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今日という日に意味があるのよ!

 私は箕輪まどか。中学二年の霊能者。


 とうとう冬休みも終了する。


 最後が連休とは、冬休みの神様は何て残酷なのだろう。


 遊びに行きたいのにお母さんがそれを許してくれない。


 きっとあの人の前世は犬公方様だろう。


 ところで、犬公方って誰?


 


 年末からずっと宿題を後回しにした私が悪いのだが、それにしても連休中ずっと勉強の刑はあまりの仕打ち。


 お母さんたら、私の彼の江原耕司君がイケメンだからって、奪い取ろうとしているのね。


 本当に嫌な人。


「全部聞こえているんだけど?」


 お母さんが言った。え? お母さんも、あの綾小路さやかと同じように人の心が読めるの?


 まさか……。ウチで霊能力があるのは、私だけのはずよ。


「あんた、さっきから全部声に出して言ってるの、気づいてないの?」


 ふと顔を上げると、目の前に鬼の形相の我が母が仁王立ちしていた。


「わわ!」


 私は思わず後退りし、廊下で尻餅を突いてしまった。


「こんな美しい母親を見て驚くなんて、失礼よ、まどか」


 お母さんはムッとしている。


 確かにお母さんは美人だけど、性格が醜過ぎるのだ。


「人の悪口は心の中で言いなさい、まどか!」 


「は、はい!」


 またしても声に出していた私。気をつけないと。


 慌てて顔を洗いに行き、朝食をすませると、お勉強タイム。


 お母さんがつきっきりでそばにいるので、逃亡の余地はないのだ。


 頼みの綱は、エロ兄貴からの緊急指令だけだ。


 私は必死になって祈った。


 何か連絡がありますようにと。


 すると、その願いが通じたかのように、私の携帯が鳴った。


「あ」


 出ようとしたら、素早くお母さんに取り上げられた。


「はい。お世話になります。今代わりますね」


 お母さんは不服そうに携帯を私に突き出した。


 着信した名前を見ると、何とクラスの副担任にして、優れた霊能者の椿直美先生からだ。


 やった! これでお母さんとの地獄のマンツーマンから解放されるぞ。


「はい、まどかです」


「あ、まどかさん? 大至急出かける準備をして家の前で待っていて。すぐに迎えに行くから」


 先生の言葉に思わず笑みが零れ、お母さんに睨まれた。


「了解です」


 そして、勝ち誇った顔で机から離れる。


「仕方ないわね。できるだけ早く戻るのよ」


「はーい」


 私はマッハ(今時そんな風に速さを表現する人はいないとか言わないの!)で着替えをすませ、家を出た。


 するとちょうどのタイミングで、霊感課の大型パトカーが到着した。


 新車だ。


 あのちょっぴりエロい本部長が、椿先生を連れて県会議員さんのところを回った結果だそうだ。


 何やら大人の数学が絡んでいて嫌だな。




 パトカーが向かった先は、何と私の通う中学校。


 ええ? ここ、何かあったっけ?


 校庭にパトカーが乗り入れた途端、謎は全て解けた。


 何、この感じ?


「まどかの通っている学校って、勉強が嫌いな生徒ばっかりなのね」


 先に到着していたさやかが言う。


 あんただって、一昨年まではここの生徒だったでしょ!


「そうなんだけどね」


 さやかはまるでアメリカ人のように肩を竦めてみせた。


 そう、学校は、冬休みが終わるのを嫌がる生徒達の生霊でいっぱいになっていたのだ。


 何だか非常に恥ずかしい。


 江原ッチが一緒じゃなくて良かったわ。


「さあ、まどかさん、さやかさん、生霊を元に返すわよ」


 椿先生は早くも戦闘モードだ。


 するとそれを察知した生霊達が、急に凶悪な霊気を放ち始めた。


「何、これ?」


 私はおぞましさを感じた。


「誰かが関わっているようね。生徒達の生霊だけで、これほどの霊気は感じないはず」


 椿先生は辺りを調べ始めていた。私もさやかに目配せして、辺りを探った。


「そこね!」


 椿先生は何者かが潜んでいるのを発見し、走り出した。


 私とさやかも先生の後を追いかけた。


 確かに生霊達の霊気の中心がそちらにある感じだ。


 でも、これは……。


「これね」


 椿先生はその中心にあるものを見上げた。


 そこには、学校が建設された時に植樹された大きな桜の木が立っていた。


 桜の木が生徒達の気を集めて、増幅させている。


 どういう事?


「この木には、創立以来この学校を卒業したたくさんの生徒達の惜別の念が蓄積されているわ。最初はそれだけのものだったけど、今はもう危険になっているわ」


 椿先生が言った。私とさやかも、その惜別の念が集まり過ぎているのに気づき、思わず顔を見合わせた。


「おかしいですね、先生。何が切っ掛けか知りませんが、増幅の仕方が異常ですよ」


 さやかが木を見上げて言った。


 確かにそうだ。ただ別れを惜しむだけなら、こんなに強い念にはならないはずだ。


「そうか。そこね」


 椿先生は桜の木の根元を近くに転がっていた石で掘り始めた。


 それに気づいた私は、パトカーで待っている兄貴のところに駆け出した。


「お兄ちゃん、シャベルない?」


「はあ?」


 意味がわからない兄貴を押しのけ、私は車の中を探し、小振りのスコップを見つけ、先生のところに戻った。


「先生!」


 私は汗塗れになって土を掘る椿先生にスコップを差し出した。


「ありがとう、まどかさん」


 椿先生はそれを手にすると、ザクッと土を掘り返す。


 その様子に気づいた兄貴と恋人の里見まゆ子さんも駆けつけ、たちまち木の下には土の山ができた。


「あったわ」


 椿先生は穴の中からお菓子の詰め合わせが入っていた缶を取り出した。


「ああ、それ……」


 兄貴が目を見開いて指差した。


 そうだ。それは、兄貴達が卒業記念にと埋めたタイムカプセルだったのだ。


 本当なら、成人式に掘り返す予定だったのだが、忘れてしまったようだ。


 缶に込められた念が思い出して欲しくて必死によびかけたために、生霊達が活性化したのだろう。


 そして、今日が成人の日なのを改めて思い出した。


「懐かしいなあ」


 兄貴が缶を開いてそう呟くと、あれほど勢いがあった霊気が急速に衰え、生徒達の生霊もそれぞれの元へ戻って行った。


「一件落着ね」


 椿先生が笑顔全開で言った。私とさやかは微笑み合った。


 事件は解決したが、笑顔の椿先生を見てデレッとした兄貴には、まゆ子さんのきついお説教が始まるだろう。


 解決の決め手になった兄貴なのに、ちょっとだけ可哀想だと思うまどかだった。

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