敵の正体を見極めるのよ!
私は箕輪まどか。女子高生のピチピチ霊能者だ。
ええとね。霊能者とピチピチは繋がらないように思えるんだけど?
まあ、いいわ。
いつも通り、学校に到着した私達。ところが、生徒会長の上田博行さんが登場し、親友の近藤明菜の様子がおかしくなった。
彼の美輪幸治君に対して、
「はあ? 誰、あんた?」
そう言い放ったのだ。美輪君は死んでしまうのではないかと思えるくらい落ち込んでしまった。
「上田がやったんじゃないか?」
私の彼の江原耕司君が囁いた。確かにタイミング的にはその可能性が高いのだけど、上田さんからは何も感じなかった。
「でも、上田さんからは力を感じなかったし、気も違っていたわ。違うと思うよ」
私は納得がいかないながらも、そう結論づけるしかなかった。
「確かにそうなんだけどさ。やっぱり、明蘭さんに来てもらった方が……」
そこまで言いかけて、江原ッチは慌てて口を噤んだ。明蘭さんとは、かつて死闘を繰り返した邪教集団の復活の会の宗主一族の人だ。
しかも、黒髪ロングで清楚な佇まいという無敵モードの美人。江原ッチも美輪君も、そしてあの肉屋の力丸卓司君も、明蘭さんにメロメロなのだ。
本当に男って奴は学習能力と節操がない。
「そうね。来てもらった方がいいかも知れない」
私はそれよりも、明菜のようすがおかしいのと、すっかり意気消沈してしまった美輪君が心配だったので、個人的な感情は抑える事にした。
「そうか、明蘭さんが来てくれれば、百人力だな」
さっきまで今にも死んでしまいそうだった美輪君が瞬間的に完全復活を遂げた。
「美輪、元気じゃん」
江原ッチが半目で美輪君を見る。私は白い目だ。美輪君はバツが悪そうに頭を掻いて、
「アッキーナには絶対に内緒でね」
私は江原ッチと顔を見合わせた。
上田さんも怪しいけど、もっと怪しいのは生徒会副会長の高橋知子さんだ。
「気の流れだけで言うと、高橋さんの方が怪しいと思うよ」
すると江原ッチと美輪君はどこで特訓したのというくらいの見事なハモりで、
「それは絶対にないと思うよ」
力強く断言した。バカダブルコウジめ! 高橋さんが全校男子のマドンナ的存在の美人だからだ。
上田さんが一見怪しそうに見えて、実は高橋さんが上田さんを操っている。それが私の推理だ。
え? お前の推理は天気予報より当てにならないって? うるさいわね! そんな事ないわよ!
「とにかく、明蘭さんに来てもらえば、万事解決だよ」
江原ッチはウキウキしていた。そうだ、先に江原家に電話をして、江原ッチのお母さんの菜摘さんに来ていただこう。
それ一番いい方法だ。我ながら名案だと思うまどかである。
そして、お昼休み。私は江原ッチの先回りをするため、大急ぎでお弁当を食べて、校門の外にある電話ボックスへと走った。
まるで正義のヒーローみたいだけど、私はその映画を観た事はない。
作者は観たらしいけど。(観ました 作者)
江原家に電話すると、予想に反して電話に出たのは、江原ッチのお父さんの雅功さんだった。
「あ、こ、こんにちは。お帰りだったんですね?」
未来の義理のお父さんだと思うと、少し緊張してしまう。すると雅功さんは、
「学校で何か起こっているのですね?」
「はい。それで、誰が黒幕なのか見極められないので、力を貸していただきたくて……」
私は事情を説明しようとしたが、
「まどかさん、何があったのか、思い出してみてください。その方が把握できます」
雅功さんは電話を通しても、相手の記憶を読み解く事ができるのだ。私は今日あった事をできるだけ克明に思い出した。
「なるほど。そういう事ですか。相変わらず、耕司は未熟ですね。申し訳ない、まどかさん」
雅功さんはそこまで見通してしまったので、ちょっと恥ずかしかった。
「それから、近藤明菜さんの様子が変わったのは、やはり感応力の影響ですね。それもこれは小松崎瑠希弥さん級のものです」
雅功さんの答えに仰天した。小松崎瑠希弥さんと言えば、以前私のお師匠様でもあった、暴力的な巨乳の美人霊能者だ。
瑠希弥さん級の感応力となると、私達では太刀打ちできない可能性がある。
「しかも悪い事に女性では難しい。菜摘でも無理でしょう。私が協力者を連れて伺いますよ」
雅功さんが来る? 協力者? 一体誰だろう?
「もしかして、蘭子お姉さんですか?」
尊敬する西園寺蘭子さんだろうかと推測して尋ねてみた。すると雅功さんは、
「蘭子さんは今静養中です。戦いの傷を癒しているのですよ。瑠希弥さんから聞いていないのですか?」
驚きの答えに反応が遅れてしまった。蘭子お姉さんが静養中? 戦いの傷を癒している?
「ええ、何も聞いていません。そうだったんですか」
二重の意味でショックだった。瑠希弥さんが教えてくれなかった事、そして蘭子お姉さんが傷を負う程の戦いをしたのを知らなかった事。
「ええ。でも、もうすぐ回復しますから、まどかさんのところに行くと思いますよ」
「そうなんですか」
ここぞとばかりに、笑顔のお師匠様である御徒町樹里さんのお題目を唱えた。
予想通り、雅功さんはノーリアクションだった。
玄関に戻ると、江原ッチがあっという顔をして私を見た。
「まどかりん、もしかして、俺んちに電話した?」
顔が引きつっている。私はニヤリとして、
「ええ、したわよ。お父さんが出たので、全部話しましたわ、耕司様」
すると江原ッチは真っ青な顔になって項垂れた。
「家に帰りたくない……」
恐らく、某番組より過酷な修行の旅が待っているのだろう。でも同情はしない。
「お父さんの話だと、女性では難しいので、協力者を連れて来るそうよ」
「誰だろう? 瑠希弥さんかな?」
懲りないバカ男である。女性では難しいと言ってるのに!
「ほお、そういう事を言うのですか、耕司様?」
私は明菜に負けないくらいの凄みを利かせて言った。
「ひいい!」
江原ッチは顔が歪むくらい引きつりながら悲鳴を上げた。
そして放課後。校門の前で雅功さんの到着を待っていると、何故かG県警のパトカーが来た。
「あれ?」
更に驚いた事に中から雅功さんが降りて来た。そして、もっと驚いた事に運転席から現れたのは我が兄の慶一郎だった。
「お兄ちゃん、何しに来たの?」
私が尋ねると、何故か兄貴はフッと笑って、
「私は江原先生の協力者として来たんだよ、まどか」
予想外の事を言った。
「えええ!?」
江原ッチと見事なハモりで叫んでしまったまどかだった。