マジでヤバいって感じ?
私は箕輪まどか。美少女霊能者。
只今恋人募集中。
うっそー!
たまにはオープニングトークを変えてみようと思っただけよ。
つ、強がりなんかじゃないんだから!
私はまた、エロ兄貴の依頼で、殺人事件の現場に向かっていた。
「また現場、外なのお? もう、冷えは女性の大敵なんだからね、お兄ちゃん!」
私は後部座席で口を尖らせて言った。するとエロ兄貴は助手席から、
「何が女性だ! お前はまだお子ちゃまだろ?」
「な、何よお!」
「まあまあ」
そんな犬も食わない兄妹喧嘩を仲裁するのは、運転している里見まゆ子さん。
え? 犬も食わないのは夫婦喧嘩? どっちだって食わないでしょ!
「お前が不服を言うんじゃないよ。里見さんだって女性なのに、そんな我がまま言わないんだから」
まゆ子さん、自分の名前が出たので、ギクッとしたみたい。
「ねえ、里見さん」
「いえ、私はその……」
おかしな同意を求められて、まゆ子さんは困った顔をした。
本当に兄貴は仕方がない。まゆ子さんの気持ちを全くわかってないんだから。
月に代わってお仕置きしてあげようかしら?
でも私は火星も好きだし、金星もいいなあ。
「着いたぞ、かまど」
兄貴の酷い一言で、私の妄想タイムは終了した。
「かまどって今度言ったら、蘭子お姉さんに言いつけるわよ」
私はまゆ子さんに聞こえないように兄貴に囁いた。
「それがどうした?」
兄貴は強がりを言った。ならば!
「じゃあ、麗華さんに兄貴のもう一つの携帯番号教えちゃうぞ」
「!」
兄貴は仰天して、私を見た。
「お、お前、どうしてそんな事を?」
知っているのか、と言う。なんて言ってみたいわね。
「私は何でも知っているのよ」
「わ、わかったよ」
兄貴は渋々降参し、車を降りた。
「さぶ!」
私はモコモコ重ね着をして来たのだが、それでも現場は寒かった。
G県が誇るG三山の一つ、赤白山の大沼が現場なのだ。
沼は氷が厚く張っていて、ワカサギ釣りの人達がたくさん来ていた。
「こっちです」
まゆ子さんが先導してくれる。死体発見現場は、釣り人達が足を踏み入れないところだった。
「気味が悪いな」
兄貴が言う。確かに。人が足を踏み入れなくなるのは、それなりの理由があるのだ。
そこは、ずっと昔、そう兄貴も生まれていないくらい前、殺人事件があったのだ。
それは兄貴達は知らない。
私の優れた霊能力が、全てを見抜いたのだ。
「あ!」
私は、その事件の犯人が、ここで殺された被害者だと知った。
「仇討ち?」
「え? 何、まどかちゃん?」
まゆ子さんが私の独り言を聞きつけて尋ねた。
「まゆ子さん、ここで昔殺人事件があったの。多分、三十年位前にね」
「ええ!?」
兄貴もその話を聞きつけて私を見た。
「どういう事だ?」
「今回の被害者が、その事件の犯人なのよ」
「何だって!?」
被害者は六十代の男性だった。その人は、ここに縛り付けられるように彷徨っていた。
そして今、兄貴のすぐ後ろにいて、私達の話を聞いている。
「その昔の事件は、もう犯人を捕まえられないんでしょ?」
「ああ。三十年以上前だと、時効だ。裁判にかける事はできない」
兄貴は珍しく真面目な顔で言った。
「殺人罪の時効は、今廃止の議論がされているわね」
まゆ子さんが豆知識を披露した。
「そうなんですか」
ああ! 一番言いたくない言葉を言ってしまった!
これ、あのメイドの口癖じゃない!
