奇怪な橋を調査するのよ!
私は箕輪まどか。高校生の霊能者だ。
先日、学校で異変があり、親友の近藤明菜がおかしくなってしまった。
事態を重く見た私は、彼の江原耕司君の家に電話した。
予想していなかった将来のお父さんである雅功さんが電話に出て、事件解決に乗り出してくれた。
更に私は驚かされた。雅功さん学校に来たのは、私の兄の慶一郎だったのだ。
雅功さんの見立てで、女性には解決が難しいとわかり、急遽兄貴が抜擢されたのだ。
理由を知って納得した。
私達が通学しているM市立第一高校に女子を虜にする気が蔓延していたのだ。
その気を兄貴のエロパワーで相殺し、見事事件は解決した。
だが、その黒幕を探り始めた時、敵はその気配を完全に消してしまい、思わぬ反撃を食らうのを警戒した雅功さんの判断で、調査は終了となった。
只一点、私が怪しいと考えていた生徒会副会長の高橋知子さんは容疑者リストから外れてしまったのがちょっぴり悔しいまどかである。
そんな事があってから二週間が経過したが、その後は不可思議な事は起こらず、毎日が滞りなく過ぎていった。
「帰ろっか、まどかりん」
江原ッチが教室まで迎えに来てくれた。何故か明菜も一緒だ。
明菜は私と自分の彼の美輪幸治君が同じクラスなのを必要以上に心配している。
「美輪君は信じているけど、まどかがね」
そんな事を言われると、私も気分が悪いのだが、
「まどかちゃん、ごめん。アッキーナには俺から話すから」
美輪君に頭を下げられてはそれ以上は何も言えない。
私達が玄関まで行った時、
「置いていかないでくれよお」
肉屋の力丸卓司君が息を切らせて走って来た。
「お前、少しダイエットしないと、早死にするぞ、力丸」
江原ッチは妹の靖子ちゃんの彼であるリッキーの健康を心配していた。
「大丈夫だよ、江原。靖子ちゃんはこれくらいがいいんだって」
全然身に堪えていないリッキー。しかも、靖子ちゃんは太っているリッキーが好きだから、悪循環だ。
「全く」
江原ッチは呆れてそれ以上何も言わなかった。
「あれ、あそこにいるの、まどかちゃんのお兄さんと力丸のお姉さんじゃないか?」
校門の方を見た美輪君が言った。
「え?」
思わずリッキーとハモってしまった私。
リッキーのお姉さんのあずささんはリッキーとは似ていず、美人なのだ。
しかも、兄貴とあずささんは中学生の時、付き合う寸前までいっている。
それが、今になって、奇しくもG県警霊感課という同じ職場になった。
ますます危ないと思ったのだが、何故か兄貴はあずささんには一切ちょっかいを出さない。
奥さんになったまゆ子さんが怖いのもあるけど、あずささんの交際相手が、同じく同級生の朽木孝太郎さんで、G県警の本部長とも懇意にしているからだ。
兄貴の過去の悪行もよく知っている孝太郎さんが相手では、いくら節操という言葉が辞書にはないと言われた兄貴でもバカはできないのだ。
「お前ら、携帯を持っていないから、不便過ぎるぞ!」
駆け寄ると、いきなり兄貴が文句を言って来た。
「何よ、お兄ちゃん、そんな事は学校に言ってよ。私達のせいじゃないわ」
負けずに反論すると、兄貴は、
「時間が惜しい。とにかく、乗ってくれ」
兄貴が乗って来たのは、霊感課専用の大型パトカーだ。これなら、全員楽々乗れる。
「ねえ、どういう事?」
私は助手席に乗り込みながら尋ねたが、
「現場に行ってから説明するから待て」
兄貴はいつになく真剣な表情だ。きっとあずささんがいるからだろう。
あずささんに対しての面目もあるが、孝太郎さんに喋られると困るとも思っているようだ。
相変わらず世渡りだけは一流だな。
パトカーは学校前を出発し、道を隔てて流れているG県一の河川であるT根川沿いを北上していく。
そして、五分程走った時、支流の川にかかる橋が見えて来た。
「あそこが現場だ。霊視をしてくれ」
兄貴は橋の手前の広くなっている路肩にパトカーを停めて言った。
「え? 霊視? 誰か亡くなったの?」
私はシートベルトを外しながら言った。
