新年早々の恐怖体験なのよ!
私は箕輪まどか。中学二年の霊能者だ。しかも美少女。どうよ?
……。久しぶりに自己紹介で遊ぶのやめてよね。
月日の経つのは早いもので、もういつの間にか、年が明けてすでに三日が過ぎた。
宿題を全然片づけていない私は、お母さんに超お説教をされ、お正月の間中、勉強させられた。
そのせいで、彼の江原耕司君とは全くどこにも行けず、実につまらない日々を過ごした。
江原ッチを家に呼ぼうにも、お母さんが江原ッチにすり寄るから、それもできないのだ。
どういうつもりなのよ、我が母は……。
よくよく聞いてみると、お母さんの狙いは江原ッチではなく、そのお父さんの雅功さんのようだ。
あんたは夫も子供もいる四十代後半のオバさんなんだよ!
そう言いたかったが、お年玉という人質を握られているので、絶対に言えない。
そんな時、親友の近藤明菜から電話がかかって来た。
「どうしたの、明菜?」
私は明菜が電話して来るのが珍しくて、そう尋ねた。
「まどか、今どこにいるの?」
明菜の声は上ずっていた。
「今は家だよ。どうしたの、明菜?」
只ならぬ気配を感じて重ねて尋ねた。
「今、美輪君とA川町のラウンドニャンに行く途中なんだけど、すぐ来て! とにかく大変なのよ!」
ラウンドニャンと言えば、あらゆる遊びができるアミューズメントパークだ。
「わかった、すぐ行くね」
私は部屋を飛び出し、お母さんに事情を説明した。
「本当でしょうね?」
お母さんは疑いの眼差しで私を見る。
「本当だってば! もう!」
私はお母さんから自転車の鍵を奪い取るように受け取り、明菜達がいる場所へと行くために家を出た。
「あ!」
家を出た途端、明菜達に何が起こっているのかわかった。
A川町と言えば、確か江戸時代に罪人の処刑場があったところだ。
どうやらそれ関連のようだ。
「やばいわね、これは」
私はサッと自転車に飛び乗ると、A川町へと向かった。
A川町は、私の家から数キロ離れたところにある。
自転車なら数分で着ける距離だが、その間の時間も惜しいほど、私は気が急いていた。
ようやく明菜達がいるところに到着した時、そこは大変な事になっていた。
散乱した木材のせいで道路が渋滞を引き起こし、舗道を歩いていた子供達が泣き叫んでいる。
「明菜!」
私は明菜と美輪君を見つけて叫んだ。
「まどか!」
「まどかちゃん!」
美輪君が明菜を支えるようにして私に駆けて来た。
「何なの、一体これは?」
私は比較的冷静そうな美輪君に尋ねた。
「わからないんだ。いきなりその辺にあった木材が宙を飛んで道路に落ちてさ……」
美輪君は困惑していた。私は気を巡らせ、辺りを伺った。
思った通りだ。刑場の霊の仕業だ。
何だかすごく怒っている。どうしてだろう?
するとそこへ江原ッチが自転車でやって来た。
美輪君が呼んだらしい。
「まどかりん」
久しぶりに会うので、とっても嬉しそうなのだが、喜んでいる場合ではない。
「怒らせちゃったんだな、アホガキが」
江原ッチが言った。そう。どいつなのかは知らないけど、刑場の碑に落書きしたバカがいるのだ。
全く、何を考えているんだか。
私は江原ッチと共に碑が建てられている場所に近づいた。
『来るな! お前達も悪さをするつもりか!?』
刑場で命を失った霊が私達の前に立ち塞がった。
「違うわ。その子に代わってお詫びします。奇麗にするから、許してください」
私と江原ッチはその霊に頭を下げた。
『ならば、その悪さをした子供にやらせろ。お前達がするのでは、私の気がすまぬ』
霊は霊圧を高めて威嚇して来た。どうしたものかと江原ッチと顔を見合わせていると、
「そんな要求は受け入れられないわ。大人しくしなさい」
と声がした。あれ、この声は? 隣で江原ッチがニヘラッとしたのがわかった。
声の主を見ると、そこにはやっぱりという感じで、クラスの副担任の椿直美先生がいた。
しかも、G県警刑事部霊感課の制服を着てね。
美輪君までニヘラッとして、明菜に脇を抓られていた。全く、新年を迎えても、男って奴は!
「落書きを消すから、貴方は下がりなさい。さもなくば、そのまま消えてもらいますよ」
椿先生は戦闘態勢だ。もうあのいつものほんわかした先生ではない。
『何だと、女!』
その霊は椿先生の怖さを知らないため、更に凄んでみせた。
「オンマリシエイソワカ」
椿先生の摩利支天真言が炸裂した。
『ひいい!』
刑場の霊は真言をまともに食らい、吹き飛んだ。あれ?
「まどかさん、耕司君、よく見てごらんなさい。あの霊は、刑場とは何の関わりもない浮遊霊よ」
椿先生が言った。確かに吹き飛ばされたその霊をもう一度よく見ると、刑場の霊ではなかった。
近所の家に強盗に入り、警察に射殺された男の霊だ。
「まだやりますか?」
椿先生は霊を睨んだ。
『ひいい!』
霊はその迫力に縮み上がり、逃げてしまった。
「これであの霊も霊界に行くでしょう」
椿先生はいつもの笑顔で私達を見た。
先生は霊を懲らしめただけではなく、落書きをした小学生を見つけ出し、落書きを消させた。
そして、どうしてここにこんな碑が建っているのか、きちんと説明し、反省させた。
その小学生は心から詫び、頭を下げて帰って行った。さすが、椿先生だ。
「先生はどうしてここに?」
私は不思議に思って尋ねた。すると先生は、
「課長に呼び出されて、霊感課に行った時、ちょうどここからの連絡を受けたの。だから、課長に送ってもらったのよ」
とパトカーを見た。そこには顔を背けたばかりの、霊感課課長であるエロ兄貴がいた。
椿先生だけ呼び出したの? まゆ子さんに言いつけるから!
全くどうしようもないエロ兄貴である。
「もうここで処刑された人達は全員霊界に行ったから、ここで祟りとか心霊現象が起こる事はないの。もしあったら、他の霊の仕業か、嘘よ」
椿先生は碑に手を合わせて教えてくれた。
「それでもね、この碑を蔑ろにしていいって事ではないのよ。刑場があった事を記すのは、それはそれで意味のある事なのだから」
「はい」
私達は大きく頷いて返事をした。
また江原ッチと美輪君はデレッとしていた。
後で明菜とダブルお説教をしなくちゃね。
今日は課外授業を受けた気分のまどかだった。