「よし、いい事がわかったぞ。その事件を調べて、被害者の遺族を探してもらおう」
「そうですね」
ホホホ。どうよ、私の冴え。もう事件解決ね。
兄貴とまゆ子さんは先に歩いて行った。
私はニンマリとして、歩き出した。その時だった!
「ひっ!」
いきなり後ろから羽交い絞めにされて口を汚い手で塞がれ、私は身動き取れなくなった。
「余計な詮索をするな、ガキが!」
「ふご?」
私はもがきまくって、ようやくそいつの腕から離れた。
「畜生……」
悔しそうに私を見ていたのは、私のお父さんと同年代の男だった。
「どういうつもりよ!?」
私は男の臭いを拭い去るために、何度も口の周りを擦った。
「やっと仇が討てたんだ! 余計な事をするなと言ったんだ!」
どうやらその男は、三十年前の殺人事件の被害者と関係があるようだ。
「お前も殺して、あの二人の警官も殺して……」
男は目が逝ってしまっていた。人を殺した事で、頭が混乱しているのかも知れない。
「死ねーッ!」
男は服の下からナイフを取り出し、私に襲い掛かって来た。
「キャッ!」
私は逃げようとして何かにつまずき、転んだ。
しかも悪い事に厚着のし過ぎで、一人で起き上がれない。
「大丈夫だよ、すぐに楽にしてやるからさあ」
男は涎を垂らしながら近づいて来た。
「うーん!」
いろいろやってみたが、どうにも起きられない。まるで亀状態だ。
回転ジェットでもできれば逃げられるのに、などと思う余裕はなかった。
「オラーッ!」
男の振り上げたナイフが、私の美しい顔目掛けて振り下ろされた。
ああ! せめて顔は刺さないで! などと叫ぶ余裕もない。
「く!」
私は思わず目を瞑った。
あれ? ナイフが刺さらない。何?
そっと目を開ける。驚いた。
男の腕を、女性の霊が止めていたのだ。
「な、何だ!? どうして腕が動かないんだ?」
男にはその女性が見えていないらしく、酷く慌てていた。
『ごめんなさい、お嬢さん。この人は私の婚約者だったの。私が止めている隙に、逃げて』
女性の霊が言った。
「で、でも、起きられないのよ!」
私は泣きそうだった。すると、
『ほらよ』
と私を抱き起こしてくれた人がいた。
「あ!」
それは、今回殺された人だった。
『俺は殺されて当然の事をした。でも、お嬢ちゃんは関係ない』
「あ、ありがとう」
私はお礼を言って立ち上がった。そして、
「あんた、そんな事をして、婚約者が喜ぶと思っているの?」
「な、何ィ!?」
男はまだ私を殺す気満々だ。
「あんたが今動けないのは、その婚約者の人が止めているからなのよ! その思いを踏みにじらないで!」
私はありったけの声で叫んだ。男はガックリと膝を着き、地面に泣き伏してしまった。
『ありがとう、お嬢さん』
女性の霊はそう言うと消えてしまった。男の霊も、
「俺はしばらくここで修行してから行くよ。山の神様にそう言われたのでね」
「そ、そう」
私は苦笑いをして、男の霊を見送った。
まもなくして、私が来ないのを変に思った兄貴達が戻り、私は兄貴とまゆ子さんに事件が解決した事を告げた。
泣き伏していた男は、殺人と殺人未遂の現行犯でその後到着した捜査一課に逮捕された。
「まどか、お手柄だな」
兄貴が珍しく褒めてくれた。まゆ子さんも、
「凄いわ、まどかちゃん」
「えへへ」
私は照れ臭くなって俯いた。
「じゃ、帰ろうか」
兄貴が言った。すかさず私は、
「ご褒美がほしいな、お兄ちゃん」
「よし、肉屋の揚げ立てコロッケだ」
「やだよ、ファミレスでチョコパフェ!」
「いいや、肉屋のコロッケ」
「やだよお!」
そんなバカ兄妹の会話をニコニコ見ているまゆ子さんは、本当にお姉ちゃん候補ナンバーワンだ。