みんなで特訓をするのよ!
私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。
え? 「美少女」を何故使わないのか、ですって?
使える訳ないでしょ!
先日の上田博行と桂子親子の事件の時、以前中学校の同級生だった柳原まりさんと再会した。
いろいろあったまりさんはすっかり奇麗になり、あの自尊心の塊のような我が親友の近藤明菜をして、
「あれには嫉妬をする気持ちも湧かない」
そう言わしめたほどなのだ。要するに全面降伏だ。私もそうだった。
中学の時は、ボクっ娘だったまりさんは、今は完全に女の子。
只でさえ美少女だったのに、それが更にパワーアップしたのだ。
案の定、私の彼の江原耕司君、そして明菜の彼の美輪幸治君はすっかりまりさんの虜になってしまった。
とは言え、まりさんは全くどちらも眼中にはないらしい。
「まりさんほどの美人に彼氏がいない訳ないでしょ?」
軽率な考えをしている江原ッチを窘めた。
そして、私と明菜は更に驚愕の事実を知った。
まりさんが、江原ッチのお父さんの雅功さんの計らいで、一時的にM市立第一高校に転校する事になったのだ。
「迷惑をかけないように気をつけるのでよろしくね」
まりさんの現在の寄留先は江原邸。そして、西園寺蘭子お姉さんと小松崎瑠希弥さん、そして八木麗華さんも寝泊りしている。
そのせいで、江原ッチはまた美輪君の家に居候をする事になったようだ。
打ちひしがれているのはそのせいだろう。
蘭子お姉さんと瑠希弥さんと麗華さんはどこかに出かけたらしく、邸にいたのは江原ご夫妻とまりさんと江原ッチの妹さんの靖子ちゃんだけだった。
修行先から戻って来た綾小路さやかも、蘭子お姉さんについて行ったらしい。
ああ、私も同行したかったなあ。
本日は、江原邸に、G県警霊感課のメンバーが、エロ兄貴の慶一郎と経理担当の力丸あずささんを除いて勢揃いする事になっている。
「今日は七福神の力をもっと効率的に使えるようになるための訓練をします」
江原ッチのお母さんの菜摘さんがにこやかに言うが、私と明菜は顔を引きつらせた。
「そして、耕司とまどかさんと靖子には、気の扱い方の特訓をまりさんにしてもらいます」
雅功さんが爽やかな笑顔で言うと、江原ッチと靖子ちゃんも顔を引きつらせた。
「よろしくお願いします」
まりさんは微笑んでお辞儀をした。するとそこへ、
「遅れてすみません」
肉屋の力丸卓司君と七福神の力を持つ坂野義男君が来た。
「全員揃いましたね。では、始めましょうか」
雅功さんが告げると、リッキーは食べかけのコロッケを慌てて口に押し込んだ。
相変わらずだな。
いつものように邸の奥にある道場に行く。そして、男女の更衣室でジャージに着替えた。
まりさんは制服のままだ。
「柳原、お前、制服が汗まみれになるぞ。大丈夫なのか?」
リッキーが妙な事を心配した。するとまりさんは、
「大丈夫よ、力丸君。私は汗を掻かないから」
ニコッとして言われ、まりさんの様子が以前と違うのに気づいたのか、リッキーは顔を赤らめた。
中学時代は、ゲームの話で盛り上がっていた友人だったから、そのつもりで話したのだろう。
リッキーらしいわね。
「では、七福神の力を使う訓練を始めます」
菜摘さんが言うと、途端に道場に緊張感が走った。
まずは自在にそれぞれの神の力を開放できるようにする訓練から入った。
霊感がある私と江原ッチと靖子ちゃんは難なくクリアしたが、明菜と美輪君とリッキー、そして坂野君は苦戦していた。
「坂野君、貴方の中にある力を使えば、もっと簡単にできるはずよ」
菜摘さんが優しく言うと、
「はい!」
坂野君はすぐにそれを理解し、恵比寿の力を開放した。彼は想念を作り出す力が優れているので、それを利用したのだ。さすが、菜摘さんの指導は的確だ。
「美輪君は明菜さんを守りたいという意識、そして明菜さんは美輪君を守りたいという意識を強く持って。力丸君は、靖子の事を考えてみて」
