里見まゆ子さんを助けるのよ!
私は箕輪まどか。もうすぐ美少女中学生になる。
私の行く中学は、制服が可愛いので有名だ。
セーラー服なのだ。マニアなら垂涎ものらしい。
難しい漢字なので意味がわからないけど。
今日は先日ある事が原因で入院した里見まゆ子さんのお見舞いに行く事になっている。
まゆ子さんは、県警の鑑識課勤務で、私のエロ兄貴の同僚である。
しかも、まゆ子さんはエロ兄貴に「ほの字」なのだ。
また! 「ほの字」が死語だっていう事は知ってるわよ!
「行くぞ、かまど」
エロ兄貴が言った。私は「かまど」と呼ばれるのが一番嫌いだ。
「やめてよ、お兄ちゃん! 蘭子お姉さんに言いつけるわよ」
「かまわんさ」
エロ兄貴は開き直った。何、この言い草は?
「もう、蘭子さんは過去の女性さ。未練はない」
「はあ?」
私は呆れた。え、でももしかして、ようやくこのエロ兄貴もまゆ子さんの良さに気づいたのか?
「今はM駅前交番の、代田ひかり巡査が一番さ」
このエロガッパ! お前は何を考えているんだ!?
そう叫びたかったが、今日はお見舞いの帰りにチョコレートパフェを食べるので我慢した。
食べ物で口をつぐむ情けない奴って思ったでしょ?
その通りよ。フンだ!
ごめんね、まゆ子さん、こんなダメな妹で。
「あら?」
病院に着くと、様子がおかしい。
「何かあったんですか?」
兄貴が近くにいた美人看護師さんに尋ねた。看護師さんは兄貴に間近で見つめられて赤くなり、
「五号室の里見まゆ子さんの容態が急変したんです」
「ええ!?」
さすがの兄貴もビックリした。そして私も。
「まゆ子さん!」
そんなバカな! まゆ子さん、病気で入院した訳じゃないのに!
私は走りながら、まゆ子さんの気を探った。
「お兄ちゃん、大変! まゆ子さんが冬子さんに呪われてるわ!」
「何だって!?」
先日、まゆ子さんが入院するきっかけを作ったのが、兄貴の高校の同級生である小倉冬子さん。
その冬子さんは、兄貴に「ほの字」で、生霊となって私の親友近藤明菜に取り憑いていた。
私の優れた霊能力により、冬子さんの生霊を明菜から退け、事件は解決したはずだった。
でも冬子さんの執念は、そんなものでは収まらなかったようだ。
まゆ子さんの病室の前に着くと、すでに面会謝絶になっていて、兄貴が事情を説明したが、入れてもらえない。
「くそ、どうしたらいいんだ!?」
いつになく苛立っている兄貴を見て、私は希望を見出した。
「お兄ちゃん、方法が一つだけあるんだけど、やってみる?」
「どんな方法だ? 何でもするぞ」
兄貴は本当はまゆ子さんが好きなのかな? そう思った。
「お兄ちゃんを幽体離脱させて、冬子さんのところに行ってもらうの。そして、冬子さんを説得するのよ」
「えええ!?」
ビビり出すヘボ兄貴。
「大丈夫なのか、そんな事して?」
「私を信じなさい」
「だから心配なんだ!」
イラッとするなあ。でも、まゆ子さんのためだから、この際我慢しよう。
「四の五の言わない! えい!」
私は兄貴の了承も得ず(と言うか、話が長くなりそうなので)、いきなり幽体離脱をさせた。
「ひいいい!」
自分が「幽霊」になったのに気づき、更にビビる兄貴。
「早く冬子さんのところへ行くのよ! まゆ子さんが死んじゃうわ!」
「わ、わかった」
兄貴は渋々了解し、冬子さんのところへと飛んだ。
え? 普通に会いに行けばいいのでは、ですって?
それじゃあ冬子さんに伝わらないの。
兄貴が魂の叫びで冬子さんを説得してこそ、意味があるのよ。
しばらくすると、まゆ子さんの容態は回復し、嘘のように元気になった。
どうやら兄貴の説得がうまくいったようだ。
「お帰り」
「た、只今」
自分の肉体に戻り、ホッとしたのか、兄貴はその場にしゃがみ込んだ。
「うまくいったようね?」
私が言うと、兄貴は項垂れて、
「交換条件で、今度の日曜日にデートだ……」
「……」
うまくいったのかどうか微妙だ。ご愁傷様、エロ兄貴。
私達はまゆ子さんのお見舞いをすませて、ファミレスに寄った。
「えへ」
もう至福の時を過ごす私と対称的に、兄貴はションボリしていた。
私はそんな兄貴に追い討ちをかけるように、
「お兄ちゃんさ」
「何だよ?」
ムッとして私を見る兄貴。
「ホントはまゆ子さんの事が好きなんでしょ?」
「ど、どうしてそう思うんだよ?」
わかりやすくオロオロしている。
「人の魂は嘘を吐けないのよ。お兄ちゃんが幽体離脱した時、まゆ子さんに対する思いがはっきり見えたの」
私は嘘を吐いた。でも、こういうのを「嘘も方便」って言うのよね?
「……」
図星なのか、兄貴は何も言わない。
「可愛いとこあるのね、お兄ちゃんも」
「う、うるさいよ!」
赤くなる兄貴なんて初めて見た。
よかったね、まゆ子さん。まゆ子さんの思いは、通じているよ。