ご褒美は今日もコロッケなのよ!
私は箕輪まどか。小学六年生。もうすぐ卒業だ。
果たして卒業できるのだろうか? 心配。
今上辺だけ付き合っている事になっている牧野君とは同じ中学に行くのだろうか?
彼の家がお医者様一家だと知ってから、それだけが心配。
もしかして、有名中学を受けてそっちに行ってしまい、挙げ句の果てにそこで同じく医者の家の女と出会って……。
いけない。おかしな妄想をしてしまった。
別に構わないわ。
もし彼が他の中学に行ってしまったら、私も他の小学校から来る新しいボーイフレンドを作るだけだから。
まどか、負けないから。
そこ、可愛い子のフリしてもダメとか言わないでよ!
私は可愛い子のフリをしているんじゃなくて、可愛いのよ!
間違えないでよね。
そして、今日は憂鬱。またエロ兄貴に頼まれて、捜査協力だ。
「ごめんね、まどかちゃん。今日はお休みなんでしょ?」
里見まゆ子さんがすまなそうに言ってくれるが、お兄ちゃんは、
「里見さん、そんな気遣いしなくていいよ。そいつにはきちんとお礼はしているんだから」
と酷いことを言う。まゆ子さんは苦笑いして私を見る。
「それより、現場はどこ?」
私はサッサと片づけて帰りたいので、何も反論せずに言った。
「この先の袋小路だ。ガイシャは後ろからナイフのような刃物で一突きされて、ほぼ即死。犯人は全くわからない状態だ」
「目撃者もいないのね」
「そうだ」
お兄ちゃんは何時になく真剣だ。
殺されたのは、同じ県警の同僚。
状況から、騙されてそこまで行ったらしいのだ。
現場に着いた。誰も来ないような狭い行き止まりだ。
これでは目撃者はいない。
「何か言ってないか?」
私は被害者の霊を探した。
「あれ?」
いない。どういう事だろう?
仮にここに縛られていなくても、気配くらいは感じるのに。
「いないよ、お兄ちゃん」
「そんなはずはない。よく探せ、かまど」
お兄ちゃんは苛ついていた。
私を「かまど」と呼ぶ時は、相当気が立っている時か、私が上の空の時だ。
「探したわよ。でもいないものはいないの」
「どういう事だ?」
お兄ちゃんは私がふざけていると思ったのか、睨んでいる。
睨まれようが、くすぐられようが、いないものはいないのだ。
私も不思議だ。どういう事なのだろう?
「私が知りたいくらいよ。何の気配も感じないわ。わけがわからない」
お兄ちゃんはまゆ子さんと顔を見合わせた。
「その刑事さんの持ち物はないの?」
「ライターがあるわ」
まゆ子さんがビニール袋に入った百円ライターを渡してくれた。
「あっ!」
感じられた。何故刑事さんの霊がここにいないのかわかった。
「わかったわ。どこにいるのか」
「どこだ?」
私は蒼ざめてしまった。
「今、法医学教室にいるわ! もうすぐ解剖が始まっちゃう!」
私の慌て方を変に思ったお兄ちゃんは、
「まさか!」
と車に走り、無線を掴むと、
「例の殺人事件のガイシャの解剖、待って下さい。新事実が判明しました!」
「ど、どういう事なんですか?」
まゆ子さんがオロオロした尋ねた。
「その人、生き返ったんです。でもまだ意識が戻っていません」
私が説明した。まゆ子さんも事の重大さに気づいたようだ。
私の読み通りだった。
被害者の刑事さんは、丸一日死んでいて、さっき生き返ったのだ。
もう少し私達の到着が遅ければ、その刑事さんは生きたまま解剖されてしまうところだった。
考えただけで恐ろしい。痛いなんてレベルのものではないだろうから。
そして、生き返った刑事さんの証言で犯人がわかり、事件は無事解決した。
「ご褒美ちょうだい、お兄ちゃん」
私は帰りの車の中で言った。するとお兄ちゃんは、
「よし、力丸ミートの揚げたてコロッケだ」
「何でいつもコロッケなのよ!」
私が口を尖らせて言うと、
「あそこで買うと、必ず一個オマケしてくれるからだ」
「えっ? そうなの?」
初耳だ。私が買い物に行ってもそんな事はないのだが。
「肉屋の娘が、この慶一郎様に惚れてるからさ」
このバカ兄貴! まゆ子さんの気持ちも知らないで、そんな事言って!
それにしても、リッキーのお姉さんて見た事ないんだけど、どんな人だっけ?
「でもコロッケは嫌よ! ファミレスでチョコパフェ!」
私は危うく騙されそうになったのに気づき、すかさず言った。
「買ってあげようよ。あそこの息子、お前に惚れてるんだからさ」
「バ、バカな事言わないでよ!」
リッキーが私に「ほの字」なのは知っている。
でもそんな事、ここで言わないで欲しいわ。
私達の口論はしばらく続いたが、結局ご褒美は力丸ミートのコロッケ二個だった。
店先で私を見つけて、嬉しそうな顔をしているリッキーがいた。
悪い気はしないんだけどね。