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エロ兄貴がおかしいのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 もうすぐ三年生になる。十五歳が一つの区切りなのだが、私はだからと言ってお色気路線には走るつもりはない。


 え? お前にお色気なんて求めていない? 椿直美先生で十分?


 うるさいわね! どうせ私は貧乳よ! フンだ!


 


 今日はいつものように寝て曜日(お父さん談)。


 最近、毎日のように放課後になるとG県警刑事部霊感課からお迎えが来て、霊視の仕事。


 かなり精神的に疲れているし、疲労も蓄積している。


 霊感のない人にはわからないだろうけど、霊視や真言の発動には大変な精神力を要するのだ。


 疲れが「パねえ」のである。


 だから、土曜日曜は本当に「安息日」なのだ。


 ところで、安息日って何?




「まどか、起きてるか?」


 またしてもエロ兄貴が私を起こしに来た。


「お兄ちゃん、私の部屋に入る時にはノックしてよ……」


 そう言おうと思って振り向くと、何故か兄貴の顔が目の前にあった。


「いやああ!」


 私は思い切り兄貴を蹴飛ばし、ベッドから突き落とした。


「何するんだよ、まどか? 痛いじゃないか」


 恐ろしい事に兄貴は私のベッドに入り込んで来たのだ。


 いくら兄妹でもやっていい事と悪い事がある。


「何するんだじゃないよ、お兄ちゃん! いくら妹だからって、そんな事したらダメなんだからね!」


 私は身の危険を感じて後退りしながら抗議した。


 兄貴が遂に狂ってしまったと思ったのだ。


 実の妹のベッドに潜り込んで来るなんて、普通じゃない。


「お兄ちゃん、悲しいよ、まどか。可愛いお前にそんな事を言われると」


 兄貴は涙ぐんでいる。


 夕べ何か悪いものでも食べたのだろうか?


「何言ってるのよ、お兄ちゃん!? お腹が痛いの?」


 具合が悪いせいでおかしくなったのかと思い、尋ねてみる。


「違うよ。大好きなまどかを起こしに来ただけだよ。それなのにまどかがお兄ちゃんを蹴飛ばすんだもの……」


 兄貴は身をクネクネさせて上目遣いに私を見た。


 恋人の里見まゆ子さんや同級生の力丸あずささんならイチコロかも知れないが、妹の私は気持ち悪いだけだ。


 おかしい。悪いものを食べたくらいでこんな風にはならない。


 私は気持ちを落ち着かせて、兄貴をよく観察してみる。


「うん?」


 兄貴の背後にうごめくものがある。


 何だ?


 更にジッと観察してみた。


「あ」


 兄貴の背後でうごめいていたのは、どこで取り憑いたのか、大好きな妹がお嫁に行ってしまって寂しいお兄さんの生霊だった。


 偶然なのか、狙ったのか、その人の妹もまどか。但し、「円香」と書くようだ。


 全く! いい迷惑だ。よりによって、私のところに来るなんて!


「オンマリシエイソワカ」


 私は印を結び、摩利支天真言を唱えた。


「ぐびっ!」


 真言を受けた生霊のお兄さんはバチンと弾き飛ばされ、そのまま自分の肉体へと帰って行った。


 手強い相手じゃなくてホッとした。


「あれ?」


 兄貴はようやく自分を取り戻したみたいだ。


 何故私の部屋でうずくまっているのかわからなくて首を傾げている。


「まどか、俺、いつこの部屋に入って来たんだ?」


「いつでもいいから、とっとと出て行ってよ!」


 私はもう一度兄貴を蹴飛ばした。兄貴は首を傾げながら部屋を出て行った。


 その時、ふと思った。


 あの兄貴でも私が彼氏の江原耕司君と結婚すると、寂しがるのだろうか?


 いや、あり得ない。


 エロ兄貴に限ってそんな発想はないと思う。


 むしろ、監視の目が減ったと喜ぶのではないだろうか?


「あ、いけない!」


 私はその時、大事な事を思い出した。


 今日は寝て曜日なんかじゃなく、江原ッチとデートの約束をしていたのだ。


 慌てて着替えをすませ、キッチンでパンを牛乳で流し込み、トイレに走りって、その描写はカットしてよ!


 私は乙女なんだからね!


「行って来ます!」


 お母さんが何かを喚いているのを完全に無視して、私は玄関を飛び出し、待ち合わせ場所のコンビニへと走る。


「あれ?」


 その時、ふと目に留まった光景があった。


 近くの公園で、ベビーカーの赤ちゃんをあやす若い女性。奇麗な人。


 この人、さっきの生霊のお兄さんの妹さんだ。


「円香さん」


 私は同じ名前のその人に微笑んで声をかけた。


「え?」


 円香さんは驚いて私を見た。それはそうだ。


 見覚えのない美少女がいきなり話しかけて来たのだ。


 驚いて当然である。え? さり気なく美少女って入れるなって?


 いいでしょ、嘘じゃないんだから。


「ごめんなさい、驚かせてしまって。私、お兄さんと知り合いなんです」


「そうなんですか」


 円香さんは少しだけ安心したのか、微笑み返してくれた。


 しかもお題目も唱えてくれて、ダブルで嬉しい。


「お兄さんが寂しがっていますよ。たまには顔を見せてあげてください」


 私がそう言うと、円香さんはまた驚いていた。


「じゃあ」


 そのまま公園を去り、コンビニへと歩き出す。


 何だか、爽やかな一日の始まりだと思うまどかだった。

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