奇怪な橋の謎を解明したのよ!
私は箕輪まどか。高校生の美少女霊能者だ。
今回は、久しぶりにタイトルに即した事件に遭遇した。
通学路にある小さな橋で、三人の女子生徒が何者かに突き飛ばされ、川に落ちたのだ。
周囲には隠れるところはなく、目撃者に聞き込みをしても、誰も見ていないという。
突き飛ばされた三人は仲良しだったが、互いに突き飛ばされた事を話していない。
そして、目撃者は三人とは面識がない別の学年の生徒だ。
口裏を合わせている可能性も消えた。
ヤラセだという事もあり得ないのだ。
事件の捜査は難航するかと思われた。
「蘭子さんに頼むか」
バカ兄貴の無情な一言が、私の霊能者としての意地に火を点けた。
謎が全てわかったのだ。
普通、霊が生きている人間を突き飛ばすとなると、相当なエネルギーが必要になる。
それができる程の霊が女子生徒達を突き飛ばしたのだとしたら、現場に霊障が残る。
何の痕跡も残さずにできる事ではないのだ。
それが、今回は、全く霊障の類いは橋の上ばかりでなく、その周囲にすら残っていなかった。
あり得ないのだ。私は、これは死んだ人間の仕業ではないと気づいた。
「お兄ちゃん、被害者の女子に会えるかしら?」
私は橋の上を歩いて行く女子生徒達をエロい顔で見ているバカ兄貴に尋ねた。
「え? 会ってどうするつもりだ? 彼女達は何も見ていないんだぞ」
兄貴は表情筋を素早く移動させ、真顔で言った。こいつ、段々キモさが増してないか?
「見ていないけど、痕跡は残っているはずよ」
私はドヤ顔で言った。
「はあ?」
兄貴ばかりでなく、親友の近藤明菜、その彼氏の美輪幸治君、ついでについて来た肉屋の力丸卓司君はキョトンとしている。
「そうか、そういう事か」
私の絶対彼氏の江原耕司君だけがわかってくれた。それだけで満足なまどかだと言いたいところだったが、江原ッチはニヘラッとして歩いて行く女子達を見ていた。
バカ男PART2だ。今は先を急ぐから、後でお説教ね。
兄貴は、同行して来たリッキーのお姉さんのあずささんに女子達に連絡を取るように頼んだ。
「どうしてあずささんに頼むのよ? 自分でしなさいよ」
小声で言うと、兄貴は何故か涙ぐんで、
「連絡先を教えたくないって言われたんだよお」
甘えた声で言われた。バカの上塗りをしたのか、この男は? 恥ずかしい。
「三人はまだ校内にいたので、そのまま待つように言いました」
あずささんが爽やかな笑顔で告げた。
私のお師匠様である御徒町樹里さんには遠く及ばないが、あずささんも素敵な笑顔だ。
「戻りましょう」
私はすぐに大型パトカーに乗り込んだ。
「また戻るの、学校に? 俺、腹減ったよお」
リッキーが呟いた。文句を言ってやりたいところだが、お姉さんがいるので遠慮していたら、
「はい、たっくん。これを食べて我慢してね」
あずささんが持って来たトートバッグの中からコロッケを取り出した。
「さっすが、姉ちゃん! 気が利くう」
リッキーは涎を垂らしながらそれを受け取った。
あずささんは伊達にお姉さんをしていないという事か。兄貴に見倣って欲しいわ。
くれぐれも言っておくけど、コロッケが欲しい訳じゃないからね!
