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美少女霊能者箕輪まどかの霊感推理  作者: 神村 律子
中学三年生編なのよ!
170/235

ゲームの魔物が現れたのよ!(後編)

 異空間のような教室の中で囚われの身となった三人の一年生男子。


 そこにゲームのラスボスのような姿をした悪霊が現れた。


 囚われた男子のうちの一人である坂野義男君が生み出した憎悪の念が何者かによって悪霊を宿され、凶悪化している。


「お前ら如きが束になっても、この私には敵わない。お前達も我がとりことしてやろう!」


 気味の悪い声が言った。するとさっきからヒートアップしている私の彼の江原耕司君が、


「うるせえよ! 俺達はG県警霊感課の捜査員だ。お前のような悪い奴には絶対に負けない!」


 大見得を切って言い返した。かっこいい、江原ッチ! 惚れ直しちゃうわ。


「口だけは達者だな、ガキ。その口もやがて回らなくなるぞ」


 声が挑発し返してきた。


「お兄ちゃん、やっちゃえ!」


 江原ッチの妹さんの靖子ちゃんが叫んだ。


「インダラヤソワカ!」


 江原ッチは帝釈天真言を唱えた。雷撃が魔王の姿をした悪霊に直進した。


「うわあ!」


 しかし、悪霊には雷撃が届かず、蜘蛛の糸のようなものに搦め捕られた坂野君達に当たってしまった。


 三人は痙攣してまた動かなくなった。飛んだとばっちりね。ごめんなさい。


「何!?」


 江原ッチは仰天して目を見開いた。


「何してるのよ、お兄ちゃん! 攻撃真言はダメよ、浄化真言であいつを攻撃して!」


 靖子ちゃんがまた叫んだ。彼女は敵の特性を把握しているようだ。


「よし!」


 江原ッチは私に目配せした。私は頷き返し、同じ印を結ぶ。


「オンマリシエイソワカ」


 二人で摩利支天真言を同時詠唱した。浄化の真言が悪霊に向かった。


「消えろ、悪霊!」


 江原ッチがドヤ顔で叫ぶ。私も勝利を確信して悪霊を見た。


「効かぬ!」


 摩利支天真言は悪霊の手前で消滅してしまい、何も起こらなかった。


 江原ッチと私はもちろんの事、靖子ちゃんも唖然としてしまった。


 どういう事? 摩利支天真言が効かないなんて……。


「何? 何が起こっているの?」


 靖子ちゃんは教室中を隈なく探り始める。私と江原ッチは悪霊を睨みつけた。


「言っただろう、箕輪まどかと愉快な仲間達よ。いくら真言を唱えても、無駄だ。お前達に勝ち目はない」


 悪霊が言った。私は江原ッチを見た。江原ッチは悔しそうに悪霊を睨んでいる。冷静さがない。


 このままだと悪霊の霊威に飲まれてしまう。どうしたらいいの?


 結界が張られているせいで真言が通用しないのかと思ったけど、それはない。結界があれば、靖子ちゃんがすぐに探知している。


 それができないとなると、一体何が私達を妨害しているの?


 悔しいけど謎が解けない。


「では今度は私の番だな、箕輪まどかと愉快な仲間達よ」


 またそれ!? その言い回し、いい加減、ムカつくんですけど?


「まどかりん、靖子!」


 江原ッチが私と靖子ちゃんを庇うように立った。靖子ちゃんは探査を続けている。まだ見つからないようだ。


「二人は絶対に俺が守る!」


 江原ッチの気が膨れ上がった。あのボクッの柳原まりさんには及ばないけど、相当な強さだ。


「何をしても無駄だと言ったろう?」


 悪霊の嘲るような声が教室に響いた。


「我が虜となれ! ナウマクサラバタタギャーテイビヤクサラバボッケイビヤクサラバタタラタセンダマカロシャダケンギャキギャキサラバビギナンウンタラタカンマン !」


 悪霊は不動金縛りの術を唱えた。やっぱりこいつ、只の悪霊じゃないわ!


 などと思っているうちに私達は金縛りに遭い、瞬き一つできなくなってしまった。


「たわいもないな。もはやお前達も我が虜だ」


 悪霊はそう言って高笑いした。何て事!? これこそまさしく、「木乃伊ミイラ取りが木乃伊ミイラになる」だわ。


「お前達は単なる餌。お前達の後ろにいる江原えはら雅功まさとし、菜摘、そして更には名倉英賢をもおびき出してやるよ」


 悪霊は高笑いをやめてそう言った。


 こいつの目的は、江原ッチのご両親とスーパーおじいちゃんの名倉英賢様なのね。餌とか言われて悔しいけど。


 このままじゃ、霊感課捜査員の名が泣くわ。何とかしないと!


