今回はバッドエンド(?)なのよ!
私は箕輪まどか。美少女で、霊能者でもある。
親友の近藤明菜に誘われて、部活の見学をいくつかしたけど、どうにも気が乗らないので入部を断念した。
私はスポーツが苦手な訳ではない。
もちろん、文化部でもいいのだが、そちらは尚更気が乗らない。
あの意地悪な綾小路さやかとは和解して、今では普通に話すようになっていたが、あいつの残したしこりは大きく、結局、
「箕輪まどかは霊が見える」
がどんどん一人歩きし、私はまるで魔女のような扱いになってしまった。
明菜とリッキーが励ましてくれたおかげで、不登校にはならなかったが、それでも部活をしようという気にはならなかった。
「元気出せよ、箕輪」
肉屋のリッキーはそう言ってコロッケを差し出す。
「リッキー、私を出荷したいの?」
そんなものばかり食べていたら、美少女が台無しになってしまう。
「太った豚より痩せた女芸人」
ということわざを知らないのだろうか?
え? そんなことわざない? うるさいわね!
「大丈夫だよ。ウチの姉ちゃんは俺より食うけど、全然太ってないよ」
リッキーは笑顔で返す。それはまた羨ましい体質だこと。
確かにリッキーのお姉さんは、美人でスタイルいいのよね。
エロ兄貴が店に通う訳だ。
「ありがとう。でも、今はいいよ」
私は遠慮ではなく断わった。
「そうか。明日はメンチカツ持って来るよ」
全然通じていなかった。コロッケに飽きたわけではないのに。
そして下校時。
帰宅部の私は、サッサと校舎を出て、家へと向かった。
「箕輪まどかさんですね?」
突然声をかけられ、私はギクッとして声の主を見た。
「誰?」
眉間に皺を寄せて尋ねる。パッと見、もの凄く怪しいオジさんが二人。
「警視庁の捜査一課の者です。G県警の鑑識課の紹介で来ました」
「え? 紹介?」
G県警の鑑識課とは、私のエロ兄貴が勤務している部署だ。
仕事の依頼?
「貴女に霊視して欲しい場所があるのです」
「???」
返事を待つ訳でもなく、私はそのオジさん二人に抱えられるように連れて行かれ、黒塗りの車に押し込められた。
「ちょっと、何よ、私の都合も聞かないで!」
私は喚き散らした。
「ご両親には連絡済です。時間がないのです」
オジさんの一人は私の隣に乗り、もう一人は運転席に座った。
「現場に向かいながら説明します。失礼はお許し下さい」
二人のオジさんは、捜査一課の刑事で、東京とG県で連続して起きている通り魔殺人の犯人を追っているのだという。
その事件は、兄貴たちも関わっている。
何のつながりもない人達が、次々に殺されているのだ。
つい昨日、兄貴たちと一緒に現場に行き、霊視したばかりだ。
東京の事件とつながったのは、犯人が現場に残して行く血文字。
「天誅」
いつもその言葉が、被害者の血で近くに書かれているのだ。
私は現場で感じた事を兄貴達に伝えた。
犯人は二十代の男。痩せていて、目が異常なまでに鋭く、いつも何かブツブツと呟いている。
自分に自信があり、決して捕まらないと思っている相当な自惚れ屋。
只、わかったのはそこまでで、何故かそいつのいる場所はわからなかった。
「役に立たないな」
エロ兄貴に酷い事を言われ、ムッとしたのを思い出した。
私自身、どうして犯人の居場所がわからないのか不思議だった。
だから、兄貴の暴言はあまり気にならなかった。
「犯人はわからなかったんですよ」
私はあっさりと降参宣言した。しかし、隣に座っているオジさんが、
「それなんです。ある現場で、妙なものが見つかりまして。それを是非見て欲しいんです」
「ここまで持って来てよ。私、忙しいんだから」
イライラして言ってしまった。ところが、
「持って来られないものなんです。とにかく、見て下さい」
と運転席のオジさんが口を挟んだ。
隣に座っているのは、田中刑事、運転しているのは山根刑事だと名乗られた。
どこかで聞いた事がある気がするが、気のせいだろう。
到着したのは、東京のはずれ。山々が迫って来るような森の奥だった。
「こちらです」
すでに薄暗くなって来ている山道を、途中からは徒歩で進む。
辛い。運動してない私には、とても過酷だ。
「え?」
私は、急にそれを感じた。
「こっちね!」
「あ!」
私がいきなり走り出したので、二人のオジさんは慌てた。
「危ないですよ!」
そんな言葉には耳を貸さず、私は現場へと走る。
そうか。そういう事だったのか。だから居場所がわからなかったんだ!
現場に辿り着いた。そこにも、「天誅」の血文字は書かれていたが、現場の脇にある大きな石に別の言葉が血で書かれていた。
「それです。どういう意味か、わかりますか?」
田中刑事が息を切らせて尋ねる。
私は、石を見て、
「終わりでしょ? それ以外、どう解釈するのよ?」
「え?」
田中・山根の両刑事はキョトンとした。
「犯人は、死んでいるわ。だからどこにいるのかわからなかったのよ」
「ええ!?」
仰天するオジさん二人。そのうち踊り出すのかな?
「悪霊が人から人へと渡り歩いて殺人を繰り返していたのよ。最初に私が霊視した犯人像は、その時殺された被害者の残留思念だったの」
「はあ」
高度な話なので、刑事さん達は理解できないらしい。
「事件は終わり、という事ですか?」
「取り敢えずはね。でも、また起こるかも知れない」
私は石の血文字を見たままで、
「こいつは、面白がっているのよ。人を殺すのが楽しいみたいね。許せないわ」
私の言葉に、オジさん刑事は固まってしまった。
この悪霊、またやらかすわ。
でも今度は惑わされない。
絶対に捕まえてやる!
怒りに燃えるまどかだった。