パトカーで戻ると、被害者女子達は校門の前で手持ち無沙汰そうに待っていた。
「やあ、君達が電話をくれた生徒さんだね?」
兄貴は汚名を返上するためにキリリとした顔で運転席から降り、三人に声をかけた。
「そ、そうですけど……」
当然の事ながら、三人は警戒心MAXで後退りしながら応じた。
「私、一年生の箕輪まどかです。G県警霊感課の捜査員です」
私は先日本部長に支給された霊感課専用の警察手帳を提示した。
「同じく江原耕司です」
江原ッチも兄貴に負けない表情筋を持っているのか、キリリとして告げる。
「用件は何ですか?」
訝しそうな顔で尋ねられた。後ろで落ち込んでいる兄貴を蹴飛ばして遠のかせてから、
「橋の事件についてお尋ねしたい事があるんです」
私は三人を順番に見た。おさげ髪の人、三つ編みの人、ショートカットの人。
リボンの色でわかるのだが、二年生だ。
「何でしょうか?」
三人は顔を見合わせてから私を見た。警戒しているのが気の変化でわかった。
思った通りだ。そういう事なのだ。私は江原ッチに目配せした。
江原ッチは頷いて校舎へと走って行く。
「おい、江原、どこに行くんだよ?」
美輪君が追いかけて行った。まあ、いいか。
「ああ、待ってよ、美輪君」
明菜まで走り出した。全く、バカップルめ!
「貴女達が、毎日のようにからかっている男子生徒がいますね?」
私はとにかく時間が惜しいので、ズバッと切り込んだ。
途端に三人の顔が強張った。その通りという事だ。
おさげの女子が何かを言おうとしたのだが、三つ編みとショートカットの女子がそれを止めた。
私はその機を逃さず、おさげの女子の心の中に飛び込んだ。
蘭子お姉さんが得意とする術だ。
うまく飛び込めたので、発端となった出来事が詳細にわかった。
やはり、これは死んだ人間の起こした事件ではなかったのだ。
「男子の名前は江頭亮さん。貴女と同じクラスの、休み時間にいつも文庫本を読んでいる大人しい人ですね」
私は脅かすつもりはなかったのだが、三人の自分本位の考え方が許せなかったので、ちょっと怖がらせたくなった。
「ひい!」
おさげの女子は金切り声を上げて後ずさった。三つ編みとショートカットの女子も同じだった。
「あんた達は自分ではイジメだとは思っていないんだろうけど、彼の文庫本を隠したり、水に濡らしたりするのは完全にアウトだぜ」
美輪君が一人の男子を伴って戻って来た。その男子こそ、江頭さんだ。
見るからに口数の少ない何の抵抗もできなそうな男子だ。
「私達が声をかけても、無視するからよ。だから……」
ショートカットの女子がムッとした顔になった。まだそんな事を言うのか、この人は。
「無視したんじゃないよ。江頭さんは、女子と話すのが苦手なんだ。ね?」
江原ッチは恥ずかしくて俯いてしまった江頭さんに言った。
「大人しいからって、何でもしていい訳じゃないよ。あんた達を川に突き落としたのは、江頭さんの生霊なんだぜ」
江原ッチが三人に顔を近づけて告げる。三人は声を上げる事もできないほど蒼ざめていた。
「江頭さんはね、感情が高ぶると、幽体離脱をしてしまうらしいんだ。自分で制御できないから、悩んでいた」
江原ッチが三人を諭すように話す。
「だから、なるべく人と関わらないで、内に籠っていようとしたんです」
私が引き継いで言った。
「それなのにあんた達がしつこくからかうから、あんな事になったんだぜ」
美輪君は今にも掴みかかりそうな形相だ。
「美輪君」
明菜がすかさず間に入ってくれた。
「でも、貴女達がしつこく江頭さんをからかったのにも、理由があるんですよね?」
更に私が話を続ける。するとショートカットの女子の顔が赤くなった。
私は彼女に微笑んで、
「江頭さんの事が気になるんですよね?」
そう告げると、ショートカットの女子は耳まで赤くなってしまった。
こうして事件は一応解決した。
ショートカットの女子が江頭さんに思いを伝えようとしたのだが、江頭さんが全然反応してくれないので、三人で江頭さんの気を引こうとしていたずらをしていたのだ。
何とも可愛らしい真相だったので、ホッとした。
そして、江頭さんの悩みは、江原ッチのお母さんの菜摘さんが解決してくれる事になったし。
何にしても、背後にサヨカ会がいなくて良かった。
しばらくぶりに霊感推理なまどかだった。