 でも、瞬き一つできない私達にはもはやなすすべがなかった。


 あれ? 身動き一つできないけど、靖子ちゃんの探査は続いているみたいだぞ。


『まどかお姉さん、そいつには坂野君の思いが吸収されています。絶対的に強いラスボスの魔王。坂野君のその思いが真言を跳ね返しているんです』


 靖子ちゃんの声が聞こえた。どうしてラスボスをそんなに強い設定で考えたのよ、坂野君は!? しかし、


『そうなんですか』


 ここぞとばかりにお題目を唱えた。これで勝利を確信した。


 確信はしたのだが、方法がわからない。誰か、助けて! 


 こんな時、コウモリさんが来てくれたら、などと昭和の申し子であるお父さんみたいな事を考えている場合ではない。


『案ずるな、娘。今こそ其方そなたの恩に報いる時』


 どこからか、声が聞こえた。その声は何故かとても懐かしく感じられた。


 これはもしかして……?


「何だ、今の声は?」


 悪霊が酷く狼狽えている。どうしたのだろうか?


『ここはわれが切腹をした場。そこをけがすうぬを許す訳には参らぬ』


 光が天井を貫いて射し込み、そこに一人のお侍さんが現れた。


 そうか! 思い出した! 私が小学生の時、浄霊してあげた人だ。助けに来てくれたの?


「こ、これはどうした事だ? 箕輪まどかにこれほどの上級霊を召喚する力などないはずだ!」


 何気に失礼な事を叫ぶ悪霊。ムカつく! でも、あのお侍さん、そんなに位が高い霊なの?


「消えよ、悪霊! 我が愛刀、王仁丸わにまるにて斬り捨ててくれるわ!」


 お侍さんが腰に提げた刀を抜き、悪霊に向けた。


「それは!」


 悪霊はお侍さんの刀を見ると、


「出直すぞ!」


 そう言い捨てて逃げてしまった。その途端、金縛りが解けた。同時に蜘蛛の糸のようなものも切れ、坂野君達が床に落ちた。


「お侍さん、ありがとうございました」


 私は坂野君達を江原ッチと靖子ちゃんに任せて、お侍さんにお礼を言った。お侍さんは微笑んで、


「其方に助けてもらったのが先。礼には及ばぬ」


 若干理解ができない言葉が含まれたが、私は笑顔全開で、


「そうなんですか」


 それだけ返した。お侍さんの霊は光と共に消えながら、


「いつでも我は其方を見守っておるぞ、娘」


「はい」


 お侍さんの霊は微笑んだままで消えて行った。


 


 坂野君と上田泰造君と小沢晋也君は無事助け出せた。


 私と江原ッチと靖子ちゃんは上田君と小沢君を帰らせ、坂野君だけを残した。


 どうしてこんな事になったのか、訊き出したかったからだ。


「あの二人は、ゲームの続きを知りたいから、僕と話してくれていたんです」


 坂野君は悲しそうな顔で話し出した。


「僕がゲームをクリアしたのを知って、どうすれば先に進めるのか困った時に僕に尋ねて来ました。それだけの会話だったけど、嬉しかった。いつもは僕を無視して声もかけてくれないのに、ゲームの事だけは僕が学校の誰よりも詳しいし、早く進めていたから」


 何だかあまりにも切ない話だ。私も何となくわかる。坂野君ほど孤立しなかったけど、怖がられて近づいてくれない子もいたのは事実だったから。


「でも、ゲームが進むにつれて、僕は怖くなりました。このゲームをクリアしたら、また二人は僕に話しかけてくれなくなってしまうって。だから、最強の魔王がいれば、絶対にゲームをクリアできない。そうすれば、いつまでも僕はあの二人と話ができるって思ったら、急に何もわからなくなってしまって……」


 坂野君は涙ぐんでいた。私と靖子ちゃんはもらい泣きしそうだ。坂野君の無視されたくないという強い思いが魔物を実体化させてしまい、それをあの悪霊使いに利用されてしまったのだ。


 何ともやり切れない。


「困った事があったら、俺に相談しろ、坂野君」


 江原ッチは泣きそうなのを私と靖子ちゃんに知られたくないのか、坂野君を引っ張って行って囁いていた。


「ありがとうございます、江原先輩」


 坂野君は嬉しそうだ。これでもうあの悪霊を使っていた奴に利用される事はないだろう。


 本当なら、上田君と小沢君、そして小出美幸さんと桑畑貴理子さんもお説教したいくらいだけど、そんな事をしても根本的な解決にはならない。


 私達が坂野君の友達になってあげて、彼を孤立させないようにしないとダメなのだ。


 親友の近藤明菜や、その彼で江原ッチの親友でもある美輪幸治君にも協力してもらおう。


 身近に潜む落とし穴のような出来事。勉強になったまどかだった。

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