旧校舎に何か出るのよ!
私は箕輪まどか。小学校六年生。
ついこの前まで、四月になっても六年生のままだと思っていたけど、そうでもないみたい。
作者のネタが切れて来たので、三月いっぱいで最終回を迎えるかも知れないのだ。
しかも噂によると、私の後は「八木麗華の超霊感推理」が始まるのだとか。
酷い。酷過ぎる……。
などという妄想はそのくらいにしてと。
先日、カムフラージュのために付き合っている牧野君の家に行き、
「是非息子と付き合って下さい」
とお父さんに頼み込まれてから数日が経った。
えっ? 脚色するなって? いいでしょ、誰にも迷惑かけていないんだから。
ところで、カムフラージュって何?
私が教室に入って行くと、女子達が何か話していた。
「どうしたの、何かあったの?」
私は彼女達に声をかけた。
「裏にある旧校舎に、何か出るんですって」
「妖怪らしいわ」
「うそ、幽霊よ」
「宇宙人かも知れないわ」
……。アホ臭。結局何が出るのかもわからないらしい。
でも旧校舎は、前から私も気になっている場所なのだ。
ここは、お父さんとお母さんの母校でもある。そして、あのエロ兄貴の母校でもある。
お父さん達がいた頃から、旧校舎には何か出ると言われていたのだ。
但し、お父さん達はその旧校舎で勉強していたので「旧校舎」とは呼んでいなかったけど。
「まどか、あんたわからないの?」
女子の一人が何故か上から目線で尋ねた。でも寛大な私はそんな事は気にしない。
「興味ないからわからない」
「なーんだ」
彼女達は私がわからないのをまるでアメリカ人のように肩をすくめてガッカリしてみせた。
ホントはわかっているわよ。でも真相を話すと、あんた達は先生に言いつけるでしょ?
それが嫌だから言わないの。
私は放課後、一人で旧校舎に向かった。
一体何がいるのか知りたくて。
長くそこにいる霊には違いない。
ただ、悪意は感じないので、悪霊ではない事はわかっていた。
「ねえ、あなたは誰? どうしてここにいるの?」
私は霊気を感じる方に声をかけた。
『倅は我の事が見えるのか?』
「はい?」
何か聞こえた。しかし、日本語とは思えない言葉なので、思わず聞き返してしまった。
見えるのか、と言ったのはわかった。その前がわからない。
「難しい言葉で話さないでよ。私は日本人よ。日本語でどうぞ」
「我も日の本の民なり。倅は我が言の葉をわからぬと申すか?」
「ヒノモト? どこよ、その国。日本に近いの? とにかく、姿を見せて」
私は混乱しかけていたが、何とかそう言った。
「あいわかった」
と声がして、薄暗い奥から、何だか時代劇の人みたいな霊が現れた。
「ああ、もしかして、お侍さん?」
ようやくわかった。彼は昔の人なのだ。だからよくわからない言葉遣いだったのだ。
「やはり倅は我の姿が見えるのだな。ようやく巡り会えたぞ」
「えっ?」
その言葉、愛する人に言う言葉のような気がする。エロ兄貴が、女性を口説く時によく言うセリフに似ているのだ。
「な、何でしょう?」
あまりビビる事がない私も、お侍さんの霊は少し怖い。
斬り捨てられるかも知れないからだ。
「我はこの地で切腹した者。如何にしても、ここより離るる事能わず」
「???」
もはや理解不能。何を言っているのか、さっぱりわからない。
「成仏させてくれ」
それはわかった。そうか、この人、ここから出られないのか。
「わかったわ。助けてあげる」
「かたじけない」
「?」
またわからない。多分お礼を言われたのだろうと思っておく。
「地蔵真言を唱えて。そうすれば、出られるわ」
「うむ」
「私に続いて唱えてね」
私は印を結び、真言を唱えた。
「オンカカカビサンマエイソワカ」
「オンカカカビサンマエイソワカ」
一体何回唱えただろう。
お侍さんの霊が、光に包まれた。
「おお」
お侍さんは嬉しそうに叫んだ。
「娘、かたじけない。礼を申す。かたじけない」
お侍さんは何度もわかる言葉とわからない言葉を入り乱れさせながら、天に昇って行った。
「元気でねーっ!」
つい、霊には言ってはいけない言葉を言ってしまった。
うーん、何か良い事した気分。
私はスキップしながら旧校舎を出た。
そして、無断で旧校舎に立ち入った事を先生にこってりと説教されたのは言うまでもない。