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寒い日の霊視は大変なのよ!

 私は箕輪まどか。中学生の霊能者だ。


 今日も放課後、G県警刑事部霊感課の課長であるエロ兄貴の慶一郎に呼びつけられ、霊視の仕事だ。


 課長補佐である兄貴の婚約者の里見まゆ子さんのご機嫌取りのため、兄貴は私のクラスの副担任である椿直美先生を呼ぶ事を諦めた。


 そのとばっちりが私に来たのだ。


「お前のせいだからな。きっちり仕事しないと、お袋にこの間の実力テストの結果をしっかり報告するぞ」


 今回は私が兄貴に脅迫されるという思ってもいない展開なのだ。


 何故兄貴が私の実力テストの結果を知っているのかというと、椿先生に聞いたからなのだ。


 ウブな椿先生は兄貴に耳元で囁かれて、あっさり話してしまったらしい。


 ちょっと問題だと思うが、証拠がないのでどうしようもない。


 実力テストの結果は「番外編」だから関係ないと言いたかったが、そんな誤魔化しは通用しない。


 私は本当に悔しかったが、兄貴に従うしかなかった。


「わかったわよ」

 

 私は口をベタな表現で申し訳ないのだが、蛸のように尖らせて応じた。


 いつか仕返ししてやる。心に固く誓った。


 


 霊視の現場はG県警から程近いM公園の池のほとり


 早朝、小学生の女の子の水死体が上がったのだ。


 警察は事故と事件の両面から捜査を行っている。


 私と大して歳が違わない娘が亡くなったのを聞き、何ともやるせない。


 「KEEP OUT G県警」のテープが貼られた中に入り、霊視を開始した。


「女の子の霊はいるか?」


 兄貴が訊いて来た。


 私は池を隅々まで見た。


 そこにはたくさんの自殺者の霊と事故死した霊が集まっていた。


 同じ死因の霊はお互いに引かれ合うのだと聞いた事がある。


 でも、そこにいるのは随分前に死んだ人達ばかりで、昨日今日死んだ人はいない。


 これは極秘情報なのだが、この池の周辺は自殺の名所になっているのだ。


 近くの住民ですらその事を知らない。


「お兄ちゃん、いないよ。ここにいるのはみんな随分前に亡くなった人達だよ」


 私は震えながら答えた。相変わらず私には防寒服の支給がないので、セーラー服の上にマフラーを巻いて、毛糸の手袋をしているだけなのだ。


 このままでは私が凍死してしまう。


「よく探したのか?」


 兄貴は不機嫌そうに言う。どんなに兄貴の機嫌が悪かろうと、私の答えは変わらない。


 いないものはいないのだ。


「探したよ。少なくとも、小学生の女の子はいないよ」


 私は寒さのあまり尿意を催してしまった。


「お兄ちゃん、トイレに行きたいんだけど」


「その辺ですませろ」


 兄貴は血も涙もない事を言い放った。


「慶一郎さん、いくら自分の妹さんでも言っていい事と悪い事があるわ」


 まゆ子さんが兄貴をたしなめた。まゆ子さんは私を見てニコッとし、


「まどかちゃん、池の反対側に公衆トイレがあるわ。そこに行きましょう」


 私はまゆ子さんと連れ立ってトイレに向かった。


「実は私も我慢してたの」


 まゆ子さんは照れ臭そうに囁いた。


 兄貴にそれを言うのが恥ずかしかったのだろう。


 まゆ子さん、可愛いな。


「あれ?」


 私は池の反対側にあるトイレが視界に入った時、何かを感じた。


「ああ!」


 尿意も消し飛ぶほど私は驚いた。


 何て事だ! 今わかった。


「まゆ子さん、わかりました!」


 私はまゆ子さんに大声で言い、トイレに向かって走り出す。


「ええ? どうしたの、まどかちゃん?」


 まゆ子さんは走ると漏れてしまいそうなのか、妙に内股で後からノロノロとついて来た。


 女の子は水死ではない。


 彼女は公衆トイレで首を絞められて殺された。


 その後で池に放り込まれたのだ。


 酷い事をする犯人だ。許せない。


 そのまま女子トイレの一番奥に行く。


 幸いな事に誰も中にはいなかった。


「まどかちゃん、どうしたの……」


 相変わらず内股で歩くまゆ子さんが脂汗を垂らしながらトイレに入って来た。


「まゆ子さん、取り敢えず用をすませてください。話はその後で」


「え、ええ」


 まゆ子さんはホッとした顔で一番手前の個室に入った。


 それを見届けてから、私は目の前のドアを押し開ける。


『いやああ!』


 女の子の霊はまだ泣き叫んでいた。


 私はそれをトイレの近くで聞いたのだ。


「もう大丈夫。もう何も苦しくないわ。さあ、お逝きなさい」


 私は優しい声で女の子の霊に語りかけた。


「え?」


 女の子の霊はようやく私の存在に気づいたようだ。


「お姉ちゃん、私が見えるの?」


 女の子は涙を拭いながら尋ねて来た。


「見えるよ。貴女をこんな目に遭わせた奴はもうすぐ逮捕するから。ね?」


 私は泣きそうになるのをこらえて言った。


「うん。ありがとう、お姉ちゃん」


 その子はニコッとしてスーッと光に包まれて消えて行った。


 ちょうどその時、ジャーッと水の流れる音がして、まゆ子さんが出て来た。


「まどかちゃん、何があったの?」


 まゆ子さんはまさしく「出し切った」という顔をしていた。


「その前に私も!」


 まゆ子さんの幸せそうな顔を見て私も尿意が甦り、慌てて隣の個室に駆け込んだ。


 


 私の霊視に基づき、捜査陣が動いて、その日のうちに犯人を逮捕できた。


「よくやった、まどか。偉いぞ。さすが俺の妹だ」


 急に誉め出す兄貴はわざとらしい。


 どうやら、まゆ子さんにこっ酷く叱られたらしい。


 自分の妹を脅かすなんて最低だと。


 兄貴はしばらくしょげていたが、やがて復活した。


 理由は、東京に行った小松崎こまつざき瑠希弥るきやさんからバレンタインメールが届いたからだ。


 例え一週間遅くても、兄貴は嬉しかったらしい。


 実は私が瑠希弥さんに頼んだのは内緒。


 そしてこれでまた兄貴をこき使えるネタもできたし。


 可愛いは正義。


 至言だと思うまどかだった。


 ところで、至言て何?

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