったわ。放課後にもう一度話を聞かせて。それから?」


 私が何を聞こうとしたのか、彼女にはわかったらしい。


「私、井本和子って言います。よろしくお願いします!」


 井本さんね。この子、多少は霊感があるみたい。


 そして私達は、始業時間が迫っているのに気づき、慌てて駆け出した。


 早く行かないと、あの顔の大きい藤本先生に説教されちゃう!


 


 そして、あっと言う間に放課後。


 私は江原ッチに急用ができたとメールした。


 江原ッチの残念そうな返信メールを見て、気持ちが揺らいだが、コロッケ無料券をもらってしまった以上、今更断るわけにもいかない。


「まどかさん」


 校門の前で待っていると、井本さんがやって来た。


「ごめんなさい、日直だったので」


「大丈夫よ。現場に案内して」


「はい」


 井本さんは、話をしてみると、あの綾小路さやかと同じクラスのようだ。


 一瞬嫌な予感がするが、彼女からはさやかの気配はしない。


「この先なんです」


 井本さんが路地の角を曲がり、前方を指差す。


「?」


 何、今の? 一瞬、風景が江戸時代に見えたんだけど?


「私、その女の子の霊が見える時と見えない時があって、何か伝えようとしているのはわかるのだけど、急に見えなくなってしまったりして……」


「そうなの」


 ああ、危ない。危うく、NGワードを言ってしまうところだった。


 それにしても、何、ここ?


 私の住んでいるところから、それほど離れていないのに、こんなところがあるなんて知らなかった。


「あ」


 原因がわかった。


 ここら辺は、今までずっと道路の整備ができなかった区域なのだ。


 古い佇まいの家がたくさん並んでいたが、遂に工事が始まることになり、その町並みが消滅するのだ。


「最後の江戸の風景なのね」


 私は不意に現れた着物姿の幼い少女の霊に語りかけた。


「まどかさん、あの子が来ているんですか?」


 井本さんが辺りを見回す。彼女には見えていない。


 そう、女の子の霊は、ここの佇まいと共に存在していたのだ。


 工事が進み、完全に取り壊しが完了すると、彼女はここに留まれなくなる。


「ごめんね、力になれなくて」


 私は女の子に言った。女の子は悲しそうな顔をしていたが、


「ありがとう」


とだけ言うと、スーッと消えてしまった。


「行ってしまったわ」


「え?」


 何も見えていない井本さんは、キョトンとして私を見た。


「彼女は、江戸時代の火事でこの辺りで亡くなった子なの。それでもいくつか焼け残った当時の家や塀と共に、ここにいたの。でも、もうそれもできなくなったので、誰かに気づいて欲しくて、貴女に声をかけて来たのよ」


「そうなんですか」


 うわあ! 井本さんにNGワードを言われた!


「だから、祈りましょう。彼女が成仏できる事を」


「はい」


 私達は、空を見上げて手を合わせた。


 


 たまにはいい話で終わる事もあるまどかだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