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私には私の魅力があるのよ!

 私は箕輪まどか。中学生なのに大人の魅力溢れる美少女霊能者だ。


 ……。


 また自己紹介がおかしい。でも、もう気にしない事にした。


 多分、作者の老化現象だろうから。




 という訳で、今日はまた日曜日。


 今日こそ、私にメロメロの江原耕司君とデート。


 今までは親友の近藤明菜と、彼女のボーイフレンドの美輪幸治君とのダブルデートだった。


 今日は違う。今日は二人きりで、本格的なデート。


 のはずだった。


「初めまして、耕司の父の雅功まさとしです」


 何故か、山伏の格好をした江原ッチのお父さんがいた。確か、有名な退魔師だ。


「は、初めまして、箕輪まどかです」


 私は、ドキドキしていた。江原ッチ、お父さんが一緒ってもしかして、結納?


 そんな訳はない。そもそも私達は結婚を前提のお付き合いではない。


 私は、何故かG県の山奥に来ていた。


 こんなところで結納をするはずがないし、デートもできない。


「耕司、奇麗なお嬢さんじゃないか。良かったな」


「う、うん」


 嬉しそうに頷く江原ッチを見て、私は何も言えなくなった。


「お休みの日に申し訳ないね、まどかさん」


「あ、いえ」


 愛想笑いが板について来た。


「貴女にご同行願ったのは、貴女のその類い稀なる能力を見込んでなのです」


「はい」


 何か照れ臭い。江原ッチが大きく頷いているのも、恥ずかしい。


「この山の奥に、悪霊が棲む廃墟があります。そこへ出向き、除霊をします」


「はい」


 そうじゃないかと思ったんだけど、やっぱりそうか。溜息を吐きそうになるが、こらえる。


「さあ、行きましょう」


「はい」


 お父さんが歩き出す。おお。


 今気づいたんだけど、凄い。お父さん、多分あの西園寺蘭子さんに匹敵するオーラだ。


 もしかして、それほど強いの、今日の悪霊さんは?


 怖いフリをして、江原ッチにしがみつく。


「まどかりん、大丈夫だよ」


 彼は私の肩を優しく抱きしめてくれた。


 よーし。そこがどこだろうが、その気になればデート気分になれそうだ!


 私は燃えて来た。


 


 しばらく獣道のような細い林道を歩いて行くと、前方にそれとわかる大きな家が見えて来た。


 よくホラー映画で登場する「化け物屋敷」だ。


 雑草が生い茂り、蔦が壁一面に走っている。


 窓ガラスは全て割れ、玄関のドアは朽ち、その向こうに闇が見える。


 いる。相当昔からここにいる奴が。


 多分、この建物ができる前からいる。


 え? どういう事?


「気づきましたか、まどかさん。ここに棲む悪霊は、この家の住人を全員殺したのです」


「それって、まさか?」


 私は震えた。生まれて初めて、霊が怖いと思った。


「ここの土地そのものが悪霊と一体になっています。今まで除霊して来た霊とは、ラベルが違いますよ」


 お父さん。もしかして、今のギャグですか?


 思い出すなあ、あの寒いギャグ親父を。


「来るよ、父さん」


 江原ッチが見た事もない真剣な表情で言った。ああん、カッコいい!


臨兵闘者皆陣列在前りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん!」」


 お父さんが早九字を切る。山伏の基本だ。


 蔦が動き始める。雑草もまるで鞭のようにしなる。


「まどかりん、俺の後ろにいて。まどかりんは、俺が絶対守るから」


「うん」


 私は江原ッチの背中にしがみついた。


「まどかりん、背中に何か固いものが当たるんだけど?」


「え?」


 ギクッとした。まずい。胸の偽装がバレる。


「ええ? 何の事?」


 私は飛びっきりの笑顔で上目遣いに江原ッチを見た。


「な、何でもないよ」


 江原ッチは真っ赤になって言った。可愛い。


「耕司、来たぞ!」


 お父さんが叫ぶ。


「はい!」


 江原ッチは私の手をしっかりと握り締め、走った。


「オンマリシエイソワカ!」


 摩利支天まりしてんの真言を唱え、雑草と蔦の攻撃を撃退する江原ッチ。


 ああん、結婚してえ! そう叫びそうだ。


「インダラヤソワカ!」


 次に帝釈天の真言で反撃開始。もう好きにしてえ!


 いけない、私が暴走してしまいそうだ。


 でも、江原ッチ、カッコ良過ぎ!


 関西のオバさんに見つかったら、襲われそう。


 その時は私が絶対守るからね、江原ッチ。


「あ!」


 そんな江原ッチの隙を突いて、蔦が彼の身体を締め上げる。


「うわああ!」


「耕司!」


「江原ッチ!」


 お父さんは別の雑草軍団と交戦中で、こちらには来られない。


「あんた達、私の彼に何するのよォッ!」


 私は出せる力を振り絞り、まだ無理だからと蘭子お姉さんに止められていた大黒天真言を唱えた。


「オンマカキャラヤソワカ!」


 ドーンと身体中に衝撃が走った。眩暈がする。視界がグルグル回る。


 倒れそうだ。


「グオオオオッ!」


 悪霊の叫び声が響いた。


 次の瞬間、私は気を失った。




「まどかりん」


 目を開けると、心配そうな顔の江原ッチがいた。


「良かった、気がついたね」


 私は江原ッチの腕の中にいた。途端に顔が紅潮するのがわかる。


「さすが、祖父ちゃんが夢で言っただけの事はあるなあ。大黒天の真言なんて、俺には使えないよ」


 江原ッチはニコニコして言った。私は顔が爆発しそうなので、慌てて彼の腕の中から飛び出した。


「あ、ありがとう」


 するとお父さんが、


「礼を言うのは私達の方ですよ、まどかさん。貴女が大黒天真言を唱えてくれなければ、私も耕司も危なかった。ありがとう」


「そ、そうなんですか」


 また言いたくなかったフレーズを言ってしまったが、その時の私にはそれすらわからなかった。


「これからも、耕司と仲良くして下さいね」


「はい」


 私はメイドに負けない笑顔で応じた。


「あのさ、まどかりん」


 江原ッチが何故か小声で言う。


「何、江原ッチ?」


 私は笑顔全開。フルスロットルだ。でも何故か江原ッチは言いにくそう。


「何よ、言ってよ」


「う、うん」


 江原ッチは耳元に顔を近づけて、


「俺、巨乳は嫌いなんだ」


「……」


 見破られてた!


 もう胸の偽装はやめようと思うまどかだった。

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