時代は移り行くものなのよ!
私は箕輪まどか。中学生である。そして霊感が鋭い。しかも美少女だ。
でも、人気はない。
こら! 少しまともそうな自己紹介だと思ったら、何よ?
人気がないとか、言わせないでよね。
私には隠れファンがたくさんいるのよ。
多分。
きっと。
恐らく。
ううう。本当に泣きそうだから、もうやめて。
最近は、今までより早めに家を出て、絶対彼氏の江原耕司君と途中で待ち合わせし、登校する。
それが私のささやかな幸せ。ムフ。
「じゃあ、放課後ね」
江原ッチと手を振り合いながら、別々の道を歩き出す。
ああ。遠距離恋愛している人達って、こんな感じ?
どんな感じよ?
まあ、いいわ。
「箕輪さん」
聞きなれない声で呼びかけられる。
「はい?」
つい、妙なトーンで返してしまった。これでは水○豊だ。
そこには、同じ中学校に通う女子がいた。
しかし、顔を合わせるのは初めてだ。
「何ですか?」
私はにこやかに尋ねたのだが、その子はどうした事か、一歩退き、
「あ、あの、幽霊が見えるんですよね?」
「はい」
それか。興味本位で話しかけないでよね。
「わ、私の通学路に、女の子の幽霊が出るんです。霊視して下さい!」
といきなり「寸志」と書かれた熨斗袋を差し出された。
「あのね、私は商売で霊視してるんじゃないから、お金なんていらないわよ」
私は関西のオバさんとは違う。
私の目標は西園寺蘭子さん。あの人は、この前も只働きをしたそうだ。
私達霊能者の鑑だ。
「い、いえ、お金じゃないんです。力丸ミートのコロッケ無料券です」
「はあ?」
何だ、それ? どうしてリッキーの家のコロッケ無料券なの?
「まどかさんの大好物だと聞いたので」
苦笑いするしかない。大好物ではないけど、無料券は魅力だ。
「どうか、お願いします!」
「わかったわ。放課後にもう一度話を聞かせて。それから?」
私が何を聞こうとしたのか、彼女にはわかったらしい。
「私、井本和子って言います。よろしくお願いします!」
井本さんね。この子、多少は霊感があるみたい。
そして私達は、始業時間が迫っているのに気づき、慌てて駆け出した。
早く行かないと、あの顔の大きい藤本先生に説教されちゃう!
そして、あっと言う間に放課後。
私は江原ッチに急用ができたとメールした。
江原ッチの残念そうな返信メールを見て、気持ちが揺らいだが、コロッケ無料券をもらってしまった以上、今更断るわけにもいかない。
「まどかさん」
校門の前で待っていると、井本さんがやって来た。
「ごめんなさい、日直だったので」
「大丈夫よ。現場に案内して」
「はい」
井本さんは、話をしてみると、あの綾小路さやかと同じクラスのようだ。
一瞬嫌な予感がするが、彼女からはさやかの気配はしない。
「この先なんです」
井本さんが路地の角を曲がり、前方を指差す。
「?」
何、今の? 一瞬、風景が江戸時代に見えたんだけど?
「私、その女の子の霊が見える時と見えない時があって、何か伝えようとしているのはわかるのだけど、急に見えなくなってしまったりして……」
「そうなの」
ああ、危ない。危うく、NGワードを言ってしまうところだった。
それにしても、何、ここ?
私の住んでいるところから、それほど離れていないのに、こんなところがあるなんて知らなかった。
「あ」
原因がわかった。
ここら辺は、今までずっと道路の整備ができなかった区域なのだ。
古い佇まいの家がたくさん並んでいたが、遂に工事が始まることになり、その町並みが消滅するのだ。
「最後の江戸の風景なのね」
私は不意に現れた着物姿の幼い少女の霊に語りかけた。
「まどかさん、あの子が来ているんですか?」
井本さんが辺りを見回す。彼女には見えていない。
そう、女の子の霊は、ここの佇まいと共に存在していたのだ。
工事が進み、完全に取り壊しが完了すると、彼女はここに留まれなくなる。
「ごめんね、力になれなくて」
私は女の子に言った。女の子は悲しそうな顔をしていたが、
「ありがとう」
とだけ言うと、スーッと消えてしまった。
「行ってしまったわ」
「え?」
何も見えていない井本さんは、キョトンとして私を見た。
「彼女は、江戸時代の火事でこの辺りで亡くなった子なの。それでもいくつか焼け残った当時の家や塀と共に、ここにいたの。でも、もうそれもできなくなったので、誰かに気づいて欲しくて、貴女に声をかけて来たのよ」
「そうなんですか」
うわあ! 井本さんにNGワードを言われた!
「だから、祈りましょう。彼女が成仏できる事を」
「はい」
私達は、空を見上げて手を合わせた。
たまにはいい話で終わる事もあるまどかだった。