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美少女霊能者箕輪まどかの霊感推理  作者: 神村 律子
高校一年生編なのよ!
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今日は江原ッチとお勉強なのよ!

 私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。


 霊感親友の綾小路さやかは、ずっと気にしていたクラスメートの大久保健君に逆告白され、今では登下校を一緒にしているラブラブな関係だ。


 少し前までは考えられない事だった。


「という事は、高橋知子さんは誰がお目当てなのかな?」


 下校途中のバスの中で、私の彼氏の江原耕司君と小学校からの親友の近藤明菜の彼氏の美輪幸治君が話している。


「コウジ君、一体どういうおつもりでしょうか?」


 私と明菜は背後からまさに血も凍るような声で尋ねた。


「ひいい!」


 江原ッチと美輪君だけでなく、近くに座っていた無関係な男子まで悲鳴を上げた。


「やだなあ、まどかりん。誤解だよお。高橋さんて、霊媒体質らしいから、おかしな奴に関わったりしていないか、心配してたんだよ」


 江原ッチは顔を引きつらせ、白々しい事この上ない言い訳をした。


「そうなんですか」


 私はここぞとばかりに笑顔全開で幸せになれるお題目を唱えた。


「美輪君もそうなの?」


 明菜は半目で美輪君を追及している。美輪君は某都知事のように嫌な汗をたくさん掻き、ハンドタオルで拭いながら、


「そうだよ、アッキーナ。俺がアッキーナ以外の女子を好きになる訳ないじゃん」


 苦しい言い訳をしていた。明菜の目は更に細くなって鋭さを増した。


「ホントに?」


「ホントだって! 世界中のどんな女性より、アッキーナが好きだよ」


 美輪君は臆面もなく言ってのけた。さすが、G県が誇るバカップルだ。


「やだ、美輪君、恥ずかしい事言わないでよ」


 明菜はクネクネして嬉しそうだ。私もさすがにあそこまで突き抜けられない。


「お前ら、ホントに面白いな」


 肉屋の力丸卓司君は呆れた顔をしてコロッケを食べていた。


 こいつ、また太ったんじゃないの? 出荷まで秒読みって感じだ。


 


 やがて、バスを降り、明菜と美輪君、そしてリッキーと別れた。


 今日は、江原ッチがウチに来て勉強をするのだ。


 期末テストが惨憺さんたんたるものだった私は、母にこっぴどくお説教をされた。


 母は機嫌が悪いと、すぐにお説教を始めるので、苦肉の策として江原ッチに来てもらう事にした。


 母は、江原ッチだけではなく、江原ッチのお父さんの雅功まさとしさんにまで色目を使うとんでもない性格なのだ。


 だから、それを利用する。


 江原ッチがいれば、母はご機嫌になるから、お説教はない。


 そして、私も江原ッチと長く過ごせるから楽しい。


 一石二鳥な作戦なのだ。


「あら、いらっしゃい、耕司君。雅功さんはお元気?」


 いつもの三倍のお化粧をしていると思われる我が母は、ニコニコしながら玄関のドアを開いた。


 私達が開ける前にそこにいたという事は、どこかから見ていたという事だ。


 我が母ながら、その浅ましさに悲しくなって来る。


「まどか、今日は耕司君に泊まっていってもらいなさい」


 母はとんでもない事を言い出した。江原ッチは思わず私を見た。


「いいの、まどかりん?」


 私は苦笑いするしかない。そっか、今日は父が出張でいないのだ。


 って事は……。何考えてるのよ、お母さん!


「今日は江原ッチは勉強しに来たのよ! 泊まれる訳ないでしょ!」


 話が長くならないうちにと、私は江原ッチを引っ張ってサッサと二階に上がった。


「まどかりん、気がつかなかった?」


 江原ッチが部屋に入るなり言った。私は鞄を机の上に放って、


「え? 何が?」


「お母さん、浮遊霊に取り憑かれていたよ」


「ええ?」


 私は母となるべく目を合わさないようにしてたので、何も見えなかったし、意識を集中しなかったので、感じる事さえなかった。


「多分、外に出て、そのまま憑かれたと思うんだけど、ちょっと厄介な霊なんだ」


 江原ッチは鞄を部屋の隅に置き、私の机の椅子の腰掛けた。私はベッドに座り、


「厄介って、どういう事?」


「自分が死んだのを理解していない霊なんだよ」


 江原ッチは悲しそうだ。どうしたのだろう?


「あ!」


 今になって、その霊を感じた。


 ああ、何て事だろう。その霊は、小学生のお嬢さんがいるお母さん。


 交通事故に遭い、生死の境を彷徨さまよった挙げ句、亡くなった。


 小学生のお嬢さんは、それから毎日泣いている。


 お嬢さんの思いが強過ぎて、お母さんは霊界に行けないようだ。


 そして何より、お母さん自身が自分の死を受け入れていない。いや、死んだと思っていないのだ。


 どうしよう?


「とにかく、まずはまどかりんのお母さんからその霊を引き離そう」


 江原ッチが言った。だが、私にはそれはいい方法に思えなかった。


「待って、江原ッチ。お母さんに話してみるから。それからにしようよ」


「え? 教えちゃうの? 大丈夫?」


 江原ッチは不安そうだ。でも、我が母の美里みさとは長年私と生活しているから、霊は見えなくても、対処の仕方はわかっているのだ。


「大丈夫だよ。行こうか」


 私達は母がいるキッチンに行った。


「お母さん」


 飲み物の用意をしている母に声をかけた。


「何、どうしたの?」


 母は私が深刻な顔をしているので、何かを察したようだ。


「ああ、そういう事ね。何かさ、行きと帰りで、足取りが違うような気がしたんだ」


 母は見える事もなく、聞こえる事もないが、感じたようだ。


 私はホッとして事情を説明した。すると母は微笑んで、


「よくわかるよ、貴女の気持ち。可愛いお嬢さんを残して、自分の命が尽きてしまったなんて、どうしても信じられないよね。受け入れられないよね」

 

 私は江原ッチと顔を見合わせた。母の言葉に浮遊霊が反応しているのだ。


「でもね、それはお互いのために良くないよ。受け入れて。そして、お嬢さんを諭してあげて。お母さんはいつでも貴女を見守っているから、もう泣かないでって」


 母の目が潤んでいる。もしかして、泣いているの? 生まれて初めて見た気がした。


 浮遊霊になったお母さんの霊も泣いていた。母の言葉が身にしみたようだ。


「光の射す方へ向かってください。お手伝いしますね」


 私と江原ッチは手を合わせ、


「オンアロリキヤソワカ」


 観世音菩薩真言を唱えた。お母さんの霊が光に包まれ、ゆっくりと行くべき所へ向かい始めた。


 やがてその姿は光の中に吸い込まれて見えなくなった。


「逝ったの、まどか?」


 母は涙を拭いながら私を見た。私も涙を拭って、


「うん。もう大丈夫。そして、お嬢さんもね」


「そう。良かった」


 鬼の目にも涙。いや、そんな事を思ってはいけないけど、ふと頭に浮かんだ。


 


 そしてその後、江原ッチと母に見守られ、二学期の復習を泣きながらさせられたまどかだった。

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