菜摘さんの指導はまさに「神指導」だった。三人もすぐに開放できた。
リッキーは無意識のうちに布袋様の力を開放できるのに意識するとできないのは不思議だ。
「無意識レベルで神の力を使ううちは、その力に翻弄される危険があります。何としても、自分の考えで力を制御できるようになってください」
菜摘さんは更に開放から閉鎖まで指導してくれた。
中でも坂野君は想念の力をうまく使いこなせるようになり、私達より早く開放と閉鎖をマスターしてしまった。
「今の手順を毎日繰り返す事によって、完全に七福神の力は自分の意識下に入ります。そうなるまで頑張ってくださいね」
菜摘さんはそう言ってまりさんを見た。まりさんは頷き、
「では、三十分の休憩の後、気の訓練をします」
私は思わず江原ッチと顔を見合わせてしまった。
明菜達よりは簡単にこなしてはいたが、やはり七福神の力の制御には相当の体力と精神力を使う。
そんな短時間に回復するのは困難だと思った。
でも、やるしかない。
敵は上田親子だけではなく、サヨカ会の残党の選りすぐりなのだ。
生半可な覚悟では危ないのだ。
まさに気を取り直して、私達は気の特訓に挑んだ。
まりさんの気は以前とは比べものにならなかった。
彼女は蘭子お姉さんと共に何度か強敵と戦った事がある。
そして、そればかりではなく、お兄さんになるはずだった人の魂を受け継ぎ、更に強くなったのだ。
「柳原さん、凄いなあ。もうお師匠様と呼びたいくらいだ」
江原ッチはエロい目ではなく、尊敬の眼差しでまりさんを見ていた。
「では、私が放つ気を受け流してください」
まりさんがあっさりと恐ろしい事を言ってのけた。
「ええ!?」
私と江原ッチばかりではなく、感応力では瑠希弥さんにも迫る力を持つ靖子ちゃんも仰天していた。
「大丈夫。できますよ」
まりさんは猶予を与える事なく、いきなり気の塊を放ってきた。
全然大丈夫ではないレベルだ。一人で受け流すのは無理だ。
「江原ッチ、靖子ちゃん!」
目配せして、三人の気の流れを合流させる。そして同時に七福神の力を開放した。
気の塊は何とか押し留める事ができ、消滅させた。
「お見事です。何故先に七福神の力の開放を訓練したのか、わかりましたね」
菜摘さんが言った。なるほど、そういう事か。
「さすがね、まどかさん。見事な連係プレーでした」
まりさんが拍手をして称えてくれたので、ちょっと恥ずかしくなった。
一休みして、菜摘さんと瑠希弥さんが作ってくれたケーキをご馳走になり、今日はお開きとなった。
「あの、お姉さん、力丸先輩に聞いたのですが、ゲームが好きなのですか?」
坂野君が顔を真っ赤にしてまりさんに話しかけている。
「おお!」
江原ッチと美輪君が悔しそうにしたので、後で明菜とダブルお説教の刑ね。
「ええ、好きよ」
まりさんは優しい眼差しで坂野君を見ている。
「今度ゲームを持ってきますから、一緒にしませんか?」
坂野君はまりさんの事が好きになったようだ。それがわかる。
「そんな……」
江原ッチと美輪君が涙ぐんだので、お説教タイムは延長が確定となった。
「それより、君の家に行っていい? その方が早いでしょ?」
まりさんの提案には坂野君はもちろんの事、私も驚いてしまった。
江原ッチと美輪君に至っては硬直してしまっていた。バカめ。
「じゃあ、行きましょうか」
まりさんは坂野君の手を取り、邸を出て行ってしまった。
「どゆ事?」
江原ッチと美輪君は泣きそうな顔でお互いを見ている。
そうか。そう言えば、以前、神田原明蘭さんも坂野君に好意を見せていた事がある。
坂野君は「お姉さんキラー」なのかも知れない。
そうなると、まりさんばかりでなく、瑠希弥さんも蘭子お姉さんも、麗華さんまでも坂野君に魅入られてしまうのだろうか?
「違いますよ、まどかお姉さん。まりさんも坂野君に好意があったからですよ」
靖子ちゃんが耳元で囁いて教えてくれた。何だ、相思相愛だったのか。
ちょっとホッとしたまどかだった。