「いや、誰も死んではいない。今のところはな」
橋はそれほど長いものではない。かかっている支流は、川とは言っても、幅が四メートルくらいしかない小さなものだからだ。
橋から水面まではせいぜい三メートルくらいしかない。水流もそれほど激しくはなく、溺れてしまうほどの量はない。
「霊がいる気配はないけど、お兄ちゃん」
私は辺りをくまなく見たが、何も感じなかった。江原ッチも同じようだ。
「そうか。もしかすると、ガセかも知れないんだが、三人の女子生徒から相談があったので、一応調べる事にしたんだ」
兄貴は腕組みして、その内容を語った。
三人の女子生徒は、違う時間帯に霊感課に電話で相談して来た。
仲がいい三人組らしいのだが、それぞれが他の二人には内緒にして欲しいと言ったそうだ。
彼女達は三人共、この橋の上で何者かに突き飛ばされて、川に落ちたのだと言う。
現場を見渡した限りでは、どこにも隠れる場所はなく、三人が三人共、誰も見ていないというのだ。
あまりに気味が悪いので、霊感課に連絡したらしい。
「口裏を合わせて、からかってるんじゃないですか?」
明菜が言った。明菜らしい推理だ。私もそんな気がしている。
「最初は確かにそう思った。だが、目撃者がいるんだよ。それぞれ違う生徒なんだが、三人とは話した事はない違う学年の生徒だった。だから、からかっているとは思えない」
兄貴に残っているその三人の女子生徒の気を探ってみた。確かに人を騙そうとしている様子はないし、嘘も吐いていない。
そして、三人共互いがそんな相談をした事も教えていないのだ。口裏合わせ説はこれで消えた。
「じゃあ、やっぱり霊の仕業?」
明菜が身震いして、美輪君の背後に隠れた。
「大丈夫だよ、アッキーナ。俺が絶対に守るから」
美輪君は明菜を庇うように抱きしめた。アホらしい。命を取られるような霊はここにはいないわ。
「浮遊霊の仕業かしら?」
私は橋に立ってみた。だが、霊障があったとは思えない。どういう事だろうか?
いくら霊が痕跡を残さないようにしても、私程の霊能者になると絶対に検知できるのだ。
え? お前の能力が衰えたんだろう、ですって? うるさいわね!
「霊が人一人を橋から突き落とすっていうのは、相当な力を消費している事になるんです。だから、何の痕跡も残さないなんてあり得ないんですよ」
江原ッチが代わりに解説してくれた。
江原ッチの言う通りなのだ。痕跡を残さないでそれだけの事をできるはずがない。
あれ? 今、何か見えた気がしたんだけど。
「仕方がないな。蘭子さんに頼むか」
兄貴が聞き捨てならない事を言った。蘭子さん? ええ!?
「蘭子お姉さんと連絡が取れたの?」
私は兄貴に掴みかかって問い質した。兄貴はビクッとして飛び退き、
「な、何だよ? 蘭子さんの連絡先を知っているのは前からだろ?」
不思議そうな顔で応じた。
そうか。兄貴は、私が尊敬している西園寺蘭子さんがずっと音信不通だったのを知らないのだ。
「それに、今回は蘭子さんから連絡があったんだからな。明蘭さんと明鈴さんの件で」
復活の会のかつての宗主である神田原明鈴さんとその娘さんの明蘭さんの件で蘭子お姉さんが連絡してきた?
どういう事だろう?
「お二人に会いたいと言っている方がいらっしゃるから、東京まで来て欲しいって」
会いたいと言っている方って、恐らくあのスーパーお爺ちゃんの名倉英賢様だろう。
きっと、明鈴さんと明蘭さんの気の浄化をするんだと思う。
あ、今のでモヤモヤが晴れたわ。
「蘭子お姉さんにご足労いただかなくても大丈夫よ、お兄ちゃん。万事解決できるわ」
ドヤ顔で言うと、何故か兄貴だけではなく、江原ッチも美輪君も、そしてリッキーまでもが残念そうに私を見た。
こいつら、揃いも揃って、蘭子お姉さんに会いたいのか? ホントに、男って奴は!
私も蘭子お姉さんには会いたいけど、このバカ男共の願いを叶えるのはそれはそれで癪に障る。
何はともあれ、自力で解決する意欲が更に増したまどかだった。